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45.王家からの婚約許可: side.リドクリフ



 目の前で、国王陛下である兄がエステマリア領の特産になる予定のハーブティーを飲んでいる。



「うん。すっきりするのに、口の中は薄荷の香りが強すぎないのが良いね。口当たりもよくて、私も気に入ったよ。あとこれ、体にいいんでしょ。エンデマリアにも飲ませたいな」


「お義姉様はまたご懐妊になったの?」


「うん、今度は男の子かな、女の子かな。今からでも楽しみだよ」


「義姉様もすごいなぁ。4人目でしょ」



 私の言葉に、ふふふと嬉しそうに幸せの絶頂を見せている兄に、弟である私も素直に祝福をする。国王陛下である兄には、双子の王子と王女が一番上にいて2番目に王子がいる。3人とも仲もよく、兄夫婦はきちんと全員に平等の愛を与え、平等の教育を施していた。男女の差もなく、年齢に沿った教育だ。そこに、女性限定の物男性限定の物も存在するが、それでも出来るだけ同じ教育だった。



 そこに4人目が生まれるらしい。



「リアラにはその件について話はしますが、一応、妊婦さんに問題ないかを立証してから送らせていただきます」



 そのための薬師の手配なのだろう。兄はそれもそうかと頷いては、楽しみにしていると笑った。



 先ほどからこの調子だ。先ほど、リアラと面会をしたはずだというのに、それ以降の話はしない。ずっとハーブティーを飲みながら、リゾート開拓の件や学校の件などをさらっと話すだけで未だに婚約の許可を得られていない。むしろ、言葉を選んでいる様子だ。



――これは、流石に私から切り出さないと無理なのだろうか



 そもそもが5歳と20歳の婚約で、それがほかの貴族であればそこまで気にしないのだろうが、これが実の弟である現状に難色を示しているのだろう。本日はその許可をもらうために登城をしたのだが、そのもうひとりがいないのであれば意味がないと家まで押しかけてきたのだ。



 熱だろうと何だろうとリアラのことだから、警戒している相手にはまず隙を見せないようにするはず。無理をしていなければいいのだがと思うが、この国の最高権力者が突然見舞に来たのなら、恐らく無理をするだろう。



 あとで、部屋に顔を覗きに行こうかとぼんやりと考えながら、私も同じようにカップに口をつけた。



 こんこん、と部屋の扉をノックする音に視線を向けると、執事のケンドリッチが扉を開ける。



「陛下、まだサインしておられないのですか」



 顔を覗かせたのは、リアラの伯父であるルドガーだ。仕事の途中だったのだろう、仕事モードの彼は私生活に見せるあの幼さが鳴りを潜めている。



「いい加減へそは曲げずにさらっとサインしてあげてくださいよ。仕事が溜まっているんですよ。かなりの好条件じゃないですか。なんだったらかりそめの婚約ですよ、これ。契約です契約。それに、リアラにもお会いになられたんでしょう?それでなら、彼女とリドクリフ様の婚約も問題ないってわかったじゃないですか。僕の可愛くて天使なリアラのどこが不満なんです。むしろ僕が婚約したいくらいなんですからね」



 ずかずかと国王である兄に物言うその姿は流石というかなんというか。さらっと、婚約の相手をすり替えようとしているのは、態となのだろうか。ルドガーは私の隣に、どっかりと腰を掛ける。その際に、ふわっと香る優しい花の香りがした。

 仕事モードの時の彼は確かに、見た目が普段の数倍と良くなるが、それでも花とルドガーは随分と似合わない。むしろ普段の姿をよく知っているからか、可愛さが跳ね上がってファンシーになる。



 そんなことを考えている目の前で、兄が飲んでいたハーブティーのカップを徐にソーサーにそっと下した。そして、テーブルにそれらを置けば、膝の上で手を組む。



――あ、これはやばいやつだ……



 そう思った時には遅かった。ふるふると次第に方が揺れ出して、ふっふっと小さく息を吐き、鼻を鳴らし出す。お揃いの緑色の瞳に目いっぱい涙を浮かべてはぼろぼろと流し出したのだ。国王の泣き顔なんて見せてはいけないものの上位で、それを察した使用人たちはそそくさと部屋を退散していく始末。



「だっで……ざいぎんは、リアラ嬢リアラ嬢っでリドが言うがら……おでのことなんて忘れていたんだろう……リド~~~」



 ぐずぐずっと鼻を詰まらせて話す兄に、結婚しても、子どもが出来ても、国王になっても変わらないなと苦笑いを浮かべてしまう。



 兄は、家族のことが好きだ。父上も、母上も、次男のフェンリィ兄さまも。そして、結婚してからは義姉様に子どもたち。一度懐に入れた相手は、平等に全員が大好きだ。だから、時折家族のこととなると、こういう風に涙して暴走する。子どもが生まれた瞬間。子どもが初めて喋った瞬間など、今ではもっぱら子どもの初めて○○が多いが、昔は弟の初めての○○シリーズでこうなっていた。



 そして、こうなった時の兄は、割と手におえないので泣き止むまで待つしかない。基本は、王城の執務室や家族の前だけで起きる現象だ。この性格を知っているのは一部の人たちのみ。だから、下手に部屋から出すことも出来ない。



 兄は、テーブルを挟んで向かいにいたのに、いつの間にか私の隣に腰を落とすと、横から強く強く抱きしめてくる。ずびずびに泣き出す兄の涙が、私の肩に染みこんで模様が広がっていくのを感じながら、兄をなだめるように背中に手を回してよしよしと撫でながらあやすしか、もう方法がない。ルドガーなんて、「うわぁ、出たよ」とドン引きしているが、普段の子ども好きなあの態度は傍から見たら十分に異常だからな。



「リドがひどりだちするのいやだぁ~~。なんなの、あのエステマリア伯爵令嬢は。あれでマナー習いたて3か月っておかしいだろ。俺の息子のフランシスと結婚させるのも遜色ないぐらいだからなぁ~~。否定どころなさすぎるだろうよぉ~~……うぐっ、しかも幼い頃からあの美貌だろう?将来が約束された見た目で、将来が約束されたような出来の良さ、しかも15歳までにリドが自由に恋愛と結婚してもいい条件付きなんて、リドの婚約者とするのを拒否すること出来ないじゃん」



 ぐすぐすえぐえぐと涙を流しながらも、しっかりと契約書にサインをする兄。私の女に対しての不信をよく理解しているから結局はサインするしかないのだ。



 大洪水で涙が流れているというのに、契約書には波の後すらつけない兄の器用さに、流石としか言えない。



「こうやって可愛かったリドもフェンリィみたいに離れていくのとか、お兄ちゃんはもう耐えられない!!!だって、これでエステマリア伯爵令嬢と結婚したら、リドはエステマリア領に籠ってしまうんだろう!!!こうやって王都に来ることが減るんだろう!!!!!!そうやって俺から離れてくんだぁ!!!!!将来子どもたちも!!!!結婚してお父さんから離れていくのか!!!!」



 そうして、何を想像したのか、子どもたちの名前を順番に叫んでいく。ここまで来ると手に負えない酔っ払いだ。このハーブティーには洋酒など入っていないはずなのだが……。



 私は、兄が泣き止むまでただひたすらにその背中を撫でてあやすしかなかった。

一口メモ:本日名前が出てきた人たちの解説

王弟:フェンリィ リドクリフの兄で、南西にある島の帝国を支配している女王のもとに婿として入った。仲睦まじく、子どもは2人


王妃陛下:エンデマリア

第一王子:フランシス 8歳

第一王女:エンネア 8歳

第二王子:ジュード 5歳


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