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22.緊張の対面


 この世界でも祖父母の家は実家と言っていいのだろうか。



 目の前に広がる邸は、本当に広くて私の邸宅も広いと思ったがそれの2倍は広かった。今までの中継地点の邸は私の邸宅よりも少し小さいくらいだったが、格上の邸はそれ以上に大きい。流石の私も開いた口が塞がらない。初めて自分の家に来た時の感情となる。



『開いた口が開いたままだよ』


『失礼しました。思っていた以上に広くて驚いたんです』


「リドクリフ様も、リアラ嬢も、今は馬車の中ではないので言語をこちらの言語に戻して下さいよ」



 こそこそとスぺニア語で話していたら、背後からハルシュタイン氏から注意が飛んでくる。私も閣下も先日の説教を思い出してはしゃきっと背筋を伸ばした。目の前に広がる侯爵家の敷地。また、玄関から門までの距離が長いなと己の短い手足を見る。昔みたいに体力づくりをしているのだ、初めて伯爵家の敷地を歩いた時とは違って体力はしっかりと就いただろう。1か月前は4分の3しか走れなかった庭の外周を今は半分まで走るれるようになったのだ。私は、意気込んで足を踏み出そうとしたが、次の瞬間ふわりと体が宙に浮いた。



「君にとっては距離があるだろう。私が抱えさせてもらおうかな」



 すっかりと閣下の腕の中にフィットする私。抱きなれてしまっている。流石に、実家の人たちにこの姿を見せるのはいかがなものかと頭の中でぐるぐる思考を回すが、後ろにいるハルシュタイン氏はどこか悔しそうに閣下を睨むだけで何も言わないし、閣下は閣下で私を抱えて嬉しそうに破顔しているので、もうどうにでもなれと諦めた。



 中央に噴水のある中庭を通って、邸の玄関まで着くと、そこに一人の老齢の執事が私たちを迎えてくれる。その執事は、私を見ても敵意のある視線はなく、穏やかな笑顔を向けてくれた。それだけでほっと安心する。



「お待ちしておりました。リドクリフ・ソングライン侯爵閣下。リアラ・エステマリアお嬢様。皆様がお待ちしておりますのご案内させていただきましょう。宿泊の荷物は、お部屋に運ばせていただいておりますので、スティルス・ハルシュタイン侯爵令息様もご一緒にどうぞ」



 そういって、玄関の扉を開ける。広い玄関に高い天井。ここだけでダンスパーティーが開けそうだ。そして、伯爵邸よりも広いのを肌で感じながら、執事の背中を目印に私たちは廊下を歩く。そして、玄関から入って左手に数多くある部屋の1室の扉が開かれる。



 流石に閣下に抱えられて入室するのは憚れるので、小声で下ろしてくださいと伝えると、ものすごく嫌そうに渋々私は下ろされた。その様子を、執事は和やかな視線で見つめていた。



 入室を促された部屋は、会議室のようだった。上座に、30代後半の見た目をした男性が座っており、左右に男女で分かれて腰を掛けていた。



 上座の両隣に腰かけている老齢の男女が、祖父母なのだろう。そして、そこから年齢順というように、男性が3人、女性が3人並んで座っていた。皆さん顔の造りがとても綺麗で、全員がとても似ている。どうやら、私の親戚だというのも見て取れる。太陽のように金色の輝く髪色と、同じ色の瞳だ。その人たちが、品定めをするように私に視線を向けている。



 正直に緊張で喉から心臓が飛び出そうだった。皆々から注ぐ圧力なんて、ただの5歳児が浴びたら泣き出して引っ込んでしまうだろう。私がただの5歳児じゃなくてよかったなと心で毒付きながら、ゼビエ前侯爵夫人に倣った王室でも通用するカーテシーを見せると、女性たちは少し鋭い視線を。男性からはほおっと感嘆の声を浴びた。



「この度は、お招きいただきありがとうございます。フィリップ・エステマリアの娘、リアラ・エステマリアでございます」



 緊張で噛まないか心配だったので、ゆっくりと言葉を並べる。父であるフィリップの名前を出して、自己紹介をする。その後ろで、倣うように閣下とハルシュタイン氏が軽く会釈をする。それに、上座にいる侯爵閣下が大きく頷いた。



「わざわざ伯爵領から来ていただい申し訳ないねリアラ嬢。綺麗なカーテシーだ。楽にしてくれていいよ。リドクリフ殿も、スティルス殿も楽にしてもらって構わないよ。君たちに頭を下げられると流石に私も困ってしまうからね」



 どこか気さくに笑う侯爵閣下の第一印象はとても良い。もっと厳格な方をイメージしていたが、どうやらそれは杞憂だったようだ。私は、カーテシーをそっと解くと、少しだけ力の入っていた肩の荷が下りる。ばれないように、ふぅっと息を深く吐いて正面を捉えると、笑みを浮かべているが未だに警戒心が解けていない侯爵閣下の視線に、溶けかけた緊張が再び張られる。崩れてはだめだ、と本能で判断すれば背筋をピンっと伸ばす。



「リアラには初めましてだろう。私から順に挨拶をさせてもらおうかな。君の伯父にあたり、現アルテンリヒト侯爵家の当主をしている。アーレンだ、よろしく。そして、祖父の――」



「スヴェンダ、だ。よろしく」


「祖母の、ミステリアよ。お会いできて嬉しいわ」



 そうして順々に挨拶をしていく。



 アルテンリヒト家の次男、ルドガー様。4男の、マルエル様、長女のエイマー様と次女のフィレンカ様は既に嫁いでいるとのことで苗字が違った。そして、末娘の、



「エミリアですわ。ふふ、私が一番年が近いのかしら、よろしくお願いしますわ。そして、リドクリフ様お久しぶりですわ。こうやってお会いできてとても嬉しく思います。滞在期間は是非一緒にお茶でもしませんか」



「お久しぶりです。エミリア嬢。お時間が出来ましたら是非」



 少しだけ固い返事に、私は「おや?」と閣下に視線を送ろうとしたが、今はまだ一族がそろった挨拶の場だ。それは控えた。



「ここは君の実家でもある、滞在は長くはないだろうが、自分の家だと思ってゆっくりと過ごしてほしい。併せて、君と同じくらいの年の子たちも来ているから、よかったら一緒に遊んでくれるかな。また、あとで挨拶をさせようと思う。ああ、部屋のことだがね、中継地点の貴族たちに聞いたよ。君たちは一緒の部屋がいいと報告を受けていてね、部屋は一緒にはできないが扉続きにはしているから安心してくれていい」



 その言葉を聞いて、酷く安心したような空気を閣下のほうから感じた。と同時にエミリア叔母様の表情が少しだけ固まった。何か不都合があるのだろうかと、視線を向けたかったが、今は敢えてそこまで突っ込む気はない。部屋に戻った後に確認をとればいいことだ。私は、伯父に「ご配慮感謝いたします」と再び頭を下げると、晩餐までゆっくりするようにと言われて、部屋を後にした。



一口メモ:アーレン編

子どもが3人いる

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