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44.国王陛下と残念なイケメン



 突然の面会辞退を訴えたのは確かに申し訳ないとは思いますよ。



 そもそもが、婚約の話も急で、それのお許しの為に無理やり今日この日に面会の申し入れをしたと思ったら、当日のドタキャン。



 ブチ切れてもいいレベル。むしろ、ブチ切れてしまう所業。大人の世界では許されないのも分かるが、流石に未だに熱の下がらない病人に会いに来るかな。この、国王陛下。いきなり社長が一般社員の家に来たようなものだよ。やめてほしい。



 薄いミルクティー色の髪の毛は綺麗に固めて整えて、皺もしみもひとつないつるっつるなお肌と、リドクリフ様と同じ緑色の瞳をしているのを見ると、本当に兄弟なのだと思った。何よりも、顔がいい。ただ、優しく砂糖をこすりつけたような甘い顔たちをしているリドクリフ様とは別で、きりっとしていて凛々しい顔つきをしている。



「すまないね。リドクリフから君が熱で来れないと聞いたもので。一度弟の婚約を許可する前に君を見ておきたくて。加減はいかがかな、エステマリア伯爵令嬢」



 好奇心旺盛か。胡散臭い笑顔は、デフォなのだろう。王族は人々に感情を見せてはいけない貴族筆頭だ。例え怒っても、例え悲しくても、無関心でも表情は崩してはいけない。彼の穏やかな笑顔は、幼い頃からの賜物なのはわかるが、その薄い今見つけましたと言うような言い訳はしまってもらっていいでしょうか。



 単純に好奇心だろ。わかってるよ。



 相手がそう出るのであれば、私も同じように出る。彼と同じようにうっすい笑顔をぺらりと貼り付けて、重たい体を起こしながら。



「急遽取り付けていただきました面会を、直前になって不参加といたしましたこと、誠に申し訳ございませんでした。この度は、国王陛下にこのように心を砕いていただき、かつご足労いただいたこと誠に感謝申し上げます。ですが、このように動ける身ですので、問題ございません」



 私だって伊達に親の尻拭いをしているわけではない。しっかりとゼビエ前侯爵夫人にならった作法だってあるのだ。この歳にして既に、感情を隠すのだって得意だ。今現状、高熱でぶっ倒れたいが汗まで隠す私はただただ涼しい顔をして対面するだけである。



「ふむ、そんなに元気であるなら、わざわざ私がこうやって顔を出す必要はかったのかな」


「今朝方登城を予定しておりましたが、使用人たちが随分と心配してくださったため、大げさに伝わってしまったようで」


「そうか、なら仕方ないか。次回はしっかりと王城で顔を見たい。元気になったら連絡してくれ、妻と子どもたちも紹介しよう」


「是非にお願いいたしますわ。陛下」



 内心ではすっごい嫌だが、最高権力者には敵わない。陛下からの申し出に満面の笑顔を向ければ、陛下はこの返事内容に満足したのか席を立った。



「見送りは必要ない。熱を出している幼い子どもを無理やりベッドから起こしたくもないからな。ただ、リドクリフは借りていく。すぐに返すが、嫉妬をしてはいけないよ。それではまた、後日。楽しみにしている」



 静かに扉が閉まる様子を確認すれば、どっとこらえていた汗が噴き出る。整えていた呼吸が上がり、目の前がぐらっと傾いた。



 たった数分間の面会だったが、熱が数度上がったようだ。それを見かねたルーナが私に駆け込んでくる。



「お嬢様」


「だ、大丈夫。緊張しただけだから。……お水貰っていいかな」



 私の急激な体調悪化には、部屋にいたメイドたちも慌ただしくしていた。ルーナからコップ一杯に入れてくれた水を飲み干せば、上がった体温も、上がった息も随分と治まったように思える。思えるというのは、飲んだ傍から蒸発しているようにも感じるから、実感は半分ってところだ。



 はふっと熱い息を零して、未だ鈍痛が響く頭が一番きつい。大きな枕にぽふっと頭を預けると、新しくメイドが用意してくれた濡れタオルが額にそっと置かれる。



「ありがとう」



 メイドは、私の言葉に、何か感情が揺さぶられるのかきゅっと唇を結ぶと、「とんでもないことでございます」と次の瞬間可愛らしく笑ってくれた。それだけで癒される。



 今朝からずっと私の世話をしてくれる彼女が、恐らくこの屋敷に滞在している間の私専属になるのだろう。今朝は、ちらっと執事長を名乗る、なかなかロマンスグレーな男性からも挨拶を受けたが、残念ながら熱半分では思考回路が回らないので記憶がない。ただ、その見た目に相まったピシッと決めた燕尾服に綺麗な所作が上乗せされて、とても素敵な人だという印象がある。元気になったらしっかりと挨拶をしなくては。



 そうして静かになった部屋で、そろそろ意識を手放しそうってなった時だ。



 部屋に静かにノック音が響いては誰かの来訪を知らせる。



 ルーナは警戒をしながら、そっと扉を開くとその相手がすぐに分かったようで、今度は歓迎するように扉が大きく開かれた。



「一昨日ぶりだね、リアラ。ルーナさんも。熱が出たと聞いてお見舞いに来たよ」



 そういって、紳士然としたルドガー伯父様が大きな花束を抱えて部屋に入ってきた。それを、ルーナに預ければ静かにベッドの椅子に腰を掛ける。私は、挨拶をと思って体を起こそうとしたが、それを手でそっと静止された。



「さっきまで陛下がいたんでしょ?リアラのことだから隙を見せないように無理やりいろいろと我慢しただろうから、僕にはそれはしなくていいよ」



 こういう時のルドガー伯父様は普段の危ない人が鳴りをひそめるからズルい。声だって、病人である私を考えてかなり抑えているし。仕事モードのルドガー伯父様の見た目って、身内贔屓だろうがそこら辺の貴公子よりも貴公子然としているから、女性にだって好評なんだろうな。ほら、私担当のメイドさんがほんのりと頬を染めている。



 ルーナは、危ない人バージョンのルドガー伯父様を知っているからか表情は何ひとつと変わっていない。元々、表情がとても豊かとはいかないけれど、それでも私だけの時は割と笑ってくれるようになった。



 ルドガー伯父様の登場で、周りを気にして視線を泳がせていたが伯父様の指先が熱の上がった頬に触れると心地よくってついついふぅっと息を吐いて目を細めた。



「心配して来てくれて、とても嬉しいです。伯父様」



 本心で、そう言葉にすると、ルドガー伯父様は急に胸を掴んで前かがみになった。



「天使ッ!!!!」



 さっきまでの配慮どこ行った。



一口メモ:落ちをルドガーに投げてしまいがちになる


作者のお気に入りはエイマーとルドガーですが、皆さんは好きなキャラって出来たりしましたか?

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