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06.私の新しい相棒



 閣下は私の指し示す方へと、素直に足を向けてくれた。そこは露天だとかそういう物ではなく、建物にあるお店だった。外に飾られたようにあるギターの他に、店内には様々な楽器がある。前世の楽器屋さんでも、高級なお店を思い浮かべながら、私は閣下から降ろしてもらう。重たい扉を押して中に入ると、扉の上についてるベルがちりんちりんと鳴った。



「はい、いらっしゃいませ」



 中から随分と落ち着いたロマンスグレーな店主が現れると、私を見て優しい笑顔を向けてくれる。



「あの、店先に見えるように飾ってある楽器が見たいのですが」


「おや、珍しいお客さんですね。あちらは、南の国のもので、珍しくて入荷したんですけれど、誰も弾き方がわからないとのことで。飾ってはいたけれども見たいと言ってくださるのは初めてですよ」



 穏やかな声でそう言いながら、意気揚々とした雰囲気で店主は奥に引っ込むと、アコースティックギターを持ってきてくれる。



 綺麗な木目で出来上がってるそれは、しっかりと整備されていて、幼いながらにも人目見て高いものだと判断した。手には触れずに、店主が持ってるのをいい事に正面に横にと眺めながらほぉっとため息が出てしまう。



「欲しいのかい?」



 そんな私の後ろで、私の様子を見つめる閣下が不思議そうに尋ねてきた。



 欲しいか欲しくないかで言われてしまえば、即答で欲しい。しかし、



「この大きさは、私が持つには大きいので。これ、恐らくここの事をペグっていうんですが、ここに手が届かないと思いますし、更に低音出すために離れた場所を抑えないといけないですけど、これも届かないので、大丈夫です。ただ、立派なアコースティックギターだったので、ついため息が出てしまいました」



「おや、お嬢さんはこの楽器の名前をよく知っていらっしゃるんですね」



 店主のその言葉にギクリと肩が跳ねた。前世の記憶ですなんて言えないので、笑って誤魔化していたら店主は何も言わずにギターを引っ込めた。



「確かに、これはお嬢さんには大きすぎますね。少しお待ちください。子ども用のものもあったかと思いますから今お持ちします」



 そう言って、店主は再び店の奥に引っ込んで行った。その間、閣下の疑わしそうな視線が後ろからひしひしと刺さる。これは、さすがに言えないなぁと思っていれば、深いため息と同時に、鋭い視線が止んだ。



「あの楽器は初めて見るけど、どういうやつなんだい」



 誤魔化されてくれたらしい。いつかは話さないとならないのかなとは思いながら、今は素直に誤魔化されてくれる閣下に感謝した。



「そうですね。あの長いネックに張ってある弦を抑えます。抑えた後に弦をかき鳴らすと綺麗な和音になるんです。それをリズム良く刻みながら歌を歌ったり。逆に音階のように1本1本を引くと、メロディーになったりします」



 閣下はピンと来てないのか、「へぇー」と曖昧な返事。そんなことをしている間に、奥に引っ込んだ店主が、子ども用のアコースティックギターを持って来てくれる。今度は、店主が私に直接渡してくれるので、落とさないように丁寧に手で持つと、自分とちょうどいい大きさのギターに感動する。



「お貴族様の音楽の教養に需要があるかと思って輸入したものでして、教育用に子ども用のものも輸入していて良かったです」



 手に持つと、しっくりと馴染み、とても懐かしく感じるこのギターに感動した。ついつい目を輝かせては、ギターを抱えようとして座る箇所を探す。



「椅子って、ありますか」



 店先には特に椅子がなかったので、店主さんにリクエストを挙げると、素直に椅子を持ってきてくれる。



「試し弾きしてもいいですか」



 準備してくれた椅子に腰をかけながら、ネックの方を左に、ボディを支えるために足を組んで、ボディの窪みでしっかりと支える。前世の染み込んだ体制は、今世でもしっかりと体が覚えているようで、すんなりとその体制にできた。



 店主と閣下が興味津々にこちらをじっと見つめるので、恥ずかしそうにひとつ咳払いをした。何を歌おうか、と少し悩んだあと、私は前世で流行ったラブソングを歌おうとコードを鳴らし始めた。



 それに合わせて、地面についてる足が自然とリズムを刻む。



 覚えているものだなぁと思いながら、私は花の名前のタイトルがついた、有名な歌を歌う。黄色寄りのオレンジの花の名前の歌。少しハスキーな声の女性が歌う、あの夏の香りのするラブソングを。



 私の作った曲では無いが、良く無料動画とかで弾き語りをしていたなとか、思い出しながら懐かしさを覚えて。久しぶりのこの感覚に、楽しくってメロディーを口にしながら歌を歌う。この国の言葉で、上手く修正をかけながら歌うが、すんなりと口から出るメロディーからは、言葉が溢れることもない。



 思ってたより歌いやすいと思いながらも、普段歌う練習をしていない声は時折音程を外してしまう。それもたかが知れていた。思い出すようになぞる歌声は、思った以上に体は対応してくれるので、この体は、歌の才能に溢れていると噛み締めてしまう。



 最後のコードを引き終わると、目の前の2人だけの観客がぱちぱちと盛大に拍手をしてくれる。5歳へのリップサービスではないかと思うくらいには、2人とも物凄く感激して拍手するので少しだけ焦ってしまった。



「初めて聴く曲調と歌詞だね」


「ですが、とてもしっくりとしていて胸に沁みました」



 この世界にj-popなんてないから、それは聞いたことの無い曲調とになるよね、と冷汗をかきながら不意に痛む指先に気がつく。



 ピックがないので、指の爪で弾いていたがやはり赤くなっている。切れてはいないが、この柔らかい手では少し腫れていた。さらに、コードを抑えていた手もじんじんして痛い。家に帰ったらルーナにハンドクリーム塗ってもらわなくては。

一口メモ:メイドその2

名前:エリシア

年齢:15

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