81.エミリア・アルテンリヒトという人
お世話になっております。本日からのんびりとゆっくりと更新していきます。
この回から、少しだけリアラのセンチメンタルなお話しです。
カラカラカラカラと軽い車輪から軽い音を立てて馬車が目の前を横切りそして停車する。私とお爺様、お婆様は横に並んで目の前に停まった豪華な馬車を目の前に緊張した面持ちだ。
エミリア叔母様から手紙を受け取って直ぐに私はお爺様とお婆様に相談をした。2人はエミリアおば様の行動に苦笑いを浮かべると顔を見合せ、次に私の頭を撫でた。
「大丈夫よ。ここには私たちがいるから」
優しい声でお婆様が私を安心させてくれる。
「リアラとリドクリフ殿が婚約してもう数ヶ月はすぎた。あいつも未練はあるだろうが、意外と竹を割ったようにサッパリとした性格をしている。試すようなことはするだろうがそれ以上なことはせんだろう」
お爺様が少し困ったように笑う。今では婚約者としっかりと向き合っていると話も聞いた。思っていたよりは身構えなくていいのだろうかと思いながらも、やはり目の前に停まった馬車に対面すると緊張するのだ。
何よりも、第一印象が最悪である。あの印象だったから、受け取った手紙もきつい香水のせいで、香りにあまり良さを感じない。しかしあの後に祖父母2人に聞くと、これは王都での流行りらしい。それもその理由が私に起因するとのこと。リドクリフ様に、匂い袋付きで送った便箋に香りがつくらしく、それがまた印象がいいのだとを
最近王城を歩くリドクリフ様にキツくないほのかな花の香りがして、聞かれた際に私からの匂い袋を持ち歩いており、その流れで手紙の件も伝えてくれたそうだ。柔らかな優しい顔つきをしているリドクリフ様だからか、花の香りを漂わせれば更に好印象になり、それを真似するように貴族の間で香水を買うと言う流れへ。更には、便箋に香りをつけることで相手に好感度の上げる効果をとなったらしいのだが、匂い袋からの移り香と、直接振りかけるのでは話が変わる。
匂い袋はそこまで強くないが香水は強いものが多い世界。柔らかな香りと言うのを今は研究を進めているらしいが、前世みたいにシャボンの香りとかはやはりない。そもそもが、固形石鹸の香りは油臭いのだ。しゃぼんの香りという概念はないだろう。その結果が今回受けとった手紙の強烈な匂いということだ。
――匂い袋なんて、誰でも作れると思うのにな
そんなことをぼんやりと思っていれば、目の前に停った馬車の扉が開いた。若い執事にエスコートされながらエミリア叔母様が顔を出す。
アルテンリヒト家は総じて顔がいい。豊かな金色の髪に、薄い独特な瞳が特徴だが、お婆様は王家の血筋なので、その娘、息子には数人ミルクティー色の髪や淡い緑色の瞳をしている者もいる。その例に漏れないのがエミリア叔母様だ。ミルクティー色の髪に、神秘的な薄い瞳を持つ。正しく、王家とアルテンリヒト家の混血と分かるような見た目だ。顔の造りは、フィレンカ叔母様とエイマー伯母様の丁度中間である。末っ子で甘え上手。
人を頼るのが得意な性質なのか、彼女を支えたいと思うようなお兄ちゃん気質な男の人は虜にされるらしい。それ故に、社交界では悪女なんて噂も立つが、中身は一途にリドクリフ様を追いかけるばかりだったため、そういう男は最初からばっさばっさと切っていたそうだ。潔いというか、辛辣というか、まっすぐというか。そのせいか、学園にも社交界にも敵が多いと聞いた。聞いた相手は、主に、ハルシュタイン氏とルドガー伯父様からの話。
かなり優秀らしく、成績は常に上位。更には侯爵令嬢。高嶺の花とも言われている、と付け足したのはリドクリフ様。第三者目線での話になれば苦手でもしっかりと分析ができるらしい。
そもそもが、何故この3人にエミリア叔母様の話を聞いたかは、前回アルテンリヒト家に泊まった時のエミリア叔母様の様子に疑問を持ったからだ。
「身内の贔屓目って言われてしまえばそうなんだけど、エミリアにとってフィリップの内容は、かなりショックな事件だったからね。あの子、当時は12歳でその当時のアルテンリヒト家はかなり重苦しくてキツかっただろうから。その後の逆風も幼いあの子を随分と苦しめていたと思うよ」
「覚えてる。丁度その時だったか、彼女と初めて顔を合わせたのも」
「周りから後ろ指さされるような時期に真正面から優しいイケメンに頭を撫でて励まされてしまえば、そりゃ堕ちるよね〜」
ルドガー伯父様とリドクリフ様の会話を聴きながら、あのリドクリフ様に対しての執着ぶりも納得できなくもなかった。
「エイマーと同じで正義感強いし、本人自体も今の自分の行動があまり宜しくないというのは自覚してる節はあるよ。だから、この間のパーティーでは婚約者さんに見張られていたとはいえ、君たちには近づかなかったでしょ。あれ、自分から婚約者さんにお願いしたんだって。後から聞いた話〜」
そう言って軽い調子で告げてきたルドガー伯父様の様子を思い浮かべながら、私は目の前に降り立つエミリア叔母様を見た。
しっかりとした布地の私服姿は、とても彼女に似合っている。現状17歳の若い叔母様。
17歳で沢山の甥や姪がいる。なんだったら、アーレン伯父様の長男であるアーサー様なんて15歳で、エミリア叔母様とは2歳差だ。アーレン伯父様とは父と子の年の差だ。高齢になってから産んだ娘を、随分と年の離れてしまった末妹が可愛くないはずは無いし、まだ高校生と言わん年の彼女は少し幼ささえも感じる。
「お父様!お母様!」
両親を見つけると、ぱっと華やいだ可愛らしい笑顔を向けて、2人にハグを求めて腕を広げた。その姿は年相応で、第一印象が少しぐらつきかけてしまうくらいには、無邪気だ。
親子の久しぶりだと挨拶するその穏やかな姿を隣で見あげ眺めては、少しだけ私の心はすぅすぅとした。
それと同時に、無性にリドクリフ様にお会いしたくなってしまった。




