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24.可愛らしいお友達とミニライブ



 私は、可愛らしくも紳士な対応をしてくれたエストニック様に返すため、先ほどルベリオ様を相手にしたカーテシーと同じものをした。



「とてもご丁寧な挨拶ありがとうございます。エストニック様。私は、リアラ・エステマリアと言います。気軽にリアとお呼びください」



 どう見ても私よりも年下な彼に、かしこまった呼び方を要求しても疲れるだけだ。私は、平民として育てられていた時に家族に呼ばれていた呼び方を伝えると、エストニック様は嬉しそうに顔を上げた。



「リア……しゃま?」



――ん~~~、可愛い。満点。



 心の中でサムズアップを送りながらも、表では完璧な笑顔を向ける。



「はい。様はとても呼びづらいかと思いますので、気楽にリアと」



 私が砕けてもいいよ、と伝えると花丸満点な笑顔を向けて「リア」と言って大きく手を広げてくれた。これは、抱っこしていいということなのだろうか。幼い兄弟がいたことがない私はちらりと親であるルベリオを伺う。すると、ルベリオは冷たい表情とは裏腹に優しい眼差しで一つ頷いてくれたので、遠慮することなくエストニック様を抱きしめる。嬉しそうに力強く抱きしめてくれる小さな存在に、きゅうんっと胸が締め付けられる。



 まだミルクの香りのする彼をしっかりと抱きとめると、背中を優しく撫でてくれた。



「リアラ嬢。良ければ、エストニックをエスと呼んであげてください。家族の間ではそう呼んでおりますので」



 ルベリオの落とす声に頬が自然と緩んだ。



「エス様」



 小さく零すと、エストニック様、基エス様は「あいっ」と元気に返事をくれる。この小さな存在が愛しくてたまらない。一瞬で私は、エス様のとりことなったのだった。



「リアラ嬢。不躾なお願いとはなりますが、そろそろ私は一度、フィルをお迎えに行ってまいりますので、その間エスをお願いしてもよろしいでしょうか」



 腰を低くして、幼い私に視線を重ねながらお願いをしてくる。上位貴族という存在は、閣下も含めて随分と物腰が柔らかだ。私は、断る理由もないので、即答をした。すると、ルベリオ様は愛しいわが子の頭を優しく撫でれば、失礼すると言って部屋を後にした。



「エス様、ルベリオ様がお戻りになるまで私の御相手を願ってもよろしいでしょうか」


「あいっ!!」



 元気よく返事をもらっては、私は彼の手を引いて一人用のソファに彼を座らせた。私はテーブルの上をせっせと片付けながら、さてどうしたらいいだろうかと悩む。私の荷物はほとんどが、本と課題ばかりだ。3歳児にとっては楽しいものはない。そう思ってきょろきょろとしたら、ベッドの横に荷物として持ってきたギターが置かれていた。



 きっと私がいつでも演奏できるようにルーナが一番身近に置いてくれたのだろう。



 私はそれに近寄ると、ギターを引っ張ってきてはテーブルの横で、ぱっかりとギターの蓋を開く。エス様もそれに興味を示したのか、いつの間にかソファーから降りてのぞき込んだ。



「リア、それなーに?」



 触れていいのか悪いのか分からないのか、一定の距離で見つめられる。私は、ギターストラップを取り付けると長さを調整して立って演奏できように構える。そして、エス様を見つめてにっと笑みを向けた。



「これは、アコースティックギターという楽器です。今からエス様に一曲お披露目したいと思いますので、よかったら聴いていただけますか?」



 それにいつものように元気に返事をしてくれた。私は彼を再度ソファに座らされると、たった一人のお客さんに何を聴いてもらおうかと悩みながらチューニングをする。子どもにラブソングを歌ってもあまり響かないだろう。子ども受けのする曲は……と、考えた時に、思い出したのは前世、幼い時に見た青いネコ型のロボットが活躍するあの映画のエンディング。そのロボットと友達の眼鏡をかけた少年たちが猫と犬の住む星で冒険をする、あの映画のエンディングだ。あれがとても良いと思い、そうと決まれば私は手を動かした。



 私は、ピックをもって最初は一音一音を鳴らすと、前奏でコードへと変えていく。この曲はとてもシンプルなメロディーで3番まで歌詞がある。子どもだった時にこの曲を聴いた。そのきらきらとした前奏も夢を見るような綺麗な歌詞も魅力的で、ずっと印象に残っている。歌詞の最後も、明日の幸せを願うような素敵なくくりだ。



 風と遊ぶような可愛らしいメロディーに声をのせて届いてほしい。歌を歌うことがこんなに楽しいということを。歌を聴くことの楽しさを。幸せをのせて歌う喜びを。



 私は、夢中で歌を歌った。歌を歌うと周りが見えなくなり、周りの音も聞こえなくなる。毎日練習した甲斐があって、コードを引ける手の動きも随分と様になった。それを発揮できるように聴いてくれる相手がいる幸せに、胸を膨らませて歌っていたから、本当に気が付かなかったのだ。歌い終わって、目の前のエス様が目をキラキラして拍手をしてくれている。同時に、部屋に響く拍手の音の異様な多さに気が付いて周りを見ると、扉続きの隣室から閣下が。そして、入り口ではルーナと、ユージェニー夫妻が立って私に拍手をしてくれていたのだ。



「いやあ、妻を迎えに行って戻ってきたら随分と明るい曲が聞こえてきたもので、ついつい聞き耳を立ててしまったよ」


「とっても素敵な歌に歌声ね。リアラはその年齢でとてもきれいに歌を歌えるのね。安定していて聞きやすかったわ」



 ユージェニー夫妻がべた褒めしてくるので、流石の私も顔を作れなくなって真っ赤になる。



「リアラ嬢の照れた表情は貴重だね」



 扉の方から閣下がからかった声で告げてくるので、鋭く睨んでみせると肩をすくめている。反省の様子は見られない。



「お母しゃま、お父しゃま、リアしゅごいの」



 ユージェニー夫妻を見つけて、ソファから飛び降りたエス様は、お二人に抱き着きながら興奮気味に報告している。私はそんな空気感に、ただただいたたまれなくなり、楽器を持ったまま閣下の足元に逃げた。その様子を見た、ユージェニー夫妻はどこか楽しそうに目許を細めていた。



一口メモ:エストニック編

リアラには一目惚れ

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