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69.リドクリフ様のいなくなった最初の路上ライブ



 リドクリフ様たちが王都へ旅発って数日。毎月行われている路上ライブには、普段はリドクリフ様くらいだったところに数人の護衛とルーナとエミルがくっついてきた。



 護衛は、一応このエステマリア領で騎士の職業をしている人たちがいるのでその人たちに依頼料を払ってお願いしている。勿論、領主を守るのは仕事であるのでこれは業務圏内だ。だが、私はいまはまだ領主ではない。領主代理として立つリドクリフ様やお爺様たちとはやはり少し立場が変わってくるので、しっかりと別で契約料を払っている。将来私が領主となった時はその業務内に入れさせてもらうという話は既にしている。なので、将来は別で契約料を払うつもりはない。それまでに、彼らの賃金をあげるつもりだしね。



 そんなことで、本日は少しだけ人が周りに多い。私の隣に立つのは、護衛騎士として来てくれているメルベル様だ。



 ここで私の歌を聴いてくれる人たちは、私がいい出自の子ではあるのは分かっているが、悪徳元領主の娘だというのは分かっていない。商家の子どものような落ち着いたワンピースが殆どだし、リドクリフ様に至っても同様だった。だから、今回メルベル様も身軽な格好をお願いしている。その分危ないので危険手当も含めて支給していた。一応は、騎士団の中では体術に優れている人をお願いしていたので、このメルベル様は体術もすごいのだろう。



 短い髪に、きりっとした顔で、体躯のいい男が背筋を伸ばして私の斜め後ろで後ろ手に腕を組んで立っている姿は、少し異様だ。真面目な人なのは、挨拶の時からわかっていたが、皺のないシャツのようにぱりっと真面目な人だ。



「おう、今日はあの柔らかいお兄ちゃんじゃねぇのか?」



 私がライブの準備をしている時、いつも一番前に陣とっているおじさんが気さくに声をかけてくれる。それに、真面目な性格のメルベル様は反応しかけたが、いつもの他愛ない会話なので、乱闘騒ぎが起きてしまうのは申し訳ないと、私が慌ててその間に入る。



「そうなんですよ。リドさんは、半年間位王都で仕事が入ってしまったので、今日から春にかけてまでは他の人が隣に立ってくれているんです」


「そっかそっか、リアちゃんは寂しいなぁ」



 ここでは、私はリアと名乗り、リドクリフ様はリドと名乗っている。更に、私とリドクリフ様は立場的には逆だ。ここの人たちは、救世主はリドクリフ様だと理解はしているがその顔までを知らないのだろう。併せて、15歳と20歳ってかなり顔付きも変化している。まだ少年のあどけなさの残る15歳と完全に大人の色気をまとっている現在では、当時、顔を見ていても恐らく反応が難しいだろう。王族特有のミルクティー色の髪色と、若草色の綺麗な緑の瞳はしっかりと特徴として出ているが、他の貴族にもそれは見られる。更にこの街は思っている以上に人の行き来も激しいので、全てを覚えている人なんて、殆どいないのではないかな。ということで、私は路上ライブの時はリドクリフ様を護衛に後ろへ従えていたのだ。ばれてしまえば、王族に何をさせているんだと両親以上に罰が重たそうだ。死刑より重たい罰ってなんだろう。とか思いながら、私は声をかけてくれたいつものおじさんに手を振ってライブの準備をする。



「随分と気さくなのですね」



 場所に戻ると、小さな声でメルベル様が声をかけてきた。真っ黒い瞳がじっとこちらをみて少しだけ怖い。



「ここに集まってくださっている人たちは、私をリアラ・エステマリアだと知らないからですよ。大店の商家の娘さん程度にしか思っていないんじゃないですかね。だから、同じ平民だと思っているからこうやって近くなれるんです。私はそれでいいと思っていますよ。邸に籠っていただけじゃ聞こえない、皆の声がとても近くに聞こえるから」



 そういって、下から空を見上げるようにメルベル様に言うとその真っ黒い瞳がまん丸くなって驚いていた。そして、準備を続ける私と、既に道の半分が人で埋め尽くしてお店前に集まる人たちを交互に見比べては、少しだけ眩しそうに眼を細めているのに、私は気が付かなかった。



「さて」



 私の準備が完了して、椅子に腰を掛ける。目の前には譜面台と、手書きで書いた譜面をのせれば最後にギターを構える。



「皆さん、声聞こえていますか」



 口の中で生活魔法の送風を少しだけ強めにした術をかけて声をのせる。後ろまで届いたら手を挙げてというとしっかりと最後尾まで聞こえたらしい。しっかりと手が上がってくれる。一番前は、店主の計らいで3列分くらい準備してくれているので子どもたちも含めてしっかりと座ってくれていた。ここからは壇上とかになっていないで、本当に平地に放物線を描いて人が集まっているだけなので、下から皆を見ている感じだ。見える範囲で観客に視線を送るとひとつ小さく頷いた。



「今日も来てくれてありがとー。最初はそんなにいなかったのに、今ではこんなにたくさんの人が毎回来てくれるの本当にうれしいよ。今日からいつもいてくれたリドさんは王都に仕事で春まで居ないけど、私は毎月冬もしっかりと歌うから、良かったら来てくれると嬉しいな。それじゃあ、一曲目から――」



 魔法のお陰で、声を張り上げなくてもよく通る。私がライブをするときはこの通りは人が集まって基本通れなくなるので、賑やかな通りほど雑踏もない。そんな空気の中で、ピックをしっかりと握りしめると、コードを抑えて楽器を奏で始めた。



 最初は、前世の有名な曲をカバーしたものを2曲ほど。そのあとに、私が作ったオリジナルの物を続けて4曲ほど。3曲歌ったあたりで、一度MCの時間だ。MCでは絶対にこの通りにある、この時間帯は迷惑をかけているお店の宣伝を行っている。併せて、ここに来ている人たちで、今宣伝したいものがないかを飛び入りでさせたりしている。そうしたらいつの間にか、売れ行きも良くなったと笑ってくれるので、人気のコーナーになっていた。



 そして、それをするだけでお店も何もかもが盛り上がるのであれば、私はそれだけでこの路上ライブは成功なのだと実感するのだった。



私は、子どもの頃の顔と大人になった顔って随分と変わると思っているので、15歳のリドクリフの顔と20歳のリドクリフ様の顔は随分と変わるんじゃないかと思っています。更に、リアラも随分と変わると思うのですが、それこそ魔性の女になるのかなと思っています。

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