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03.勉強はやることが多い



「ですから、この国の歴史は――――」



 私は、目の前に広がる歴史書を両開きにして授業に挑んでいたが、文字が何せ習ったばかりで難しいものばかりだ。5歳の子どもに読ませるものでは無いと思いながら、分からなかった単語や言葉は拾って紙に入れて確認をしている。気がついたら中高とやっていた単語帳作成みたいな作業。知らない単語も知れるので、これはこれで面白い。



 私の歴史の担当をしてくれるアンダーソン元夫人は、髪の毛をすべて引っ詰めて、どこかつり目に見えるような細めのメガネをかけている。語尾にザマスとつけても似合いそうだ。見た目は厳しそうだが、私が分からなくて、手を上げるとその都度止めて単語を教えてくれる。ペースは遅いが、私の歩みにそって教えてくれるし、分かりづらかったところを授業後に尋ねると、穏やかな笑みを浮かべて教えてくれる。第一印象のギャップがすごかったが、今では私は素直に懐いていた。



「ふむ、お嬢様には難しい本でもしっかりと読む気兼ねがございます。本当は建国神話の子ども用の本などもあり、それをお渡しもと考えておりましたがこうやって一生懸命に追っかけてくれるのでついつい甘えてしまいますわね」



 なんて、褒めてくれるのでついつい熱を上げて勉強してしまう。まずは、この国のことを全体的に知ってから、自分の領地についての勉強を、とのことで今は建国からの歴代国王を覚えているところだ。難しいと言われてしまうと、難しいし、物覚えが良くないので、毎回覚えてるかをテストしては復習してもらってる。粘り着く教えてくれる先生に感謝だ。



 授業は、1日1科目しかないが毎日ある。月曜は国語、火曜は算数、水曜は歴史、木曜はダンス、金曜は音楽。土曜はマナーで日曜日はお休みだ。だいたい、1日授業は60分を目安だが、私がその後にそのまま調べながら学習するのを分かってるのか、私の勉強が区切り良く終わるまで、先生たちはお茶やお菓子を一緒に食べながら、のんびりと復習に付き合ってくれる。



 全員が、女の先生で全員がとても穏やかな性格で、時に厳しく、時に優しく接してくれていた。特に、ダンスとマナーは、厳しい面を強く出してしまわないとならないので、その後の復習はとてつもなく甘いのだ。先生たちは60分間、鬼教師をしたので、そのあとの復習の時間は褒める褒める。やれ、努力家だと、やれ飲み込みが早いと。それだけで嬉しかった。そして、私はそれだけで彼女たちを信頼してしまっていた。



 そうして伯爵令嬢として毎日を過ごし、毎日のルーティンが決まって、空いた時間は文字を早く読めるようになるりたくて、ルーナが用意してくれる絵本を読んだり、文字を書く練習を1日に30分は必ず入れた。



 それ以外は割と暇な時間も多く、私は音楽に力を注いでいた。前世から好きだった音楽は、今世では教養として受けている。今はピアノの授業を受けているが、貰う譜面は馴染みのないものばかりだ。違う世界に居るのだから前世でやっていたクラシックなどは勿論ない。しかしそれを練習するのが楽しかった。まだたどたどしい所があるが、5歳でも弾けるこの世界の知らない譜面はやりがいもあり、ついついのめり込んでしまっては気がつけば夕食の時間だったりする。



 ルーナ達が1日ピアノの前に座る私を心配するくらいには、結局生まれ変わっても音楽にのめり込むのだなと苦笑いした。



 その日も、空いた時間でピアノの練習をしていた。すると、扉の方からぱちぱちと疎らな拍手が届く。気がつけば、そこには入口に体を預けている公爵閣下が立っていた。



「君がここに来てまだ1ヶ月半だというのに随分と上手だね」



 彼が長いコンパスを伸ばしながら、私の元に向かってくると同時に、私は椅子から飛び降りて習ったカーテシーを見せる。



「うん、とても綺麗なカーテシーだ。よく、家庭教師たちから聞くよ、君は勤勉だと。それに努力を惜しまないから飲み込みも早いと」


「大変恐縮です。先生方の教え方がとても良いのです。私ひとりだとこうもいきませんでした」



 私がこうも丁寧に返すものだから、公爵は綺麗な顔で苦笑する。確かに5歳児がこんなに丁寧な受け答えしてきたらそりゃ、苦笑する。



可愛げもないのだ。当たり前だ。子どもらしくないと言われてしまえばそうだろうが、それでも私は産んだ両親の贖罪のためにも少しでも早く大人にならなければならないのだ。



 こう見えて、ここに来る前はもっとやんちゃだった。外で兄と一緒に駆け回り、泥だらけになり、木登りだってしてた。そこら辺にいる子どもたちと一緒だったからこそ、きっと今の私を見たら兄たちは心配しそうだ。



「閣下……」



 兄たちのことを思い出したからか少しだけセンチメンタルになった。同時に、ここが私の家だと言うのにホームシックにかかってしまったのだ。これを解消できる訳でもないのに、つい、閣下を呼んでしまう。いけないと誤魔化さなくてはならないと、唇をきゅっと結ぶと、ここは5歳児らしく静かに両腕を広げて抱っこのお強請りをしてみた。



 怒られるかな、とお強請りした後にふと不安がよぎるが、そんなこと心配するだけ損したように、でれっと閣下の顔は総崩れし私を抱き上げた。



「リアラ嬢は時折大人っぽく感じるから今みたいに子どもらしいところもあると安心するなぁ」



 閣下は、私を抱き上げたまま今日にピアノをしまうと、そのまま部屋を後にするため扉へと足を向ける。



「君が何を言いたかったかは分からないけれど、誤魔化されてあげるから代わりに僕と一緒に街を見に行こうか」


「街……ですか?」


「そう、港街ライラックへ」



一口メモ:ルーナ編

Q.ルーナの最近のハマり

A.リアラのヘアアレンジ

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