77.行方不明になりがち
背景りドクリフ・ソングライン様――その書き出しで書く手紙は何通目だろうか。一週間おきで届くリドクリフ様からの手紙はいつも、何かしら贈り物と一緒で。私も何かしら用意したいが、何か気の利いたものを思い浮かばない。最近はもっぱら匂い袋をつけて送ることをしている。ハンゼン様とエルガーに確認をとりながら、香りのいいものとリラックス効果のあるものをチョイスして、それを数日かけて干すのだ。
それを、調合して小さい巾着に包んだもので、ちょっぴり豪華にリボンを特別なものにしたり、時折マナーの授業で習う刺繍を刺したものを加えて送る。リドクリフ様からは、必ず手紙にはそのお礼と、ワンポイントくわえられている箇所を褒められたりすると嬉しい。
今日のはラベンダーの香りのものを数袋つけている。袋からラベンダーを取り出して、ベッドの横に受け皿か何かにいれて、香りを部屋に直接充満させるとそれはそれでいい匂いがしリラックス出来るし、安眠効果もある。手紙からは特に様子を伺えないが、きっと忙しくしているのだろう。しっかりと休んでほしいという気持ちを込めてしまえば、いつも送る香りはベンダーと柑橘系がメインになってしまう。
そして、一緒にルドガー叔父様にはルーナが作ったものだとつけて一緒に送る。ルドガー叔父さまも随分とマメで、必ずリドクリフ様の手紙と一緒にルーナ宛に届くのだ。そして、そこにも必ず贈り物がある。リドクリフ様ほど豪華なものではないが、ルーナが好きそうなものをピンポイントで送ってくるのだ。それを見て、順調そうに事が進んでいることに頬が緩んだ。
そうして今、私はその贈り物と一緒に添える手紙と向き合っている。
何を書こうか。何を書きたいか。沢山書きたいことはある。沢山伝えたいことはある。
エルヴィンの身長がまた延びたとか。ステラ様のこととか。マリアナ様の絵がとても素敵なこととか。ライラックの街にあった孤児院の事とか。沢山あるから書ききれない。これをしてしまうと原稿用紙が何枚あっても足りないのだ。ステラ様がエステマリア領に滞在してからは、方針が落ち着いていてそれ以上のことは起きないだろうと思っている。
強いて言うなら季節がそろそろ秋から冬になりそうだということ。しっかりと衣替えをして、最近は暖炉に火がともり始めた。冬支度はリドクリフ様やルドガー叔父様、ハルシュタイン氏たちが取り計らってくれて、今年は潤沢にある。孤児院も早急に立て直しをしてお金に困らないように、寒くならないようにと支援をした。足りない家とかないかをしっかりと確認して薪の補充も抜かりない。そもそもが、この土地は他の土地に比べると全体的に温かい。気温は低くなるが雪が降るほどではない。北国育ちだと勘違いしてしまいそうなくらいに温かいほうだ。
だから、冬支度も他の地域に比べるとまだマシなのだ。そんなことを考えて手紙を綴るが、筆はなかなか進まない。
「お嬢様」
筆を置いてぐっと天井に伸びていたとき、後ろから声をかけられる。
「少しお休みされますか」
ルーナがお茶を持ってきてくれたようだ。少しだけ海を渡った先にあるインディーヌ国のスパイスが入っている。100%自領のブレンドだ。ライラックの市場で見かけたスパイスをある分だけ買って、薬師チームにブレンドしてもらったのだ。下に載せると独特な香りがする。少しだけ舌先をピリつかせるが、ミルクと砂糖で甘く仕上がっており、癖になる。
私の最近のお気に入りだ。
私は、カップに口をつけながら手紙を見つめた。小さな手では、ペンはとても大きくて、自分で見てもとても綺麗だとは言えない字。それでも、読めるのは意識して丁寧に書いているからだろう。
本を書く時もそうだ。手の大きさに合わないペンは持ち方からしておかしくなる。正しいペンの持ち方で持ったところでぐらついてもっと書けない。
ペン軸がもう少し細身だったりすると楽なんだけどなぁ。
ぼんやりと思いながら、ふと、ないなら作ればいいのでは?と考え始めたあたりで首を横に振る。どうせ、提案はしてあとは技術者にお願いする形になるのだろうけど、これ以上なにかしらを始められる程に色々と足りないのだ。お金ではない。人材が。
特にそれを管理する人材が足りない。端々に始めたところで、最後は拾えきれずに溢れるだろう。
――やっと明日、溢れそうになっていたものがひとつ片付くのに。ここに追加はして欲しくないだろうしな
特にお爺様が。引き継ぎの時のあの目の据わってない笑みを思い浮かべてしまった。私も今何をしているのかを意識してはいるけれどちゃんと管理出来てない自覚はある。
これはいけない内容だな。手紙が書き終わったら箇条書きにして、今手を出している内容をまとめなければいけない。
私は前世から器用な方ではない。ひとつのことには集中するし、ひとつ以上のことを同時進行はできないのだ。それに最近、自分自身でも迷子になりがちだが、私が最終目標としたいのは文化の街にすることである。ここ、エステマリア領に暮らしている平民が裕福になり、それ相応に心のゆとりをもち、そのゆとりから音楽を始めて様々な文化に触れあえるような。新しい文化が発展するような、そんな街にしたいことなのだ。その為の資金調達源にハーブティー産業を導入していたりするし、それを理解するにはやはり教養が必要になってくる。最終目的の過程で小石を拾っているにすぎないのだが、それが毎回大事となっている。
割と予定外であったのは現在進行中の海辺の開拓である。なんとなしに言った言葉がここまで大事になりむしろこれが大人たちの今の目標なのだろうなと思ってはいる。
――人が増えることは何も悪いことじゃないし、活気着くからいいこと尽くめだけれど、私まで私がしたい目標を見失うのは話が違うんだよね
私は休憩で飲んでいたハーブティーを一気に飲み干すと、再度自分の手に収まらない羽ペンを握って手紙を書き始めた。




