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50.お姫様のおねだり



 少しだけひと悶着はあったが、丸く収まったでいいのだろうか。泣きたいだけ泣いて、吐きたいだけ言葉を吐いたら、ジュード殿下も落ち着いたからいいのだろう。



 陛下が、ジュード殿下とともに頭を下げてしまったので、リドクリフ様に大丈夫だと間接に伝えてもらった。こういう時にどういう風に対応したらいいか分からないから。



 私は、自分の席に戻ろうとしたが、結局はジュード殿下に捕まって、隣に座ってほしいとお願いされたので、素直に逆らうことはせずに隣に座った。



 そこからは、子どもたちは子どもたちで話が盛り上がっていた。それを複雑な表情をしているリドクリフ様の様子に私は気が付かなかった。



「リアラ様。わたくし、妹も欲しいの」



 それは突然の言葉だった。エンネア殿下がどこかもじもじと恥ずかしそうに話し出す。その様子が可愛らしくて、ついつい口許が緩む。



「はい、エンネア殿下」


「あのね……すごく失礼なことだとは思うのだけれどね。リアラ様のご両親のことは別としても、リアラ様はとてもしっかりしておられてて、こういうこと貴女にくらいしかお願い出来ないかなって……ジュードと同じ年だし」



 なかなか要領を得ないご様子に、流石の私も首を傾げてしまう。



 エンネア殿下の言葉に、大人たちは大人たちで話していたというのに、突然固唾を飲み始めている。リドクリフ様なんて、エンネア殿下の次の発言を聞きたくないというように緊張した面持ちだ。



「リアラ様は、リドクリフ叔父様とご婚約されたのでしょう?」


「はい」


「だから、ジュードの婚約者になんて贅沢は言わないわ。でも、出来ればわたくしのことをお姉様と呼んでいただけませんこと。ここにいる人たちだけの間で問題ありませんわ。わたくし、初めて扉を開けて、挨拶をするリアラ様が可愛らしくて、お人形さんが素敵に挨拶しているように見えましたの。そんなリアラ様にお姉さまって呼ばれたいの。ダメかしら」



 リアルお姫様のおねだりは随分と可愛らしいものだった。エンネア殿下が、ジュード殿下を挟んで手を伸ばし、私の手を握るものだから焦っている。柔らかな滑らかな手が私の手を包み込むこの感触に、頬が染まる。同時に、間に挟まれて困っているジュード殿下は空気を読んでそっと席を外した。代わりに、陛下の膝の上に乗っかっている。私がしたら100%不敬罪だ。



「エンネア殿下」



 言葉選びに困っていた。ちらっとリドクリフ様に顔を向けると、良いも悪いもないような表情だ。恐らくどちらでもいいのだろう。



 真摯に伝わるその表情に、きゅっと唇を結ぶ。そして、決意してそのきれいなライムグリーンの瞳を見つめた。



「とても、嬉しくて光栄な事ですわ、エンネア殿下」



 私の言葉にぱっと表情を明るくした。



「ですが、折角のお申し出をお断りする不敬をお許しください。わたくしにはそれは出来ません。もし、これからお生まれになられるお子が女の子だった場合、わたくしがエンネア殿下をお姉様とお呼びしてしまうときっと嫉妬してしまうわ。それに、わたくしは、エステマリア伯爵家の娘ですもの」



 優しく包んでくれる掌をきゅっと握り返すと言葉を丁寧に選んで返す。



 将来、私は領地から出ないだろう。恐らく、王都から帰ったらもっと出ない。ユージェニー領へ遊びに行くと約束したが、それも叶えられるか分からない。アルテンリヒト領へと何度も通うことはあろうが、きっとそれはあくまで親戚付き合い。王都へはもっと足を運ばない。学校に行くことを決めれば、15歳から3年間はいる可能性だってあるが、今のところあまり乗り気ではない現状で、難しい。そんな私だから、殿下の言葉は嬉しくても、素直に頷けなかった。



 私には親がいない。育ててくれた人たちを親だと思っているが、産んえくれた人たちはいない。私が最初で最後の子どもだったから兄弟もいない。貴族家は基本子だくさんだ。子ども7歳までは神様のもの。それを体現しているように、予備のように基本、子だくさんなところに、私には従兄は沢山いても本当の兄弟がいない。だから、ここでこの優しく美しい殿下を姉と呼んでしまうと、もっと欲張りになってしまいそうなのだ。彼女に甘えて、わがままになって、離れられなくなる。



 それが、切なくなる。



「もし、……わたくしが15歳になってリドクリフ様と一緒になられた場合は、呼ばせていただきたいです」



 これが精いっぱいだ。まっすぐに映る私がどんな表情をしているかは分からない。だけれど、エンネア殿下はとても頭がいい。人を思いやる気持ちもあるからか、すぐにくしゃっとした可愛らしい笑顔を向けて、



「わかったわ。これは、リドクリフ叔父様には頑張っていただかないといけないわね」



 そういって許してくれた。私はどういう表情をしたがわからないが、 笑った記憶だけある。

 するっと抜けた手の温もりがまだ掌に残って愛しかった。






 そうして、王家との歓談は終わった。



 王城から、馬車でソングライン邸へと帰る道のりはとても短い。壁門からソングライン邸に行くよりもずっとずっと短くて、その間の風景をただぼんやりと眺めていた。



 掌に残ったまだ柔らかいの熱がまだずっと残っている。私が父と母の娘じゃなければエンネア殿下のことを姉と呼んでもよかったのだろうか。



 私に沢山兄弟がいて、普通の女の子。転生者じゃなくて、勉強もマナーも嫌いでそこまで努力しなくてもよかった世界で、エンネア殿下にお願いと言われたら、その時は素直に許可をしていたのだろうか。



 私は意識をしないように、外を眺めていたから向かいに座るリドクリフ様の表情を見ていなかった。



一口メモ:中身が大人だから現状を理解しすぎて、寂しいと思うことはダメだと思っている

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