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53.デートの途中で美青年をナンパ



 二手に分かれてしまったらいつもの下町での散策の情景に近い。ライラックでもリドクリフ様に抱っこされてあちこち動く。



 私は元々そこまでの物欲はないが、リドクリフ様も本来あまりない。いつも入るお店には私に似合うか似合わないかの二択だし、私に似合っていても私がいらないというとそれは買わないから。殆ど覗く先々でひやかすばかりだ。



 そんな街中散策でもお腹は空いてくる。殆ど私は動いていないので、食べるのはもっぱらリドクリフ様。私は、彼のご飯を一口貰うくらいだ。



 今回は、庶民の恰好を揃ってしているので、お昼は屋台で肉の串焼きや、デザートを食べたりして食べ歩きをする。いつもと変わらない街歩きは、素直に楽しかった。いつもと変わらなくても、いつもと変わらないからこそ楽しい。



「ルドガー伯父様、ちゃんとやれてますかね」



 私は、零さないように器用にリドクリフ様のてからクレープをかじりつきながら、二手に分かれたもう片方のほうを心配した。



「私たちを出汁にしてまでここにきたのですから、頑張っていただかないと困る」



 そして、私が齧ったとはリドクリフ様ががっつりとかじりつく。その横がを眺めながら、ふと思った。



「リドクリフ様って甘党なんですか?」



 そういえば、一緒に過ごしている時間も増えてきたというのにお私は彼の好みをあまり聞いていない。この国は、自国で砂糖を生産しているからか砂糖はそこまで高価ではない。実際に、今かじりついていたクレープはとても甘かった。それに、お菓子類もとても発展している。そのため、常に甘くておいしいものは手に入りやすかった。だから、ふと口にしたクレープで思い出したのだ。意外とリドクリフ様のことを知らないのだと。



「え、私?!」



 先ほどまで別れたあちら側の話をしていたため、突然に話題を振られたことにびっくりしたリドクリフ様は、口の中をもぐもぐとしながら考えている。なんか、その姿が可愛らしいと思ってしまうが口にはしない。



「そうだね。苦手なものは特にないかな。やはり立場的にはそういうのをあまりしないように努力したし。昔は、苦いものが嫌いだったが今では平気だね。甘党と言われてしまうと。うーん、他の味覚の中では好ましいものかな」



 なるほど、好き嫌いはないが特別に好きなものがないのか。



 なら、食べ物をプレゼントした時に嫌がられることはないのかな。なんて思いながら、食べ歩きながら通りを歩いていた時だ。



「だから、もう足りてるのよ。どんなに綺麗でも大根役者はお呼びじゃないってこと。申し訳ないけど他の劇団に行ってもらえる?」



 何やら大きな建物の前で、女が男を追い出していた。普段から発声練習をしているからか、しっかりと迫力ある声で言い捨てると、ばたんっと激しく締め出された。男は、少しだけ閉じられた扉を睨みつけていたがすぐに舌打ちをすると踵を返して退散していった。



「リドクリフ様追いかけて!!」



 それは咄嗟だった。私は、あの人を見失ってはいけないと何故か思った。だから、慌ててリドクリフ様に指示を出した。リドクリフ様も、私の指示にほぼ脊髄反射で走り出していた。



 そうして、街中散策が一人の男の尾行へと変更された。私たちが、追いかけた先々で男性は、大きな建物の裏口をたたいては何かを言う。その度に同じような事を言われて追い出されていく。



 それが何件も続いてとうとう5件目のそれが終わった頃、痺れを切らしたように男がくるっとこちらを向いた。



「なんだよ、あんたら!!さっきから!!」



 流石に私たちが追いかけているのに気が付いていたのだろう。それでも、負けじと繰り返していたらしい。ついてくる私たちを当て見て見ぬふりをしていたが、とうとう気になったのか声をかけた。そんなところだ。



 遠目から見ても分かる。かなりの美青年だ。揺れる焦げ茶色の髪の毛はさっさらで、長いためまとめるように後ろで三つ編みにしている。日焼けを気にしているのか手入れを怠らずここからでもわかるくらいに白い。何よりも、珍しい琥珀色の瞳はとても人を惹きつけていた。少し幼さの残る頬や、これから成長を期待できる体つき。少しだけ服装がぼろいけれど、それでも人に会うために清潔を意識しているのは好感を持てる。が、少しだけ短気か。 



「あなた役者志望なの?」



 青年の言葉に反応したのは私だ。リドクリフ様が言葉を発すとばかり思っていたのか、少しだけ面食らった表情をするが、すぐに先ほどと同じ威勢のよい表情に戻る。



「そ、そうだよ。なんかおかしいことかよ」



 こういう観劇や音楽というものは貴族の娯楽だ。なれる役者も基本は貴族出身だったりする。劇作家から役者、オペラ奏者。だから、目の前のいかにも庶民な青年は受け入れられないのだろう。その理由としては、教養が足りないから。役者は文字が読めないと出来ないし、音楽家は楽譜が読めないと何も始まらない。この国の識字率は特別高くはない。庶民でも商家は文字を使ってやり取りするから、教養はひつようだ。それでも、庶民は数字だけは読めるようにしなくてはお金を使っての買い物が出来ない。だけど、分かるのはおそこまでだ。文字が読めて書けるというのは、やはりそこまで浸透していないのだ。



 だから、目の前の青年はつっぱねられている。恐らく、頑張って着飾っても、服装で分かるものなのだ。だからと言って、庶民が役者志望になりたいというのはおかしいことではない。



「いいえ、思わないわ」



 私のきっぱりとした言葉に、面を食らった青年は次の言葉が出てこないのか固まっていた。お互いが声をかけられたところから距離を保っていたが、実はリドクリフ様はじりじりと青年に近づいていた。お互いが、手で触れられる距離になった頃だ。



「むしろあなたの才能を買いたいわ。よろしかったらそこのカフェでドルチェをしませんか。全てのお代はこちらが持ちます」



 私が、胸を張って力強く言うものだから、青年は訝し気な表情をした。



「はぁ?」



 同時に、漏れた言葉は疑いの色しか見せない。

 そりゃ、あからさまに子どもの見た目な私だもの、そういう顔に反応をするよね。ナンパって難しい。



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