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57.切ない思い?と新たな商戦



 嵐が去って午後。賑やかな二人をこれからエステマリアの邸宅で一緒に暮らすのかと思うと少しだけ頬が緩んだ。



 彼らは根っからの研究者だと聞いた。ハンゼン様は毒の研究を、ハンネ先生は魔法の研究を。ふたりにはそれ相応の部屋を用意しようとは思っていたが、ハンゼン様に関しては温室をもうひとつ作ってもらおうかとさえ思う。ハンネ先生は、敷地内か外に屋敷を作ってもいいかもしれない。一応私が雇い主ということにはなるが、だからってあまり縛りたくはない。ハンゼン様の毒の知識はかなり大事だ。毒は薬にもなるし毒にもなるという。



 現代医療においての麻酔なんて、使用量を間違えれば意識を奪うことだってできる。紅茶にも入っているカフェインも取りすぎるとそのまま目を覚まさなくたってなるのだから。毒と薬は紙一重。それでも、毒となる成分ばかり研究していたというところもあって、異質扱いになるのか。



 ぼんやりとルーナの帰り支度を見つめながら先ほどのふたりを思い出していた。外の天気もいいということで、部屋は窓を開けている。日の光に直接当たることのできないハンネ先生。風に頭をなでられながらふと思う。



「もしかして、ハンゼン様が薬師になるきっかけってハンネ先生なのかな」



 ぽつっと零した言葉に、ルーナが視線を向けてくれる。



「そう思った理由をお聞きしてもよろしいでしょうか」



 私の独り言を帰り支度を進めながら丁寧に拾ってくれる。それが嬉しくて自然と口角が上がった。



「ハンネ先生のお肌。きっと日に当たるだけで簡単に傷がついてしまうのじゃないかと思ったの。だから、ハンネ先生は常に、熱は吸収してしまうけれど、日の光を通さない黒いものを羽織っていらっしゃったわ。そして、ハンネ先生とハンゼン様は婚約者だった。髪の色や瞳の色はどうにもできないものだとしても、日に当たった肌を少しでも癒してあげることが出来ればと思ったんじゃないかなって。だって……あのふたりはどうしたって――」



――お似合いだった



 なんて口にできずにいた。



「毒と薬は紙一重だと聞いたことあるわ。薬は一歩間違えれば毒にもなる。逆に毒は使い方を考えれば薬にだってなる。ハンゼン様が毒にこだわったのは、その成分がもしかしたらハンネ先生の肌を少しでも良くしてくれる効果があったと確信を得ていたからなのかも。でも、周りはそう見ないじゃない。毒を研究しているって、傍から見ると恐ろしいし。そうやって、研究がとん挫してしまったとかで気が付いたら婚約解消されたんじゃないかしら……なんて、野次馬根性娘の憶測でしかないのだけれど」



 ふたりから正しい答えを聞いたわけではないから分からない。肌の弱いハンネ先生のために作っていた肌に良いお薬。行き場のなくなったお薬。



――………………ん?んんんんんん?



 私は頭をよぎった。肌を良くしてくれるお薬。これってあれではないか。



「ビジネスの香りがする」



 思いつきの勢い余った反動で、座っていた椅子を思いきり蹴ってしまった。先ほどまでしんみりとしていた空気だったので、突然の大きな音にルーナもさすがに驚かせたようだ。そして、次に零した私の言葉に、表情を困惑させている。



「お嬢様、頼みますからそろそろ色々と自重されてはいかがでしょう――」


「ルーナ!!!私ちょっとリドクリフ様のところに行ってくる!!!」



 ルーナの言葉を遮るように私は言葉を被せると、こうしてはいられないと部屋を出た。



 こういう勢いの時には、大急ぎで駆けだしたりするのだろうが、マナーを極めた私はそんなはしたないことはしない。廊下を足さばき優雅に早歩きで移動をすると、リドクリフ様のいるだろう執務室に到着する。ここまでは結構遠くて、5歳児の足で速足移動をしたのですでに息切れをしてしまっているが、そんなことで興奮は冷めないのだ。



 こんこんっと軽い音を立てて中にお伺いを立てると、リドクリフ様の声でどうぞと返ってきた。



「リドクリフ様化粧水ッ!!!ですッ!!!」



 返事をもらったと同時に、扉を開けて一発目。私は今までにないほどの元気いっぱいに言葉を放つと、流石のリドクリフ様もフリーズしてしまった。ケンドリッチも、普段お利口な私が突拍子のないことを言い出したことに驚いたのか、リドクリフ様の隣で目を丸くして固まっている。



 石像化させてしまったのは申し訳ないとは思うけれど、ここで固まったままでは話を進められないのだ。



 私は、入ってきた時とは正反対に静かに扉を閉めると、リドクリフ様のもとに大股で進む。リドクリフ様が作業で使用している机は、5歳の私にとっては高いし大きいが、そんなの気にしない。



 リドクリフ様の顔が見える位置に立つと、まっすぐにリドクリフ様の瞳を見つめる。それに観念したのか、リドクリフ様ははぁっとため息を吐く。色々と諦めたような顔は、そろそろこの突拍子もない私に慣れてきたからなのだろうか。



 リドクリフ様は、おいでおいでと手招きを私に向けてしてくれたので、私もいつもの癖でリドクリフ様の膝の上へと腰を落ち着かせた。



「それで?次は何を思いついたのかな」



 なんだかんだで私の話を最後まで聞いてくれるリドクリフ様に、私は子どもらしい笑みを浮かべて化粧水の話をする。私は、まずハンネ先生の肌の様子を説明してから、ハンゼン様に頼んで肌に良い水状の薬の開発を提案する。これを所謂化粧水と名付けて、乾燥する肌や化粧などで疲れてしまった肌に潤いを与えるものだと軽く説明する。それを女性中心に売り込んでいけば、儲かるのではないか、と何か思い当たる節があるのかリドクリフ様の視線が少し厳しくなる。



「ハンゼンがハンネのためにそういう薬を作る研究をしていたと、彼女の兄であるタートイルから聞いたことがあるが。なるほど、そういう手法で売ればいいんだね。そうしたら、それらを開発したハンゼンの世間の見方が変わるかも知れない」



 どうやら憶測が確信に変わる瞬間を見た気がする。リドクリフ様は、言葉を漏らしながらも、なるほどと頷いて私の頭を無意識に撫でていた。



 同時に、これは私勝手に聞いていいか悪いか判断は出来ないもので、それでもやはりハンネ先生のことをそこまで思っていたハンゼン様はどうして婚約解消に至ったのか。好奇心は猫をも殺すとは言うが、これは開いていいパンドラの箱なのだろうか、と考えた挙句私は聞く決意を決めた。



「なぜ、ハンネ先生とハンゼン様は婚約解消されたのですか?」



 私が緊張した面持ちとは反対に、ああ、それかぁっという具合にさらっとした対応のリドクリフ様。



「売り言葉に買い言葉だったんだよ。あのふたりって顔を突き合わせると毎回あれで、ハンネはああ見えて魔法では国のトップに立つ。だから、ハンネは国を守っているようなもので。守られてばかりは嫌だと思ったハンゼンは、得意の医薬品でハンネを守ろうとしたと。そして、ハンネはハンネで男の意地っていうのを張っちゃってさ。好きな人には見栄を張りたいだろう?だから、薬関連の制作に反対して、それを辞めないと婚約解消してやるーってそのまま」



 好き合っているのに勿体ないよね、と言いながら私を強く抱きしめて、頭に頬を摺り寄せる。もっとこうバチバチしたものがあったのかと思ったが、本質は犬も食えないものであることに、頬ずりされたまま苦笑いを浮かべてしまう。



一口メモ:いやよいやよもスキの内っていうやつかな

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