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59.おまけ:大人のおもちゃ

話数があまったので、本日はおまけ話2本立てで投稿させていただきます。



「暇だ」



 やることがないわけではない。むしろ、私は勉強が多い。だが、それから外れると娯楽の少ないこの世界はものすごく暇なのだ。まだ幼いので、昼寝などをすればいいのだが、8時には寝ているからか、下手に昼寝をすると寝られないので、出来るだけ昼間は起きているようにしている。そうしたら、私の自由時間は思っている以上に多い。普段は、作曲をしたり勉強をしたりしているのだが、日曜日はそれらを強制的に奪われてしまうので今はひたすら暇をしていた。



 ルーナにリドクリフ様に止められたのだ。一日は何もしない日を作れと。それでこれだ。何もしないというのはなんとも暇である。



――私に暇を与えるならリドクリフ様だって休みにしてくれればいいのに



 私に暇を出させたひとりは今日も忙しそうに執務室の机で書類とにらめっこしている。そろそろスヴェンダお爺様と交代して王都に帰るために休み返上でルドガー伯父様と一緒に引継ぎ資料を作っているのだ。



 私が資料を増やす元凶なのだから申し訳ない。だが、こういう暇なときに遊ぶものってあるのだろうか。



「ルーナ」



 そっと部屋に呼びかけると、気配を消していたルーナがすっと出てきた。



「なにか遊ぶものってある?」



 できれば一人で遊べるものがいいなとか思ってふと思った。この部屋、ぬいぐるみすらない。



 私の質問に気まずそうに視線をそらしてくるのでそういうことなのだろう。そうだ、私の部屋って殺風景なのだ。それはもう、寂しいくらいに。



 今まであまり気が付かなかったが、そもそもどういう遊べるものがあるのかすら分からない。前世は、たくさんおもちゃがあったがこの世界のおもちゃがどんなものなのか想像もつかないのだ。



「ルーナいけないわ。私まだ5歳なのに5歳のいる子どもの家におもちゃもないっていうのはダメよ」



 そういって私はやる子となってうつ伏せになっていたベッドから飛び起きるとお出かけしましょうと告げる。私からの外出の提案に珍しくルーナは目を輝かせた。




 そうして、あれよあれよ準備を整えると私はルーナを連れてライラックの街へと出たのだ。



 日差しの強い南西部の夏は絶対に日傘をさしている。外での野外ライブの時も、店主さんが気にして私の日傘を持ってくれるほどだ。そんなライラックは春だろうと夏だろうと何曜日だろうと人が多くて賑わっている。今日はルーナとだけの外出だ。普段は絶対にリドクリフ様はいないといけないし、ルーナが付いてくるならルドガー伯父様も一緒ではないとならないから、2人きりで出かけるのはとても珍しい。



 ルーナは生まれも育ちもライラックだからか、この道は歩きなれているようだ。私の日傘を持ちながら危なくないように歩いてくれる。



「ルーナ、おもちゃ屋さんってある?」



 そういえば、私は4歳まで平民だったんだけれど、家が特別裕福ではなかったこともあってあまりそういうのはなかった。父が公務員をしている事もあって、貧乏ではなかったのは確かだ。それでも、おもちゃはなくて、ぬいぐるみも欲しがるほど寂しくもなかった。いつも人が近くにいて、近所の子たちと外で追いかけっこをしていたから何も暇にはならなかったのだ。今は、周りが大人しかいなくて、彼らは彼らで忙しい。更には立場というものがあって、外で走り回ったり気に登ったりはしない。勿論友だちもいないので尚更一人でいる時間が多い。



 だから昔にはそういうのは興味はなかったが、今になって必要なのだと思う。



「ございますよ」



 小さく口角を上げて私に頷いてくれるルーナに安心した。おもちゃ屋さんがなかったらどうしようかとはらはらしたくらいだ。だが、おもちゃの概念はあるみたいだからないとは思っていなかった。とりあえず、ルーナが私を先導するように歩き出したのを追いかけて着いた先は、「ケネディック商店」と書かれた建物。



 赤く塗られた可愛らしい丸いドアにカラフルな煉瓦造りの建物だ。とても目立つそれは、確かにおもちゃ屋さんだと言われるくらいには子どもの興味関心を惹く。そんな建物の扉を躊躇なくルーナは明けて入っていった。



「はい、いらっしゃいませ。って、お嬢様お久しぶりですね」



 店主なのだろう、丸眼鏡の優しそうな青年が出迎えてくれた。



「久しぶりね、ジャック」


「領主邸に行ってからなかなか帰ってこないと、オーナーたちが寂しがっておりましたよ。坊ちゃんはこの間、時間が出来たからと返ってこられておりましたが。どうでしょうか、エステマリア領の時期伯爵様はまだ幼いとお聞きしております。前領主様がそうだったので、もしかしてかなり我儘だったりしていないかと随分と――」


「ジャック」



 ジャックさんと呼ばれた青年の言葉をぴしゃっと止めるルーナの気迫はすごい。



 私はそこまで気にしていないよと言いたいが、気にしてしまうのがルーナだ。



 私にくるっと体を向けると深々と頭を下げる。



「うちの従業員が随分なことを申し訳ありません、お嬢様」



 そこで、ジャックさんが私の存在に気が付いたのか蒼い顔をしている。口は災いのもとだ。見知った人が来たとしてもその周りをしっかりと見ないと取り返しのつかない事になったりする。



「いいよ、前もって伝えていないで突然来た私も悪いから。気にしないで。それに、今こうやってルーナが頭を下げてくれたし、なんとも思っていないから平気。だからね、ルーナおもちゃ見せて」



 頭を下げるルーナを下からのぞき込みながら、ルーナの手を握ると安心したようにルーナが笑った。



 あの後、ジャックさんも深々と頭を下げてきたがさらっと許すと、少し涙ぐんでいた。



「ここって、ルーナのお母さんたちがやっているっていう商会なの?」


「はい。と言っても大きい商会ですので、その一部という感じですが」



 やはり、ルーナの家は大店なのだ。海外を飛び回っていると言っていたから予想はしていたが、これが一部なのかとお店を見て回った。可愛らしい色使いで仕上げられている。カラフルなのは子ども向けだからだろう。私でさえも胸がわくわくするのだ。だが、おもちゃ屋さんという割にはパッと目が付くのはぬいぐるみ類だろうか。あと、あまり多くの物がない。広い店舗に見栄え良く置いてあるが、おもちゃの種類も量もそこまでないのだ。すかすかしているように見えないのはこの店のレイアウトのお陰だろうが、前世の大手おもちゃ屋さんのごちゃっと物が置いてあるのを想像してたらお洒落な本屋さんに連れてこられたみたいな感覚。



 船の模型に、ぬいぐるみ、布で出来たボール、ぬいぐるみ。二人で遊ぶものと言えばチェスがあるしリバーシだってある。あとは、トランプだろうか。紙製品はやっとだと聞いたが既にこれはあるのか。この世界の世界観が良く分からない。あとは、ダイスが置いてあるし、戦略を練るようの盤上の遊戯が多いが、これはおもちゃなのか?トランプとダイスはあってもいいだろうか。この世界って一応カジノはあったもんな。私の両親がのめりこんで破滅したきっかけのあれである。だから、トランプにダイスがあるのも納得する。



「最近何か面白いものは輸入してるかしら」



 私があまりにものぴんと来ていない顔をしているのが分かるのか、ルーナはとうとうジャックさんに尋ねた。



「最近。ああ、最近オーナー夫妻が大陸東側に長期にかけて向かった先で輸入したものがありますよ。これです」



――こ……これは!?



 将棋と麻雀だ。ルーナとジャックさんは文字か読めないから、何が書かれているのか分からないといったような表情をしている。よくよく見るとそれは漢字だったが、どう見たって日本語ではないそれは私も全部は読めない。



「恐らくなのですが、こっちのはチェスに近いものでこっちは……」



 麻雀って何に近いんだろう。どう見たって独自の盤上遊戯だ。説明が出来ない。前世は、付き合いとアプリゲームでちらっとした程度だから、計算の方法も役も覚えていないところで、本物を買っても出来っこないのだ。



「駒みたいなのがあって、そこに絵や文字が書かれているんです。その文字は1から9で必ずまとまりがあるので、それをうまく組み合わせて役を作って一番早く上がれた人の勝ちという遊戯だと思います」



 上手く説明出来たかはわからないが私の説明にジャックさんは目を丸くしている。



「お嬢様はこれをご存じなのですか」



 ジャックさんの期待の眼差しに視線を泳がせる。



「これ、少なくとも3人いないと面白くないですし、私は友達がいないので……」


「良かったらいりませんか。今なら4人分の説明書もついておりますよ。と言っても、全て外国の字なのですが。このおもちゃの名前ですら分からないので困っていたんですよ」



 いらないと言おうとしているのに物凄く押しが強い。こうなってしまうと、前世日本人の強く断れない何かがこみあげてくる。気が付いたら関税も含めると随分と高額な麻雀卓と麻雀牌を買っていた。



「それにしても、このテーブルとセットなのですね……ビリヤードと同じようなものでしょうか」



 ルーナがしげしげと購入した麻雀卓を眺めるので、まあそれに近いのかもねと適当に流して他に買うものを眺めていた。



 そもそもがそんなもの子どもたちが通うおもちゃ屋さんに置くなとは思うが、こちらの人たちから見ると、これが大人のおもちゃだとは知らないのだろうな。



 私はそこから、トランプとダイス、押し付けられた将棋を買ったが、一人で遊ぶようのぬいぐるみなどを好んで買うことはしなかったので、結局買ったおもちゃはエルヴィンとリドクリフ様とルドガー伯父様、ハルシュタイン氏たちと一緒に遊ぼう、と思った。



 後日、麻雀のルールブックの説明をしながら麻雀の遊び方を学んだ男たちは随分と気に入ったのか、麻雀に随分とはまった。



 点数換算時には文字が読めないので、軽く漢数字の説明をすると、別件でエルガーに捕まったのはまた別の話だ。



一口メモ:頭がいい男の人ほど麻雀にはまるイメージです

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