63.そう、これは食後の雑談のつもりだったのだ
「石鹸がどうしたんだい」
少しだけすごんでいる声に、飲んでいるハーブティーが喉に詰まる。
「あ……いや……」
この世界に石鹸はある。衛生概念が割とあるのは平民の時から思っていた。それでも平民の家には基本お風呂なんてない。大きな桶にどうやってかあっためたちょうどいい温度のお湯で軽く流すとかだ。今だと分かる。あれは生活魔法でお水をお湯にしていたのだろう。今は、毎日お風呂に入る習慣があるがそれは上流階級だからだ。それでも、平民だった時でもしようしていたのが石鹸だった。
良く想像する石鹸の香りというものはなく、無香料のオイルのにおいがしっかりとするものが主流だ。だから、ふと思ったのだ。思ってしまったのだ。前世の記憶が織りなすあの香りが豊かな石鹸たちを。
「いい香りのする石鹸があったら売れるかなぁって思ったのですが……」
今、更にハンゼン様が行っている研究を生かして肌に良い石鹸というものもプラスで開発できれば更に売れ行きはいいんじゃないかなぁとか思っています。はい。
リドクリフ様は、私の言葉に目を細めた。
「よくも、まぁ、短期間でぽんぽんと出てくるね」
色々と諦めたような様子。ハルシュタイン氏がどこから出したのか羊皮紙と筆ペンをとりだしてくれた。
「それで?」
「ん?」
「そこから派生していろいろと考えているんだろう?ほら、全部聞くから」
流石は私のことをよく理解してくれている婚約者様(仮)である。既に、頭のなかで何か土台を作っているんだろうなと思いながらぽつぽつと案を出す。それを全てまとめていくリドクリフ様も慣れたものだ。
私は基本こういうのには携わらない。アイデアだけを出すが、それ以上のことは基本その場に居合わせるが、そこまで関わることはなかった。理由は簡単。何もできないからだ。石鹸の知識もないし、ハーブティーの知識もない。建設の知識もなければ教育の知識もない。前世の記憶からこういうのあったらいいなあって思うだけで、それを叶えてくれているのはいつも周りの人たちばかり。だからこういうのは専門の人たちに投げることが多い。領地開拓のように、領に携わることではあるが、開発となるとその手の専門家が殆ど一気に引き受けてくれるように手配をする。それの指揮を執ることはほとんどあるし、使った時の感想などはしっかりと私が監督するが、成分などはよくわかっていない。
だから研究してくれていたり生産に携わる人たちには出来るだけ、お礼としてお金や誠意で返しているつもりである。そもそもがこういうのは、前世含めて消費者であり生産者ではないので、知識もないのだ。だから、アイデアを提案するだけで、たいていは成分や使い心地などは手探りで色々と研究を進めてくれている。
お陰で、ハンゼン様がこの間、研究レポートを一本書けるヨって死んだ目で言っていた。無理しなくてもいいと言ったが、実際にこの製法が世間に渡れば薬師たちも考え方が柔軟になってくるのだと、今度は柔らかい笑みで頭を撫でてくれる。ハンゼン様は本当に、ギャップの塊過ぎて気が付いたら私も懐柔されている。
ハンゼン様って見た目に反して本当に面倒見もよくて優しい方だからか、出入りしている作業の方たちが懐いているのだ。その中に年の近い男の人もいたから、ハンネ先生も気が気じゃない。お陰さまで、私の授業も含めてハンゼン様が常にいる温室が見えるところで授業を受けている。基本は外でするから黒い外套を羽織っているのだが、真夏の黒い外套はものすごく熱を吸収し今にもぶっ倒れそうだった。
室内でもいいというと何故かあたふたと言い訳を述べて温室の見えるところで授業を行おうとするのだ。そんなに気が気じゃないなら、なぜ婚約を解消したのか。さっさと当たって砕けてしまえと思いながら、ハンネ先生の授業を受けていた。
話がぶっ飛んでしまったが、そうやって今はハーブティーの生産が安定している。基本数が限られているから少数でしか出ていないが、それでもそれなりの稼ぎがあった。
そこに、香りにちなんで精油などでいい香りのする石鹸やアロマキャンドルとかできたらいいなとか思ったのを、素直にリドクリフ様に吐露をした。見た目も綺麗なのがいいならば、実際にハーブを織り交ぜて作るのもいいかもしれない。形が四角いだけの石鹸は面白みがないから、彫刻家とかに彫刻をお願いして可愛らしい形とかにすれば、お土産品になるかも。
一度、溢れたアイディアは取り止めなく零れていく。リドクリフ様が全てを聴いてくれるので楽しくって次々に流し込むと、言った傍からそれをメモしていってくれる。
「なるほどね。ハーブティー産業が発達しつつあるからハーブにちなんで更にということか。ありではあるなぁ。というか、綺麗な香りの石鹸なんて思いつかないんだけどね。普通、石鹸はああいう香りだしね」
「蝋燭も同様に、ですね」
「なんだったら、ブーゲンビリアのどこか敷地に広大な植物園を作ってしまって、ハーブ園と薬草園兼用にして、一般入場で少しだけお金をもらう形にさせるとかもひとつの町興しとなっておもしろそうですよね。実際にその植物園は、ハーブや他の植物の栽培所としてもいいですし一石二鳥になりませんかねぇ」
何気ないひとことだった。反省はしているが後悔はしていない。リドクリフ様もまさかこの言葉をそれだというように乗り気になるとも思わなかったのだ。
今建設してもらっているガラス張りの温室をもう少しだけ拡張して、更には周りをしっかりと耕して植物園にする計画が簡単に練られてしまった。
そして、王都に帰るついでに、王都ではあまり日の目を見れていない駆け出しの植物学者と彫刻家の卵たちも呼ぶようにすると軽い感じで約束されてしまった。
一口メモ:最近領内で雇用しなくてはいけないことが増えている。人件費は気になるが、人が少ないのはもっとだめだなとかも悩んでいる




