72.目の当たりにする不甲斐なさ
街の中心からは随分と離れている。街の1番外に近いが見晴らしの良い立地にこの教会は経っていた。海もよく見えるこの場所は海風がダイレクトに当たるのか建物もガタが来ている。
木造建築だからか、所々木が腐っているところもあり踏む床が抜けそうなところもいくつか。未だに建物が健在してることが驚きだ。
まず、教会の中に入ると礼拝堂が勿論ある。そこには、立派な石像が立っており、それを正面に想像通り椅子が綺麗に並んであった。
神様たちがいらっしゃるからか、教会の外見とは裏腹に、中は綺麗に掃除されている。その真ん中を突っ切って、私たちは裏へと続く扉を潜った。ここからは居住区となるのだろい。
贅沢品はなく、とても質素な建物だ。前を歩く男女は私の足の速さを気にしてか緩やかに歩いてくれる。歩く度に床が軋んで音が鳴る。
――修繕からかな
天井は雨漏りで染み込んでおり、壁も同様にあまりいい状態てはない。
――胸が痛むなぁ
視線を逸らしてはダメだが、私の不甲斐なさについつい傷んだ胸を掴んでしまった。もっと早くにリドクリフ様にお願いするべきだったのだ。日がな一日を凌ぐだけで精一杯な子ども達を目の当たりにして己の境遇の良さを目の当たりにする。
持てるものこそ与えなくてはならない。
この現状を目の当たりちして、重くのしかかる責任という言葉に、普段、りんと伸びていた背中が丸くなりそうだ。
そうして通されたのは、応接間だった。と言っても、執務室も兼用しているのか、窓際に雑務用の大きなテーブルがドン。真ん中に向かいあわせのソファがドンドン。壁には、貴重な資料が入ったガラス扉の鍵付き本棚がドン。それ以外は特に物がなくとても閑散としている。カーテンでさえも、とても古い。
私は、ふたりに促されてソファに腰をかけた。メルべる様は、私の左後ろに配置している。出口が左側だから、なにか起きた時に抱えて逃げられるようにしてくれているのだろう。
「それで、こちらにお越しいただけましたことはとても感謝しておりますが、現状を見て如何思いでしょうか」
口を開いたのはシスターのようだ。とても棘の含まれた声音に肩が竦む。
「こら、アリア。まだ幼いのだそうキツい言葉はおやめなさい」
「ですが、神父様、このようになったのは全て領主様が孤児院に与える金銭を大幅なくしたせいでございます。ただでさえ少なかった支援金が、無駄だと一言で更にカットされました現実は現実でございますよ。それが例え彼女がしたことでなくとも、彼女の両親がされたことであれば、責任を取ってもらいたいです」
ああ、そういう事なのか。ただでさえ、自分たちの娯楽に費やした領のお金が底を尽きたと見て、必要ないとここを切ったのだ。その結果がこれなのか。親もやることをやってくれていたとは思ったが、これは酷い。人の命が関わってくるというのに。父親が昔真面目で一生懸命な人であっても、今の結果がこれであればやはり私の中の評価はあがらない。上げたくもないと思ってしまった。それが、母に唆されたとしても。
領主という役割をしっかりと担えなかった父は、やはり尊敬も出来ないし、どんなに素敵な思い出を聞かされても、何も変わらない。
いつもフィリップ・エステマリアの娘だと口にする度に羞恥を刻まれていくようで、親のしでかした事の重大さはやはり大きいものだと自覚させられてしまう。
棘のあるシスターの言葉に、私はぐうの音も出ないのだ。悔しくて喉が焼けそうで、そしてまだ無力だったと私は思い知ってしまう。
膝の上に乗せた手に力を入れて、ぐっと込み上げてくるものを飲み込んで前を見た。
「全くもってその通りです、シスター。ですが、ここで、私が頭を下げたらこの建物が全て治るわけでもございません。先ずは、支援金を大至急こちらに回させて頂きます。月々にかかる衣食住の計算された金額などありますでしょうか。毎月その金額をお渡しさせて頂きたいと思います。併せて、こちらの教会及び隣の建物の改築をさせて下さい。大至急に土木ギルドへ問い合わせを致しましょう」
私は1度話を区切ると、座っていたソフーから立ち上がった。そして、手を前に揃えると深々と頭を下げる。
「私の両親がした事をこの私の謝罪にて鎮めていただくことは難しいこととは思いますが、謝罪させてください。本当に、心からお詫び申し上げます。申し訳ございませんでした」
正直に泣きそうだ。そばにリドクリフ様がいたらもう少しだけ気持ちは楽になったのかと思う。だけど、今は私ひとりで、臨時で雇われてるメルベル様にとっては私の事情など分からないのだ。下げた頭の先で、ふたりがどのような表情をしているかわからない。ここにいる子供達をどんな思いで守ってきたのかも想像出来ない。
ただ、私は申し訳なさでいっぱいだった。私のあずかり知らぬところだろうけども、私が産まれる前のことではあるけども、私の責任として今は重くのしかかっている事だ。
恐らく私は、この半年間のことで凄く驕っていたのだろう。前世の記憶を頼りに、色々と興したこと、実行したことなどで上手く行っている実績を目の当たりにして、自負があったのだ。領民が豊かになっていると。それが一部の人たちを除くことを頭から抜け落ちていた。忘れていた訳では無い、ただ後回しにしすぎてしまったのだ。
本当は真っ先に手をつけなければいけなかった問題だった。父親たちの悪行の全容を見れていなかった。きっと、まだ、この街も含めてこの領地にはそういうのがまだ点在しているのだろう。
――もっとしっかりとしないと
浮かれていては、足をすくわれて沈んでしまう。
「頭をあげてください」
ふっと聞こえてきた柔らかな声は、神父様の声だった。先程の感情の乗せていない声とは違って、包み込むような声に不意に顔を上げると、少し沈んだ表情のシスターと優しい笑みを浮かべる神父さんがいた。




