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08.引きこもりは一瞬で体力が落ちる



 楽器店を後にした私は、普段よくしている使用人たちにお土産を買いたいと言った。輸入されてきているお菓子を使用人の数だけ買った。



 そして、ルーナをはじめとする、専属の3人には普段使いのできるヘアバレッタを。料理長には悩んだ末にハンカチを。家庭教師たちにはブローチを。侍女長と執事長には、万年筆を個別で用意した。



 料理長にハンカチを送ると告げた時、閣下はとても複雑な表情をしていたがそのわけを聞いたら、この国では初恋の人に白いハンカチを渡すのが習わしだと聞いた。私は驚いて慌てて一枚、白いハンカチを購入した。料理長のは白ではなく青色なので、私が送る白いハンカチは他の人用に別で用意しているという主張をするためだ。別にそこまで必死に弁明するように準備をしなくてもいいのだが、幼い私を胃袋でとらえたと料理長がからかわれるのもなんだか納得できないので、主張はしっかりとしていこうと思う。



 そして、閣下にもと思いタイピンをひとつ買いたいとお願いした。オシャレなタイピンが並んだ中で、鳥の羽の形をし、緑色の石が入ったタイピンを私は選んだ。閣下には何も言わずにお願いして、私の予算で買ってもらったので、会計を済ませた閣下から、私の手に小箱が置かれた。それをそのまま彼に突き返すと、目を丸くしたがこれが自分に向けたプレゼントなのだと理解した途端、たまらなく表情を崩した姿になった。そんな姿を見ると、とても喜んでもらえたようでこちらも嬉しくなる。



 そうやって街への散策を終わらせて、渡すものも皆に渡した私は、疲れたと部屋のソファで息を吐いた。



 外はすっかりと暗くなって、子どもはもう寝る時間である。私は今寝支度を整えている。金色に輝く綺麗な髪を、ルーナは丁寧に丁寧にコームで梳いて、寝癖が付かないようにゆるく三つ編みにまとめてくれる。そんな侍女の髪には、先ほどあげたバレッタが既に刺されており、さっそく使ってくれるその気持ちがとてもうれしかった。



「ルーナは、港街には行ったことあるの?」



 気恥ずかしさを隠す様に、世話をしてくれるルーナに声をかけると、ルーナは少しだけ冷たく感じるアイスグレーの瞳を私に向けると小さく頷いた。



「私、ライラック生まれなのです」


「そうなの?」


「はい。私の家は裕福な商家で、両親はよく海外に飛び回っておりましたので、ほとんど家政婦と私と飼い犬で過ごしておりました。ある一定の年齢から、しっかりと礼儀作法を教わりましたので、お嬢様の侍女として採用いただけたのです」


「そうだったんだね」


「はい」



 会話はそれで終わった。もっと話を膨らませたらいいのにと思うのだが、今日は少したくさん動きすぎた。流石に、眠くて意識が蕩け始めている。その中で私はふとあることを思い出した。



「明日から、いつもより少し早く起きる」



 その言葉に目を丸くしたルーナは、一瞬遅れて「はい」と返事をくれる。私は、眠たい目をこすりながら、ここで寝てしまってはあとで迷惑だと判断してベッドへと移動する。



「月に一回だけ、港街で歌を歌うことになって。それで、体力作らないといけないから、明日から朝は体力づくりをしたいの」



 脳が解けて口元が回らなくて。私がほにゃほにゃという言葉にしているのを彼女は真剣な顔で頷いて聞いてくれた。彼女はいつも、真剣に私の話を聞いてしっかりと理解してくれる。それだけで安心する。眠い顔のまま、彼女の相槌に笑顔を向けたがしっかりと笑えているだろうか。とりあえず、完全に意識が飛ぶ前に挨拶はしないと。



「私、ルーナが私の専属侍女でよかった……いつもありがとう。おやすみなさい」


「……っ。私も、お嬢様にお仕え出来て幸せです。おやすみなさいませ」





 子どもの朝は早い。勿論子どもの夜も早いからこそ、朝も早いのだが。私は体力づくりをするために更に早く起きた。早い私に合わせて起きてくれるルーナを心配して、合わせる必要がないと告げると、ルーナは珍しい満面の笑顔を向けて却下してきた。更には、私の生活に合わせると言ってきたので驚きだ。どうにかして説得したいが難しそうなので、こういう時は閣下に口添えしてもらおうと密かに思う。



 屋敷の庭は広い方だが、もっと広い屋敷だともっと広いのだろう。きれいに花壇が整備されているが、それを囲うように楕円に道が整備されている。その楕円の中でまた複雑に道が作られている箇所と、お茶が出来るような広さで芝生が整備されている箇所もある。少し奥には東屋もある。そう考えるとやはりこの庭はとても広いと思った。



 今日は、ここの外側の円をきついって思うくらい走る。そのあとに、残った分はゆっくりと歩いて一周する予定だ。次の日は一歩でも多く進んでいく予定。そうして、最期は走って一周できるようになっているのが目標だ。そして、今度は1周から2周と増えていってほしいなと思いながら、いきなりの運動は体に悪いので、走る前にしっかりとストレッチをする。ルーナが私に朝から動きやすい服を用意してくれたのでそれを身に着けて、しっかりと走れるような靴を履いて、私は後ろで終わった後にもろもろを準備してくれているルーナを見た。



「ルーナ」


「こんなに早くはやっぱり――」


「それは先ほどもお断りさせていただきまいた」


「――はい」



 取り付く島もない。結局、ルーナに拒否の即答が来るものだから私は諦めて素直にストレッチを入念にすると、私は立ち上がった。入念にストレッチをしたので体がぽかぽかしている。ルーナにさらっと「いってきます」というと私は意気揚々と軽い足取りで走り出した。最初の内なので、気分もやる気も満ちて、足取りはとても軽い。しかし、それもすぐに終わる。



 庭の4分の1も走っていないところから息が上がってもうしんどい。小さい体で、体力は無尽蔵寄りだったはずだが、そう言えば此処の屋敷に引っ越してからは外に出ることが滅多になくなった。更には引きこもりをしていた自覚がある。



――体力ってぇ……つけるのには大変なのに落ちるのは一瞬なんだ



 ダイエットをした時のリバウンドとは逆思考になっている。

 4分の1走ったところでひぃひぃと息が上がったので、早い段階で私は残りを歩くことにした。

一口メモ:エリシア編

割と夢見がちな少女

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