28.晩餐のパーティー開始
「素晴らしいぃいぃ!!天使のようだと思っていたけれど、本当に天使だったのですね」
ルドガー伯父様のテンションがヤバイ。この人、最初の面倒くさがりからのギャップがすごすぎて風邪ひきそう。
「伯父と姪の婚姻は可能だったか確認しなくては」
「え、婚姻?!」
私が、ルドガー伯父様の言葉に驚きの声を上げていると、後ろから閣下が私からルドガー伯父様を遠ざけるように間に入る。
「お前までその勢いで参戦するのはやめろ!?」
「私がダメでしたら、王子殿下との婚約の進言を」
「もっと悪い!!!!!」
ぎゃーぎゃーと閣下とルドガー伯父様の攻防が激しく織りなしている中、婚姻の意味が分からないエス様がルベリオ様に婚姻の意味を確認している。幼い子ども用の砕けた分かりやすい説明を聞いたエス様が、ぱっと顔を明るくして、
「僕がリアとこんいんしゅるー」
と混沌を極めている。フィレンカ叔母様はまぁ、っと嬉しそうに頬を緩めているし、ルベリオ様は随分と真剣にそのことを考えている。
いや、あの、私まだ5歳児で結婚だの婚姻だの、婚約者だの早い気がするなんて、この空気感で言えないなと思っていれば、私を抱きしめている閣下の腕に力が入る。
「結婚やら、婚姻やら、婚約者やらは!!!!リアラ嬢にはまだ早いッ!!!!ダメに決まっているだろう!!!!!」
閣下が盛大に廊下で叫ぶと、逃げるように私を抱えてその輪から離脱した。
晩餐会場に駆け込むように入れば私は感嘆の声をあげた。体育館みたいな広いホールにはシャンデリアがつるされている。それを辺りが照らしてとても明るい。大人たちがダンスできる広さがあり、食事は壁際にビュッフェ形式で置かれていた。
私は、初めてのパーティー会場に興奮する。日本ではこういう形式のパーティーは結婚式だとかそういうのくらいしか思い浮かばない。それでも、結婚式もほとんど着席しているのかと思えば、こういう形式のパーティーは思い浮かばなくなった。
既に、親戚はほとんど顔を出している。後ろに置いてきたルドガー伯父様と、ユージェニー一家も入場したところで全員だったのだろう。会場の扉が閉じられる。
そうして、アーレン伯父様が一歩前に出ると歓談していた一同がしんと静まり返る。
「本日は皆さんお集りいただきありがとうございます。この度の集会は、一族の小さな家族をご紹介しよう。リアラこちらへ」
私を手招きするアーレン伯父様に促される様に、閣下が私を抱えたままその隣に並ぶ。ざっと見ても、大人数だ。先ほどは本当に、父親の家族だけを紹介されただけなのだと理解した。そして、今はそこにはその伴侶や子どもたちも含めると多い。流石に、この広い会場を全て覆いつくすことができるほど大人数ではないが、親戚が一同集まるというのはやはり一大イベントなのだと実感させられる。
私は、一族の前に出ると緊張して顔を引き締める。敵意を含む視線もあるが、殆どが見定めるような視線だ。その中に興味津々というような物、好意的な視線もある。先ほどの圧力のかかったあの空気は、どうやら私のぼろが出ないかを試していたのだろう。私のあの一礼が合格ラインを出たのか、本心の視線を隠す必要がないようで、皆々が思い思いに視線を向けていた。
閣下に下りたいと意志を表示すると、閣下は素直に私を床に下してくれた。そして、先ほどアルテンリヒト家の皆さんに見せたようなカーテシーを披露すると、相変わらず男女それぞれ感嘆の声が漏れ聞こえる。
「この度は、このような場を設けていただき、誠に感謝申し上げます。わたくし、フィリップ・エステマリアの一人娘。リアラ・エステマリアでございます。まだまだ未熟者ではございますが、アルテンリヒト家の一員という誇りを胸に、精一杯これからの領地経営に努めさせていただく所存でございます。どうぞ、よろしくお願いいたします」
私は、カーテシーから頭をあげて回りを見まわしていると、不意に視界が高くなる。閣下が、再度私を抱き上げたのだ。
その様子を微笑まし気に見たアーレン伯父様は、高らかに持っていたワイングラスを掲げた。同時に会場の人たちに飲み物が渡る。私にも、ジュースの入ったグラスを渡された。
「この小さくとも立派な存在を迎え入れ、更なるアルテンリヒトの繁栄を願って!!乾杯!!」
アーレンが乾杯の音頭をとると、全員が乾杯とグラスを掲げた。すると、控えていた楽団たちが音楽を奏で始める。私はそれが気になって、閣下の腕の中できょろきょろとし始める。
「リアラ嬢は本当に音楽になると落ち着きがなくなるね」
普段はあんなに落ち着いているのに、と笑って背中を撫でられると、見透かされていると不貞腐れた表情を向けた。
「リアラ」
そんな閣下と私のやりとりも横からかかる声に遮られ視線を向ければ、穏やかな表情を向けてくれるアーレン伯父様。
「このような体制のまま失礼いたします。この度はこのような会を開いていただき誠にありがとうございます」
私は閣下に抱えられたままだ。私やエス様のように幼い子どもたちは保護者に抱えられている状況もちらほらあるため、問題ない。閣下も下す気がないらしい。私は地に足をつけて挨拶がしたい。なにせ、抱っこされたままだと様にならないからだ。実際に、丁寧な挨拶だけが、態度と乖離して宙に舞っているように今のこの姿は大変恥ずかしい。
しかし、アーレン伯父様は気にしていないのか、私が持っているグラスにワイングラスを軽く重ねてチンっと音を鳴らす。
「いやぁ、リドクリフ殿から、既に5歳児にしてはかなりしっかりしているとは聞いていたが。最初の顔合わせも含めて、今の挨拶も随分としっかりしているね。領地改革の報告書も確認したよ。あれを考えたのは君なんだって?」
「あ……、はい」
幼い私はあまり言葉上手くまとめられていたかは不安だ。一応は、ルートビア様に指示を仰いでまとめ上げたがそれでも幼い私が書いたのだ。文字が少しいびつだった。恥ずかしくて出すのをためらっていたら、ルートビア様が閣下に提出していたのだ。とても恥ずかしい。
「君はまだ若い。これからあれを実行していくとなると、早ければ数年で、長い目で何十年となるようなものが多いと思う。期待しているよ」
アーレン叔父様の表情が少しだけ寂しそうに笑って、手に持っているワインに口をつけた。
一口メモ:アーレン編
名前:アーレン・アルテンリヒト
性別:男
年齢:38歳
長男にして実は兄弟がとても好きだった。フィリップも大事にしていたが、問題が起きるたびに頭を悩ませていた。リアラのしっかりとした口調や態度を見て、本当はフィリップとこういう話をしたかったと少しだけセンチメンタルな気分になっている。




