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56.仲間を増やして次の○○へ



「ハンネ・エトワルトだ」



 目の前にハンサムな男性が立っていた。



 白い髪に、ほっそりとした体。白すぎて日にあたるだけでやけどをしそうなその見た目は、前世でも合わせて初めてで、存在を知っていても実際に目にすると少し感動してしまう。



 ほっそりとして、栄養が足りてなさそうなのに、縦にはとても長いこの男性。



 真っ黒なローブを羽織っているのは、日差し除けも含めてなのだろうが、真っ黒い衣服から覗く白が異様に目立つ。弱視なのか目にはモノクルをつけて、瞳に光を淹れないようにうっすらとしか開けていない。この姿だけを見ると、彼は異質なのだろうが、実際に人間という群れの中に放つとたいそう目立って異質であろう。



「リアラ・エステマリアと申します。この度は、魔法の家庭教師をお受けいただき感謝いたします」



 軽くスカートの裾をつまんで礼をすると、ハンネ先生は小さく頷いてどっかりと客間のソファに座った。



 城下町にデートをして2日後。



 エルヴィンは、その日のうちに両親に話して、次の日にはソングライン邸に来ていた。流石に、お風呂に入っていないということで、風呂に入れられ身ぎれいにすれば、ただでさえ顔が良かったというのにそこに清潔感が相まってどこかの貴公子かと腰を抜かした。



 エステマリア領では使用人として働くということもあり、さっそく移動までの3日間に軽い礼儀を叩き込んでもらっている。これはひとつの役造りだと思って真剣に受ければいいよ、と気負わないように言うと、エルヴィンは、



「そもそもこういう上位のお貴族様のお屋敷で働けるということ自体が今後のステータスでしかないからしっかり勉強しますよ」



 と雇い主である私に真面目な顔で返してきた。折角アドバイスをしたというのに、しれっと返してきたので、むきーっと地団駄を踏んで、ケンドリッチにめちゃくちゃしごかれて来いよーと叫んだのは昨日の話。今日は、エステマリア領に戻る前日で、更に王都からエステマリア領に連れていく人たちとの顔合わせだった。



 目の前にいるのは、この王国にある4大公爵の内、エトワルト家のご長男。ハンネ・エトワルト様であり、私の魔法の先生をしてくれる人だ。ついでに、ルドガー伯父様からの紹介である。



 真っ黒くて体中を覆うローブ姿で現れた時は、吸魂鬼かと思ったとか言えない。世界観が違いすぎるからやめてほしい。



 そして、部屋の中に入ると、かぶっていたフードを外して挨拶をしたのが、冒頭である。いや、まさか、アルビノの人を見るとは思わなかった。紫外線に弱いので、真っ黒い諸々を身にまとうのも納得である。ついつい物珍しさにじっと見つめてしまった。



「ちっ……」



 その視線に対してなのか、ハンネ先生から舌打ちが聞こえたのでそっと顔ごと逸らすことにした。触らぬ神にたたりなしである。



 そして次の顔合わせ相手の女性に向き直る。



「ハンゼン・グレンポット」



 見事な赤毛の癖毛は肩までの長さでしかない。それを無造作に整えることもせずに放置している。先程のハンネ先生に比べると身長は低いが、私から見たら充分に高い。鋭い目付きに、頬にさすソバカス。赤みのかかった頬など、どう見ても悪役だが、グレンポットと名前を聞いて、彼女も4大公爵家の者だと言うのがわかる。



 ご令嬢というのは分かるが、服装がそれではない。ドレスなどは身につけず、スカートですらない。長い足を魅せるような長ズボンに、黒のハイヒール。上から白い白衣を身につけていて、黒いローブのハンネ先生と白い白衣のハンゼンは対照的に見えた。



「ハンゼン、私の婚約者にもう少し愛想良く出来ないのかな?」



 私の肩にそっと掌が乗ると、腰を落としたのか私と同じ目線からリドクリフ様がハンゼン様を睨みつける。しかし、その視線をものともしないハンゼン様の鋭い視線に、私はもう挟まれた身としても乾いた笑みしか浮かべられない。



 ついでに。ハンゼン・グレンポット様はリドクリフ様の紹介で、彼女が薬師だ。第一印象はあまりよくないがリドクリフ様曰く彼女が一番毒の研究が進んでおり、毒についての知識も強いらしい。薬師が毒のことを公に勉強しているということもあって、彼女は腫物扱いになっているのだそうだ。



 薬師会でも、その口調と素行の悪さから手におえないらしく、だからと言って家格が家格なので邪険に扱えないとのこと。それで、私がエルガーの先生を求めていたところで彼女を思い浮かんでそのままスカウトしたらしい。



「グレンポット家の変り者までもが付いてくるのか。挨拶もまともにできないご令嬢とは、グレンポットの家も教育が足りないんじゃないか?」



 ソファに座っていたハンネ先生が突然そんなハンゼ様につっかる様に言葉を投げる。



「うっせぇな、エトワルト家のなりそこない。貴様こそ、子ども相手に舌打ちをするだなんて、随分と肝が小さいんじゃないのか?」



 それにすかさず言い返すハンゼン様。



「は?」


「あんだよ」



 え、なんなのこのふたりって犬猿の仲だったりする?



「ルドガー殿に相手をきちんと聞いておくべきだったなぁとは思うよ。このふたり元々婚約していたんだよ。ハンゼンのこの性格とハンネの体質とで色々とあって婚約解消しちゃったんだけどさ」



 こそこそっと耳打ちで教えてくれるリドクリフ様に、成程と納得した。口が悪いのも、こうやって言い合えるのも、とても近い関係だったからなのかと納得したところで、改めて二人を見る。



 服装は白と黒で対象的だし、見た目も随分と対照的だ。もしかしたら、このまま結婚したらケンカップルというものになっていたんじゃないかな。にらみ合うけども、お互いの距離はしっかりと保っている。婚約を解消せざる負えない理由も何かあったのかもしれない。なんて憶測で考えてもこの現場は収まらないのだ。



 パンッ!パンッ!

 大きな音を立てて手をたたくと、にらみ合っていた二人が一斉にこちらを向いた。ハンゼン様は最初からきつい目つきだったのを更にきつくして、ハンネ先生は薄く開いた瞼でこちらを厳しくにらむ。子どもに屈しないぞという気持ちがひしひしと伝わってくるが今はダメだ。

「お二方とも、私と何歳差なのでしょうか。ここが今どこかお分かりですか?そう、王弟殿下の御屋敷なのです。これがどういうことかお判りでしょうか。私はあなたたちよりは家格はしたかもしれませんが、同じ公爵という位の家からご出身のお二人でも、実際に公爵という爵位を持っているリドクリフ様の前で仲良く喧嘩をするものではないですよ?」

 意識して口角を上げて。意識して目許を細める。しっかりと大人ふたりの姿を捉えながら、ゆっくりとした口調で、それでも威圧をかけながら彼らに近づいていくと、面白いくらいに彼らは縮こまっていく。

「なんでしたら、僭越ながら私がお2人にマナーの授業を1からお教えしてもよろしいのですよ?」

 とどめ指すように最後告げると、2人そろって「申し訳ありませんでした」と頭を下げた。

 しかも土下座で。

 この世界にも土下座ってあるのか。

一口メモ:ハンネは生まれながらのアルビノです

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