40.甘い空気に砂糖を吐く
ここで2章は一区切りとさせていただき、前話ではタイトル回収となりました。
明日からは、初めての王都編として3章がスタートします。引き続きよろしくお願いします
「閣下は本当にこれでいいんですか?」
私は、部屋に向かう道すがら、抱き上げられた閣下の腕の中で閣下に質問を投げた。
ぶっちゃけてしまうと、ああも言い切ってしまったが、私という存在が防波堤になるかは不確定要素過ぎるのだ。その理由としては、周りから見たら2つの視点に分かれるからだ。
1つ目、閣下がロリコンだった場合。この視点から行くと、確実に婚期は離れていくだろう、なにせ、5歳児を恋愛対象に向けた特殊性癖だ。同年代の女性たちはドン引きをしてすぐに離れていくだろう。同時に、男性も距離を置かれてるだろうが。その代わり、幼い娘がいる親がどう出るかはこの場合ノーカンとする。
2つ目、先ほどアーレン伯父様が言っていた贖罪の感情による私の保護。この場合は女性からも男性からも好感が持てる行いとして逆にモテてしまいそうだ。正直に、エミリア叔母様含めた、肉食系女子はこっちに解釈して私をけなしにけなしてくるに違いない。それはそれでいいのだが、仮にも閣下の婚約者である私に危害を加えたら、どうなるかは別だ。今のところ、マルエル叔父様とエミリア叔母様以外のアルテンリヒト家の人たちには好印象だから、もしかしたら閣下だけではなくアルテンリヒト家も敵に回す可能性だってなきにしろあらずだ。お利口にしているってなんて大事。
一応、アルテンリヒト家の許可は下りたため、残りは王家からの許可が必要なのだろう。それは、閣下が頑張って説き伏せると言い切っていた。
閣下の身のためにも1日でも早い方がいいとアーレン伯父様は、明日閣下を連れて一度王都へと向かうらしい。そうなると、1日から2日程伯父様も閣下もこの屋敷を留守にする。
「これでいいって、何がだい?」
「婚約の話ですよぉ~。5歳児と結ぶとなると、絶対周りの目が好奇心に集まりますからね。閣下は特殊性癖だったって」
実際に、後ろのハルシュタイン氏が頭を抱えている。閣下がこのような性癖だったことにショックが隠せないのだろうか。しかし、婚約する理由はきちんとあの場でプレゼンをした。私が15歳までっていうと、10年という長い年月があるがきちんとタイムリミットがあるのだ。それまでに、閣下には頑張ってもらわなくては。
「リドクリフ」
そんな私の心配をよそに、閣下はどこか不満げに自分自身の名前を零した。
私は、腕の中で首を傾げてその真意を探る。
「いつまで閣下呼びにするつもりなのかな。リアラ」
「……話をそらそうとされてるでしょ、閣下」
「リドクリフ」
「かっ、か!!!!」
「リ、ド、ク、リ、フ」
「あぁ~~~、もう!!!!リドクリフ様ッ!!!これでいいですか?!」
もうやけくそだ。廊下で言い合う私たちは面白い道化だろう。使用人ひとり居ない廊下とはいえ、広ければ広いほど響く。後ろで私とリドクリフ様の成り行きを見ていたハルシュタイン氏は楽しそうにくっくと喉を鳴らして笑っている。しかし、私のそんな羞恥なんて二の次なのか、私からの名前呼びに満足したリドクリフ様は、よしよしと頷いて私の体を抱きかかえなおした。
「これでいいのかという質問だったね。まぁ、いいんじゃないかなっていう軽い答えが私の答えだよ。どうせ皆して、没落させたエステマリア家に哀れな目を向けた婚約だって言ってくるだろうしね。私が王家の血筋だからか、面白おかしい方にとらえるより、美談にしたがるからそういうのは心配していないよ。けれど、それに付随して君の我儘で取り付けられた婚約っていうマイナス方面での視点が入ってくる。そうなると、面倒なのが正義感にかられたご令嬢方の大暴走の末、君を傷つけてしまうことかな。その場合少なくとも、君は王家と侯爵家の契約で交わされた婚約で守ることはできるし、私自身そういうのを攻められたときはそれを盾にだってできる。だけど、傷がついた君の名誉を回復させられるのか……」
リドクリフ様の表情に影が差す。私は、そんなことを気にしていたのかと肩を竦めた。
「そんなことですか……」
私が小さく零すと、リドクリフ様は少しだけむっと唇を突き出した。
「私の名誉なんて、生まれたころからないんですよ。なので、もとからマイナスから始まった私の名誉を心配したって意味がないです。プラスにできなくても、私の周りの人たちにとって、私のことを知っていればそれでいいです。社交界でどう言われようが、既にずたぼろの名誉にすがりたいとも思っていませんし、プライドもあまりないです。いや、領がちゃんと発展すればついてくるかもしれないですが……。悪口だって、悪意だって気にしないわけじゃないですし罵られたり殴られたりしたらそれはそれでとても痛いから嫌ですけど……リドクリフ様が……ちゃんと守ってくださるんでしょ?」
言っていてどんどんと恥ずかしくなってきた。心の中がくすぐったくて仕方ない。頬が赤くなっているのが分かる。リドクリフ様の表情を捉えられなくて、赤くなった顔を隠すように、彼の胸の中に顔を埋めてしまう。すると、ぎゅぅっと抱き上げてくれている腕に、力が入るので少しだけ苦しいと背中をぴしぴしと軽くたたいた。
「勿論。守らせていただきますよ、私の婚約者様」
緩まれた腕の中で見上げる、世界最上の蕩けて甘い笑顔は、幼い私の心臓にとても悪いからやめてほしい。
「期待しております、私の婚約者様」
一口メモ:ハルシュタイン氏は先を越されたので頭を抱えていた




