76.挑戦:side ステラ
61話、大根役者の矯正係です。ずっと早く出したかった。この章始まった頃からステラを出そう、ステラの話しを書こうと意気込んでおりました。満を持してステラを出せました。よかった。この章ではステラは出てこないかと思った。これで、役者は一人増えました。
あの日は最悪だった。1年付き合っていた男優である彼に裏切られた日。
まさか、同じ団員と浮気をして、更にはその子との浮気現場を目撃したわたしを悪者にしたのだ。
その理由がストイックすぎるから。厳しすぎるわたしの演劇指導と、求めすぎるわたしの演劇のレベルについていけないのだと吐き捨てるように言われた。そうしてストレスをためた結果走った浮気を悪いと思っていないのだ。そこから、わたしは団員たちからはぶられていった。どんどんと悪口が広がって、どんどんと居場所がなくなった。気が付いたら、退団して実家に戻っていた。
滅多に家にいないような両親も、兄弟たちも、この時からわたしを気にしてくれているのか、アトリエにも近寄らずに家で作業をして、わたしの様子を心配してくれていた。
わたしは、母のように銀細工をきれいに作れないし、上の兄と姉と父のように綺麗な絵をかけなかった。長女のように彫刻の腕を磨くことも出来なくて、持っていたのはこの容姿だ。手は不器用を極めていて、技術・芸術一家といわれている家族の一員から外れている気分だった。その中で、たまたま兄が、依頼を受けた女優さんの肖像画依頼。そこでわたしが一緒に劇場を訪れたのがきっかけだった。公演をしていたわけではない。その日は通し稽古をしていただけなのだ。それだというのに、劇に立つ女優さん男優さん、どちらも華やかできらきらとしていた。それに魅入られて、気がつけばわたしは両親に頼んだ。
そうして入ったのは、兄が連れていってくれた劇団だった。そこで基礎を築き上げて、高めてわたしは一人前だと言われたのだ。入団したのは8歳だが、認められたのが15歳の頃。そして、長年お世話になった劇団を退団して、わたしは王都へと行った。
その年はデビュタントもあったので、王都でデビュタントを済ませた足のままま、新しい劇団へと入ったのだ。そうして、1年間過ごした劇団を、わたしは最悪な形で退団した。最悪な記憶が強く色濃く残って、楽しかった記憶がどんどんと薄れていく。欝々としてご飯もまともに食べられなくなる。そんな中で、声をかけてくれたのはマリアナ姉さまだった。本に絵を描く依頼をもらっているのだと笑って、その依頼の来ている本を貸してくれた。
それは、厚くはなくとても薄いというわけでもないその本。わたしは、気分の気休めに読んだだけなのだ。気が付いたら、ハッピーエンドで終わったその物語に安心して、泣いていた。どうしてわたしはハッピーエンドで終わらなかったのだろうか。どうして、こうなってしまったのだろうか。悲劇のヒロインではないのだと、これくらいで泣いてたまるかとこらえていた感情が一気に溢れた。いいじゃないか。こんな時くらい悲劇のヒロインであっても。被害を受けたのはわたしなのだと。好きだったのだと。本当に好きだったのだと、大きな声を出して泣いた。
感情を爆発させて大きな声で泣いて、わたしは初めてすっきりした。カーテンを揺らす秋の風が気持ちいいと思った。そうして、すっきりとした感情と同時にふつふつと湧くのはわたしの欲求。
――劇をしたい。役を演じたい。また舞台に立ちたい
視線に入った、本を手に取ってしっかりと抱きしめる。
――この本を演じたい
「劇にされるのですかッ!!!」
それははしたないと思っていても、この目の前の5歳児―本当に5歳かと疑うような5歳児―に詰めよっていた。
隣領のエステマリア地域に赴いたのは姉の提案を受け入れたからだ。篭ってばかりても、感情は落ちるばかりで意味がなく、田舎具合がちょうどいいと言われているこのエステマリア地域に、気分転換についてこないかと言われたのだ。
わたしはそれに同意した。そして同時に、この作家さんに実際に会って、この物語を劇にしないか、と交渉がしたいという邪な感情を抱えて訪れた。そうだというのに、この子の口から既にその展望があると言われる。詰め寄るわたしに均衡の保たれた綺麗な顔をきょとんとして固まった姿は、やはりとても可愛らしい。
流石に詰め寄りすぎだとマリアナ姉さまに窘められてソファに腰を落ち着かせている間に、姉様がわたしの事情を説明してくれる。そして、今度詰め寄られたのはわたしの方だった。先ほどのリアラ嬢の気持ちがわかる勢いで詰め寄られては、本人が恥ずかしそうに咳ばらいをしてかくかくしかじか、これこれしかじかと説明をしてくれる。
そしてわたしは茫然とした。まだ何も決まっていないのだ。役者は揃っていない。それは、これから揃えていくということもある。そして、わたしはスカウトされている。
劇場も、本も決まっていない。役者もそろっていない、いつ公演が出来るか分からない。それに、ただの劇ではないと説明を受けられて、その下準備にはもっと時間がかかるだろうと推定。今まで演劇しかしてこなかったところに、歌と踊りが加わる。そんなもの聞いたことがない。聞いたことないからこそ、目の前の5歳児の多才さがよくわかる。そんな発想どこから来るのか。
ただ驚いて口を閉ざしてしまったわたしに、リアラ嬢は何を感じ取ったのか、慌てた様子。そして、急に真面目な顔つきになる。
「私は、5年以内に劇団を作って、劇場を作って脚本を作って、この劇のための音楽だって作ってみせます」
色素の薄いその瞳がとても力強くわたしを見つめてくる。それだけで十分だった。彼女はまだまだ若いがわたしは……を考えてくれたのだ。
とても綺麗だが、少しキツイと言われたわたしの顔つき。幼い彼女を怖がらせないように意識して、わたしは笑みを浮かべた。
「ぜひ、よろしくお願いいたしますわ」
挑戦する理由は沢山あるけれど、断る理由なんてなかった。
一口メモ:フェリシモ姉妹②
名前:ステラ・フェリシモ
性別:女
年齢:16
見た目:長く綺麗な赤毛。くりっくりとしてキラキラとしたエメラルドのような瞳。くるんくるんなまつ毛。小さい唇と小ぶりな鼻。薄らとさす頬紅。日焼けをきにしているシミひとつない白い肌




