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04.ホームシックはすぐ側で

誤字、設定ぶれなどを修正しました。

兄とリアラの年の差は3歳です

2024.05.23 :加筆修正いたしました



 屋敷から港のある街まで、馬車で30分位だろうか。私と閣下は、身なりをある程度商家の親子に見えるように、ある程度ランクダウンさせた格好をし、2人で揃って馬車に揺れていた。



 馬車に揺れている間、閣下は持ち込み可能の仕事の確認を。私は、建国神話が記載された物語を読もうとしていたが、馬車に乗ろうとした際に、



「君はもうそれまで読めるのかい?」



 私の持つ本を見て、開口一番そう告げられる。私は、首を横に振りながら、



「まだ読めません。でも、読めない文字は調べた表と一緒に並べて確認してます」



 そう言って、本に挟まった紙を見せるとそれを見て更にぎょっとされる。同時に、まだ5歳なんだからやり過ぎだと言って、私は本を取り上げられてしまった。ので、不服に頬をふくらませて私も抗議する。



「そういう閣下こそ、馬車に持ち込みの仕事持ってきてるじゃないですか。大人ならいいって話じゃないと思います」



 私の不服を聞いた閣下専用の執事は、同意と言わんばかりにこれ幸いにと横からその仕事の束を没収。そうして、私たちふたりは手ぶらで馬車に乗る羽目になったのだ。



「お嬢様」



 私が、馬車に乗ったと同時にルーナが心配そうに私を呼ぶので、私は窓からひょっこりと顔を出す。



「たくさん、閣下に甘えてきてくださね」



 普段は冷たく見えるルーナの顔が、穏やかに優しく笑うので、私も釣られて満面の笑顔を向けた。



 そうして、使用人たちに見送られて馬車は門から出ていく。ゆっくりと、ブーゲンビリアの街を横切りながら、私は街の姿をしっかりと捉えたくて窓にベッタリと張り付いていた。



「そんなに張り付かなくても街は逃げないよ」



 私の行動がおかしいのか、閣下は楽しそうに笑ってくれる。私は、少しはしたなかったかと思い、素直に閣下と向き合って腰を落ち着かせた。



「私はこの下町で育ちました。当時はこうなる事は分からなかったので、街の様子とか全然見てなくて。そうなると意識してないから、暮らしていた時の記憶が薄れちゃってしまうんです。今、意識して外を見ることによって、街の雰囲気を確認して、皆が笑顔なのか、違うなら何がいけないのか、見極めようかと思っていました」



 横目に、街の様子をもう一度伺うと子どもたちが楽しそうに駆け回っていた。それを少し懐かしく感じて、恋しそうに愛しそうに目を細めているとガタンっと激しい音を立てて揺れながら馬車が止まる。



 それと同時に、外で、うわーんと子どもの声がする。閣下は子どもの声が聞こえたと同時に席を立って外に出た。私もついて外に出ると、道で遊んでいた子どもが馬車の前で転び、あと少しのところで轢かれそうにになっていたらしい。目の前で、急ブレーキをかけた馬車の迫力にやられて子どもは火がついたように泣き出していた。



 閣下は怒りはしなかった。御者の方も怒りはしなかったが、困ってる様子である。私は、過去の癖で泣いた子どもの傍で閣下は腰を下ろすと、泣きじゃくる子どもの頭を撫でる。怪我はないか、怖かったねと優しい声を聞いて子どもは、次第に落ち着いたのか泣き止んだ。5歳の私より少し小さい。4歳くらいの女の子。私も近づいて、彼女の手を握るとそっと泣き止んだ顔をのぞき込む。



「大丈夫?」



 優しく声をかけると、その子は小さく頷いた。



「立てる?」



 次にそう問いかけるとまた頷いたので、繋がった手をゆっくりと引いて、女の子を立ち上がらせる。



「痛いところはどこかな?」



 すると女の子は、ワンビースの裾を少しまくしあげると、ふたつの膝小僧をみせてくれる。そこは少し赤くなって痛々しい。きっと、今も痛さを我慢しているのだろう。



 私は女の子の頭を偉い偉いと撫でると、ポケットからハンカチを取り出した。真っ白で汚れていない綺麗なハンカチだ。



「痛いね、我慢してえらいね。頑張ったね。ここからお家は遠いのかな?お兄ちゃんかお姉ちゃんかいる?」



 ハンカチで彼女の膝を綺麗に拭いてあげて、片足だけだが、赤くなってる膝に丁寧に巻いてあげると、すっかりと表情は明るくなっていく。



 すっかりと泣き止んで上機嫌な少女を見て、私は安心すると自然と口角が上がった。


「ミーシャ!!!」



 安心していい子いい子と少女の頭を撫でていた時だ。

 後ろから聞き覚えのある少年の声が聞こえた。騒ぎを聞きつけて、恐らくこの子たちのリーダー格の子の声。それでも、私には懐かしい声だった。



「お兄ちゃん!!」



 名前を呼ばれた女の子は、慌てて立ち上がると私を横に通り抜けてその兄と呼ぶ少年へと駆けていった。私は、懐かしいその声に振り返りたくなる。だけどダメだ。顔を見たら帰りたくなるから。私はぐっと、唇を噛んで前を向く。



「すみません、閣下。あとはよろしくお願い致します」


「リアラ嬢?」



 私を背中に駆けだし出た少女とは反対に、私は、振り向かないように馬車に戻ると静かに扉を閉めた。そんな不審な私に閣下も少し戸惑っているようだが、少年が少女を抱えてこちらに来る気配から逃げたくて、私は馬車に乗り込むと、丸まって外から顔を隠す。



 何やら閣下と御者と少年が話をしているのが扉越しで分かるし、少年はひっきりなしに頭を下げている様子が声だけでもわかる。



 たった1ヶ月半。されど1ヶ月半。扉の向こうにいる、お兄ちゃんと呼ばれた少年と過ごしたのは5歳になる前日まで。5歳になる前日に、父と母に告げられた私の本当の生まれ。次の日には迎えが来ると言われた。そして誕生日当日の私は、3歳上の兄にお別れも言わずに出てきた。



 お別れの当日は、兄はいつもみたいにリーダーになり、近所の子どもたちを連れて遊びに行っていた。私がいなくなる瞬間は家にいなかった。その隙を見て、私は迎えに来てくれた馬車に乗って屋敷に向かった。



 何も言えなかった。何も言わなかった。怖かったのだ、バイバイを告げたら二度と会えないと思ったから。それでも、また顔を合わせる機会が直ぐにできたというのに、今更顔を合わせると恋しくなる。家族が、温もりが。兄のぎこちない手のひらが、優しく撫でてくれるあの感触が恋しくなる。



 扉を開けても中が分からないように、入口の近くで丸くなっていたらどれくらい時間が経っただろう。話が終わったのか、静かに扉が開かれて、閣下が入ってくる。扉の近くで、隠れるように丸くなった私に視線を向けているのが分かる。



「リア!!」



 今は、そっとしておいてほしい。そう思っていたのに、開け放たれた扉の向こうで声がした。



 膝を抱えていた私は、懐かしい呼び名に弾かれ顔を上げると、何かを決心したような顔で兄がこちらを見ていた。



「待っていろ。3年後だ。3年後、俺が絶対リアのそばに行くから」



――嗚呼、だめだ。5歳の涙腺弱すぎるよ



 つい見つめてしまった兄の顔を、兄と呼んでいた彼を、視線に捉えた途端に涙腺が崩壊してしまった。しかし、泣きじゃくって困らせるつもりはなくて。私は兄のその言葉が嬉しくて、くしゃっと顔を潰した笑みを向けた。



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