75.ステラ
お揃いの赤毛に、お揃いの深緑色の瞳。妹さんの方がもっと深い緑色だがとても奥深く感じる。顔の造りは比較的一緒だというのに、全体的に比例がとれているのも妹さんの方。だが、姉の丸く少しだけ下がった眉は落ち着いていて可愛らしさが際立つ。妹さんは均等の取れた顔の造りだが少しだけ勝気な目元は怖いと思わせてしまう印象だ。
「この度はお声をかけていただき感謝いたします。リアラ・エステマリア様。リアラ様のお書きになられました本の絵を担当させていただいます、マリアナ・フェリシモと申します。ユージェニー侯爵領、ドミナント地域に所属します、フェリシモ子爵家次女となります。そして、こちらが妹のステラです」
「ステラ・フェリシモと申します。フェリシモ子爵家三女です。以降お見知りおきを」
ふたりそろって幼い私にとても丁寧に礼をとる。その動きはぴったりで流石姉妹と納得させられた。
彼女たちフェリシモ子爵家は芸術一家だと聞く。父親と兄は宮廷画家に勤めているのだと、りドクリフ様から事前に連絡を受けていた。そして、目の前にいるマリアナ嬢は画家に進んだが父や兄とは別にフリーで動いていたらしい。その絵のタッチはとても柔らかく、ふんわりと包んでくれるような優しさを感じるのは、彼女の性格が出ているのだろう。
「マリアナ様、ステラ様、ご丁寧にありがとうございます。私は見ての通りまだ幼い子供ですので、気を楽にしてください。気軽にリアラとお呼び下さればとても嬉しいですわ」
愛嬌よく笑うと、目の前の姉妹はほぉっと見惚れてくれる。こういうのを見ると、顔面の良さというのは大切だとつくづく実感した。だからと言ってこの顔が誰もが好きだとは思わないし、好みだとも思っていない。現に、顔面のいいエルヴィンを好む女性と私みたいに何とも思わない異性だっているのだ。自惚れてしまいそうになる私の見た目の良さではあるが、万人が好きになって当たり前であると思ったら終わりだろう。ナルシストは悪いわけではないが、度を越してまでなる必要はないと思っている。
自分自身も自分の見た目が超絶かわいい子とは自覚しているので、褒められたりすれば嬉しいし、素直に感謝するのはやめないけどね。
現に、目の前の姉妹は私の愛嬌のいい笑顔にすっかりと心を解いてくれているのだ。出されたハーブティーに口をつけて、落ち着きながらお茶請けのお菓子を口にしてくれている。今日は、お互いの顔合わせのようなものなので、これから話を詰めることはしない。他愛のない会話を交わしながらお互いの人となりを確認する時間だ。
「マリアナ様の今回絵本にするための絵を、見させていただきましたわ。とても素敵で、私ついつい部屋に飾りたくなりました」
「そう言っていただけると嬉しいわ。リアラ様は、とても多才なのだとお聞きしましたわ。いただいた物語もとても素敵で、私どきどきとしてしまって。想像したとたんに筆が乗ってしまいました」
「わたしも、失礼ながら読ませていただきました。切ない感情や、胸がときめく感覚。きっと幸せになるとわかっているというのに、どうしてこうも切なくなるのだろうかと思って読み進めていました」
「ありがとう。そう言う感想をもらえると書いた甲斐があったわ。子ども向けに作る本だから、もう少し文章量は少なくして、絵を主に、文章は多くなくしたいの。それに、この話は劇にもしたいとも思っているの。だから、先にこの絵本が売れて、どういう話になるかをわかったうえで、劇で動くそれらに皆があっと言ってもらえたら嬉しいわ」
私はおだてられると木に登る勢いで口が軽くなる。今後の展望を伝えると、マリアナ様はまあっと楽しそうに目を細める。
「劇にされるのですかッ!!」
むしろ思い切り食いついてきたのは妹のステラ様だった。その深緑の瞳はらんらんと輝いて期待しているのか頬を染めている。飲んでいたカップをテーブルに勢いよくおろすと、テーブルに両手をついて、思い切り身を乗り出していた。貴族子女によくあるように、劇が好きなのだろうか。
「え、ええ」
流石の食い気味な勢いで私も驚いて身を引いてしまう。
「いつするんですか、本は出来上がっているんですか、役者さんたちは、場所は!?」
「ステラ、落ち着いて。リアラ様が随分と怯えているじゃないの」
そこに待ったをかけられてしまえば、ステラ様はすごすごと席に落ち着く。しおらしく謝罪を向けられたので、素直にそれを受け取った。
「ごめんなさいね。妹は、こう見えて役者だったのよ。とある劇団でも売れっ子だったのだけれど、役者間でもめ事があって。それで、その劇団をやめたばかりなの」
――ダンッ
マリアナ様の言葉を聞いた途端、今度は私が、テーブルに手をついて勢いよく乗り出す側だった。
「役者経験あり。無所属!!ステラ様、私の領地で劇をしませんか。一緒にその経験を生かして演技指導を一緒にお願いしてもらっていいですか!!」
今度はステラ様が引く側となっていた。私の勢いがあまりにも強いようだ。その少しだけきつめな顔がきょとんとした表情で固まっていてとても愛らしい。が、その表情で私も冷静になってこほんと咳払いをすると椅子に座りなおした。
「実は――」
かくかくしかじか、これこれしかじかと事情を話すとフェリシモ姉妹は考えるように口を噤んだ。劇はただの劇ではなく、歌って踊って演技をするものだと伝え、今はまだ何も決まっていない状態だということ。やりたい演目はいくつか見繕っているが、演者もいなければ脚本作家もいない。更には劇場はこれからとなると、流石に悩んでしまうだろう。真剣な顔をしてしっかりと悩んでくれているステラ様を見ると、この人が欲しくなる。色よい返事がほしいと欲が出てしまう。
だが、無理強いもしたくない。先のこと過ぎて、不安になるのも分かる。若さは時間だ。だが――どうしても諦められない。
「私は、5年以内に劇団を作って、劇場を作って脚本を作って、この劇のための音楽だって作ってみせます」
これは大見得じゃない。私の中の決断で、絶対だ。きっとそこを皮切りに、劇の内容をどんどん更新しないといけない。それだけを5年は絶対にない。けれど、遅ければ遅いほど役者人生が終わっていくのだ。私は、今目の前のこの人たちを一番に輝かせたい。
ステラ様はどういう風に私の表情を言葉をとらえたのか分からない。ただ、その形のいい唇を持ち上げながら――
「ぜひ、よろしくお願いいたしますわ」
一口メモ:フェリシモ姉妹プロフィール①
名前:マリアナ・フェリシモ
性別:女
年齢::21
容姿:
赤毛を三つ編みにしている。そばかすの多い肌。ぱっちりとしてくりくりの目元に、深緑の瞳。口許はぶるっとしていて口を大きく開けて笑うと顔の半分がなくなる。(赤毛のアンをイメージしている)




