67. 大人の会話:side リドクリフ
「私は拗ねているのだよ、スヴェン」
ルートビア殿は気兼ねなく、スヴェンダ殿に声をかけているのをよそに、私は捨てる牌を選らんでいた。
本日からやってきたアルテンリヒト前侯爵閣下を交えて、遊戯室で麻雀をしているのだ。
先日、リアラが買ってきたこの東洋の遊戯。文字は何を書いているか分からなかったのが、リアラは知っていたのかこの麻雀のルール説明をしてくれた。あくまで基礎的なものであると言っていたが、その基礎的なものも分からなかった私たちは、とりあえず読めない言語で書かれているルールブックを片手に始める。一応、役というものも絵柄付きで書かれている。なので、それを見て役を組んでいるのだが。
これが思った以上に心理戦だ。皆が皆して感情を隠すのが上手い人たちばかりなうえに、捨てる牌に余念がない。リアラ曰くは、すごい人は捨てている牌で相手の持っている牌と待ち牌が分かるとのことだが、そこに至るまではまだまだらしい。そして、リアラはあまりやりたがらないので、仕事が終わった夜の時間に私、スティルス、ルドガーとルートビア殿の4人で卓をかこっていた。それが思っていた以上にのめり込んだ結果、仕事終わりの息抜きによく雑談と交えて対戦することとなった。
仕事中は回らなかった頭もこのタイミングでは随分と回るのか、締まっていた何かが緩んだ結果にあふれてくるのかは分からないが、時折仕事以上の内容が決まっていたりすることもある。
この宅は円卓みたいに四角い宅に四面でで座っていることもあって顔を突き合わせている。だからなのか、自然とそういう仕事の内容になることが多かった。
そうして、本日はスヴェンダ殿を誘って、横にスティルスが指導しながら一緒にこうやって卓を囲んでいるところでルートビア殿が突然気さくにスヴェンダ殿を呼び始めたのだ。
「何に拗ねているんだ。ルート」
しれっとしながら、私から次の番のスヴェンダ殿が牌を捨てる。
「なにとは、しらばっくれているな?リアラ嬢の婚約のことだ」
「ああ、そのことか」
「ああ、そのことか、ではない。なぜ安易に決めた!!」
「むしろ、今のルートのような奴が現れるから早い段階からリアラのを決めたんだ。むしろ賢明な判断だろう。しかも相手は不足がない。ルートほどの相手でも文句は言えないのだからな」
その相手がここに現状いるということを忘れていないだろうか。しれしれっと言い切ってしまうスヴェンダ殿もスヴェンダ殿だ。ド正論をぶん投げられて、ルートビア殿も押し黙っていた。確かに、同じ年同士の幼い子どもの集まるお茶会などに参加したらとんでもないことになることは想像にたやす過ぎる。
何度も言うが、目立つあの容姿だ。そして、あの礼儀正しい態度。回る頭に、目新しいアイデアを出すあの発想力。そして、私との強いパイプ。既に、王子という肩書はなくなったが、実質王位継承権は第4位になる。余程のことがない限りはありえないが、その余程のことを起こそうとする人だっていたりするのだ。警戒するに越したことはない。
「それならフランシス様との婚約も取り付けることも可能だったんではないか?」
選んだ牌を捨てながら、ルートビア殿がそれとなく発した言葉に少しだけ私が反応してしまう。次の番のルドガー殿がちらりと私の方に視線を向けるのが分かる。そして、私の代わりに口を開いてくれた。
「ルートビア殿も理解しているでしょう。それをリアラはきっと望んでいない。彼女自体がこの領地から出る気がさらさらないじゃないですか。それに、これから発展していく領地を最初まとめ上げるのはリアラだけにしか無理でしょうし、ここ一緒に政策しているリドクリフ様くらいしか難しいと思われますよ。そのノウハウを上手く受け継げるように土台を築き上げている最中で領地を離れてしまうのはあまり得策ではない気もしますしね。第二王子のジュード様は同い年で、それならばジュード様とご婚約をするのもありかと思いますが、それも同様にノウハウを固めているリドクリフ様の代わりは厳しいでしょうね。途中から参戦している私でも時折難しいというのに。これから引継ぎをされるお父様がお可哀想になるくらいですよ。やっていることが多いので、その整理といきなりぶっこまれるリアラの発想力とで最後、脳内大混乱を招いているんですから。と、それロンです」
哀れみの瞳を向けているがいいのか、ルドガー殿。そして、言いだしづらかった私に代わって全てを返答してくれて有難い。が、同時にしれっと上がっている。口は動いていても思考は回っているようだ。流石、天才と言われただけある。ロンをされたスヴェンダ殿から点数をかっさらって初心者であるスヴェンダ殿を叩きのめしていた。この時点で点数は0になったので、この局面では一度お開きとなる。
同時に、用意されていたワインを口に含みながらそれぞれが卓に向けていた視線を上げてそれぞれ顔を合わせた。
「それは分かっていたことだがな。少しくらい他の家にも声をかけるとかもありだっただろうに」
「それをしたら全家からお見合いの釣書が届く上にリアラはもっと結婚というものを懸念してしまうだろうね。今がベストで落ち着くべき結果だったんですよ」
結局はルートビア殿は分かっていたのだ。わかっていて駄々を捏ねてみただけなのだ。それを私もスヴェンダ殿もしっかりと理解している。だからこそぐぅの音もでなかったのだろう。
契約的に結ばれた婚姻だ。彼女が15歳になるまでに私は相手を見つけないと、彼女を開放してやれないが、彼女も15歳までに相手を見つけなければこのどろどろっとした大人の事情に巻き込んでしまう。将来他の人と添い遂げるリアラの姿を想像すると、兄弟のことで大泣きする兄の気持ちが少しだけ分からなくもない。更には、少しだけ感情がもやっとしてお腹のあたりがむかむかとするこの感情はなんなのか。娘を持った親の気持ちに近いものなのだろうと思いながら、散らかした、卓上を整理していた。
気が付けば、話はリアラの婚約者から、この領地に立てる別荘の話へと変わる。既に、ゼビエ前侯爵夫妻はこの話が出た傍から確約していたため、そういうなればスヴェンダ殿たちもこちらに移り住もうかと楽しそうに話していた。毎年秋から冬になるたびに5日間かけて移動もしたくないだろう。妻と話して、冬の内に屋敷を建てて来年の春からはこの領地で過ごしてもいいと言っていた。そういう考えの人たちが多いとなれば、別荘地開拓も間違いないだろう。
そうやって夜深い時間に、大人たちの雑談は口に含んだワインと共に和やかな雰囲気でしっかりと胃の中に落としていった。
一口メモ:ルドガーがこのメンツの中で一番強い




