34.朝食の後とルドガーとの小さなお茶会
パンに卵とベーコンとサラダが付いた朝食は憧れのイングリッシュブレックファーストである。子ども用のお皿の大きさなので、閣下の量に比べると、とても少ないだろうが私にとっては十分お腹にたまった。
そこに、ルーナが作ってくれたハーブティーを優雅に口にする。これがこの世界に来てからの朝食風景。本来は閣下の分は閣下本人の部屋で食べる予定なのだが、いつ襲撃してくるか分からないので、私の部屋で二人並んで食べることになった。元々ソファはひとり座り用しかないので、私は、昨日からテーブルの横に準備していた簡易的な椅子に腰をかける。閣下が気にして席を交代しようとしたが、今はこの部屋の主賓は私で、お客様は閣下なのだと説き伏せると納得できない表情で、腰を落ち着かせてくれた。
私はこの滞在中、部屋にひとりで過ごす時間が多いと踏んでいたが、昨日だけでも来訪者が多いと判断して、後でアーレン伯父様にソファを追加してもらえないか聞いてみなくてはならない。だが、今日の予定を知らないので、私はアーレン伯父様と会うタイミングなんてあるのだろうか。
「この後のスケジュールなのだが」
朝食を食べ終わって、お皿を片してもらいながら閣下も食後のお茶を嗜んでいた。
「君が提案していた計画の中でいくつか実行に移したいものがあるとのことで、意見を聞きたいと、アーレン殿とスヴェンダ殿が君を昨晩呼んでいたんだが。11時から時間はあるかい」
おっと、思っていたよりも簡単に転がり込んできた。
私は、閣下の言葉にこくこくと頷いて、
「問題ないです。やることと言ったら、課題をするか楽譜を興すかしかないと思っていたので。時間には余裕があります」
あと2.5時間後の約束をとりつけたのだ。
そうして、ゆったりとした朝食の時間を過ごしていれば、隣の部屋に続く扉からノックが響く。返事を待たずに、開くとトーマスさんが顔を出した。そのまま、閣下に近づいて耳打ちをしたとたんに、閣下の表情は次第に渋くなり盛大なため息を漏らしている。
どうやら早速来たらしい。ハンターが、閣下を狙って。積極的にもほどがあるだろう。朝から随分と気が重くなることだ。私も、ついつい釣られて呆れたため息が出る。そもそも、別館と本館で別々に過ごしているというのに、朝からあの距離を歩いてくるのか。ご苦労なこった。その行動力は賞賛に値するが、行動内容は呆れたものである。
私は見なかったことにして、ハーブティーのお代わりをルーナにお願いした時だった。部屋中にコンコンというノック音が響いた。
今先ほどのこともあるので、全員が固唾をのむ。閣下はいつでも逃げられるように腰を少し浮かせ、トーマスさんは逃げ道を確保できるように隣室へ続く扉を全開にしている。それを確認したルーナが、来訪者の相手をするために扉を開けた。
「やぁ、リアラ。よく眠れたかい。ルドガー伯父様だよ」
そして現れたのは、変態こと朝から元気なルドガー伯父様だった。昨日とは違って、ピシッとしたスーツをシックに着こなして、髪の毛は前髪を上げて整えており、丸い眼鏡をつけている。その格好のせいか、昨晩見せていた幼さの残る顔が一気になりをひそめて、大人な雰囲気を晒していた。
「僕はこれから王城へと帰って仕事に戻らないといけないからね。最後に可愛い可愛い優秀な僕の姪っ子を愛でに来たよ」
見た目は大きく変わったというのに、発言はギリギリアウトな彼のその様子に小さく私は笑みをこぼしていた。張り詰めていた空気が一気に和らいで、伯父様を部屋へと招き入れる。
「いい匂いのハーブティーだね。嗅いだこともないや。これは君が作ったの?」
「はい。普段私たちが口にしている紅茶の成分に、あまり子どもの体によろしくない物が入っているとのことで、何種類かをブレンドしたオリジナルの物でございます。発案はお嬢様ですが、ブレンドをしたのは、庭師と私の弟でございます」
「へぇー、僕もそれを飲めたりする?」
「ただいま準備させていただきます」
そうして、ルーナはその場を退室していった。伯父様を私が座っていた席に促せば私はとうとう座る場所がなく、閣下の膝の上に招かれることとなる。
「リドクリフ様も災難ですね。今、廊下の階段付近をエミリアがうろうろとしてますよ。11時からお兄様との会談ですよね?その移動まではここでゆっくりとした方が得策でしょうね。今出ると捕まります」
ルドガー伯父様の言葉に事情を察した私たちは、改めてため息が深く出る。
「まあ、でも、その前にエイマーがエミリアにきつく灸を据えるでしょうね。エイマーはそういう潔癖なところがあるから。フィリップが、そういうのをし出した時も怖かったなぁ。見た目がどぎついから、怒ると更に怖いんだ」
楽しそうに笑っているルドガー伯父様の前に、ルーナがハーブティーを準備する。
カップに湯気がたつそれを数秒見つめた後に、ハーブティーに手を付けることは未だせずに続けて言葉をつづける。
「フィリップは元々すごく真面目な子だったんだ。しっかりとアルテンリヒト家の誇りを持っていて、将来エステマリア領を承るという話を聞いてしっかりと、自覚していたんだよ。領地経営も真面目に取り組んでいたんだ。変わったのは学校に通ってからかな。リアラのお母さんと出会ってからと言ってもいいかもね」
少し落とした声のトーンはどこか懐かしさを含む。どうやら、父は人生初めての恋にのめりこんで盲目となった挙句、自滅したのだろう。私も、前世、恋に盲目に生きて身投げした記憶がある。身に覚えがありすぎてぐうの音も出ない。だからこそ、今ならわかる。感情的になりすぎるのはあまりよくないのだと。
でも、そうか。学校は15歳になる歳の秋から入学だというのは、アーサー様の話を聞いて知った。そこから3年間というのも聞いている。15歳から18歳は、この世界では社交界デビューが終わって立派な成人の仲間入りではあるが、前世を見るとまだまだ子どもだろう。感情を制御するのも難しい時期でもある。今まで閉ざされていた世界が一気に広がるところに飛び込めば、真新しいものに目移りするのもよくわかる。
だからこそ、
「エステマリア領から出たくないな……」
色々察した私の零した言葉に、大人二人は苦笑いを浮かべていた。
一口メモ:学校編
〇貴族の15歳になる子どもが秋に入学する
・魔法の使い方を16歳までに習う。
女性は、婚約者がいる場合は16歳で入籍することが多く、卒業せずにそのままフェードアウトしていくことが多い。
卒業までいる場合は、官僚志望だったり、婚約者がいない行き遅れとしてあまり名誉とは言われない。
婚約者がいて、卒業してから入籍したいという男性も少なくないため、そういう女性は卒業後にストレートに結婚していく
〇ユージェニー夫妻の場合
・15歳で入学する。リドクリフと元々仲良かったルベリオがある日フィレンカが気になるという話になり、
冬祭りの前にルベリオがフィレンカへ猛アタックし恋人に。
・1年間、婚約者として清らかな交際の後、16歳の冬にゴールイン。
そのまま初夜でエストニックを授かった。




