51.引きこもり令嬢
「お嬢様、エステマリア領への帰る日程も決まりましたことですし、帰る前に一度、王都への詮索はいたしませんか」
ルーナの言葉に、お部屋で朝食後のハーブティーを飲んでいた私は固まった。隣でルリアもこくこくと何度も頷いている。それはもう目がきらっきらと輝かせて。
正直に言ってしまうと外にあまり出たくない。何があるか分からないのだ。治安が良いとは限らないこの世界で、お付きがいたとしても安全とはいい切れいない。それに、人込みはあまり好きじゃない。ライラックも人込みだったが、あの時は目の前が真新しかったし、自分の領ということや綺麗な海街が見えていたこともあって、まだ耐えられた。が、ここはいわゆるコンクリートジャングルだった東京みたいなものだ。建物と人と人と人ばかりだろう。娯楽は多いだろうけど、お金を落とすことが前提となってくる。
だが、ここがすべての文化の集大成とみると、やはり降りた方がいいのだろうな。文化の発祥の街にしたいと思っている以上、知らないとならないことも多そうだし、今後のことに役立つことだと思って、私はルーナの言葉に頷いたのだった。
それまで緊張していたような表情をしていたルーナとルリアがほっとしたように口許が緩んだ。
その表情を見て、王都に来てからも、王城から帰ってきてからも、この邸宅から出ておらず。殆ど勉強と楽器の練習と滞っていた楽曲制作ばかりで、私個人としてはとても充実していたが、それを見ていた使用人たちからは不安要素でしかなかったようだ。そりゃぁ、仕えている人が外に出なければ、使用人たちもついてこれないよな。
「ルーナ、ルリア、ごめんなさい。私、少し根詰め過ぎていたみたい」
彼女たちの表情で気が付かされたのだから、私はもう少し周りを見なくてはいけないようだ。
「お嬢様は、考え事をされている時はいつもこうですよ。私ごときが意見を申すのはおこがましくもありますが、たまには気分転換もされてください」
ルーナの言葉にルリアはそうだそうだというように横で大肯定している。赤べこみたいに首を何度も振っていてもげそうだなと思ってしまった。ただその光景を見ているだけで、とても面白くて、ついつい声をあげて笑ってしまった。
朝の和やかな雰囲気の後、あれよあれよと準備が整えられた。今日向かうのは、城下町の方で、民間人がほとんどいるような空間。少しだけ、着飾ってはいるが貴族だと分かるようでわからない程度だ。ちょっといいところのお嬢さんな恰好。普段足首まで隠すような丈のスカートばかりなので、足首が見えるのは新鮮だ。生足が見えると勿論問題なので、白いロングソックスを履いて、落ちないように太ももでソックス留めをつけている。
「お嬢様は本当に、何を着てもお似合いで可愛らしいです」
着飾らせてくれたのはルーナとリアラだというのに、私の姿に感動していた。いつもよりは豪華さはなく、とてもシンプルな作りだというのに、ふたりとも可愛い可愛いと褒めながら私を持ち上げくれる。だから、調子乗ってくるっとその場で一回転すると、ルリアが倒れた。まさか、私の下町スタイルが人を倒れさせるほどの効力があるとは思わなかった。
最後の仕上げは、長い金色の髪の毛をまとめ上げること。二つに分けた髪の毛を、両サイドに三つ編みにする。それをぐるぐるとまとめてお団子へ。最後は、金色の髪が目立たないように麦藁の帽子をかぶせられた。赤色のリボンがとても大きくて可愛らしいやつだ。
「金色の髪の毛は、貴族の方たちが多いですからね。いないわけではないですが、とても少なく同時に綺麗な色なので人攫いにあったりしてしまうんです」
ただでさえ、私の顔は目立つ。見目が良すぎるから尚更目立たないようにするにはこれしかないのだと、ルーナが言っていた。そこまでして隠す必要があるならわざわざ街に出る必要はないのではないのか。そんなことを口にしようとした。
「ここまでするなら外に出る必要はないとか言いたそうな顔をされていますね」
ルーナの鋭い突っ込みにうっと息を飲んだ。なぜばれた。
「伊達に毎日お嬢様といませんよ。それに、今日は私も一緒についてまいります。私の息抜きと思ってついてきてもらいますから」
ツーンとすました顔で返事する。私がルーナのことを大好きなのを知っていて盾にとられたのだ。悔しい。それを言われてしまうと、分かったとしか言えない。
言い返せない私に、お姉さんな顔をするルーナは、それでは準備して参りますと言って部屋を後にしていった。
「ルリアは着いてこないの?」
そこでふと思ったことをルリアに向けると、ルリアは大慌てで今度は首を横に振っている。
「むむむむむむ無理ですよ!!!!!私が入る余地などありませんから!!!」
そういって、必死で拒否をするルリアは、何をそんなに動揺しているのか分からない様子でお茶を作ってきますと部屋を出ていった。
私が、ルリアの言っていた言葉を理解したのは、ルーナに準備が出来て一緒に玄関へ向かった時だった。
既に、私たちと同じように準備を調えたリドクリフ様。
「やっほ~、リアラ。今日はよろしくねぇ~」
私と同じように金色の髪を隠すためキャスケットを被ったルドガー伯父様がそこにいた。
一口メモ:先日の王城でのエンネアとのやりとりをずっと引きずっているリアラ




