21.団栗の背比べと緊張
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整っている馬車道を進むが、慣れない馬車の長旅はお尻に来る。ルーナがあらかじめ用意してくれていたクッションをお尻に敷いていなかったらどうなっていたことか。
私は、エルガーから借りた、海を渡って向かいにある、エスぺニア王国の公用語、スぺニア語で記載されている本を翻訳しながら馬車の移動を過ごしていた。目の前では、閣下が持ってきた仕事の資料を眺めていた。
少しだけ夏の色が見え始めた季節。私と閣下は、アルテンリヒトの家へと向かう馬車に向かいで座っていた。
『馬車の中でくらいは楽にしたらどうだい、勉強は着いてからでも出来るだろう』
閣下がスぺニア語で話しかけてくるのを聞き取って、頭の中で処理する。
『それを言うなら、ソングライン卿も仕事をしているじゃないですか』
私は、スぺニア語に言葉を変換して言い返すと、閣下は苦虫を噛んだ表情をした。
エルガーの授業は割とスパルタだった。毎日30個は単語を覚える。文法はほとんど一緒だから、喋ることを意識して単語を覚えるべしとのことで。あとは、ひたすらに授業中やエルガーと話す時などはできるだけ、習った言葉を使用して話す。彼の授業中は、今は身近なスぺニア語を中心に話をしていた。そうして1か月、スぺニア語で会話をしていたため、割と喋ることが出来るようになった。彼に貰ったスぺニア語の本を翻訳しながら読むと、その国の文化をよく理解できるようで楽しい。
侯爵家へ行くという話になった時には、閣下に提案して、できるだけ語学の勉強に適したいため言語はスぺニア語でお願いしている。その話を持ち出したとたんに、嫌そうな顔をされたが、私の成長のためだと言い聞かせて、渋々了承を得た。
閣下は言語学が苦手なのかとハルシュタイン氏に確認をとると、そういうことではないです、と乾いた笑いを浮かべていたので、恐らくもっと違う理由があるのだろう。
『卿も、リアラ嬢もそれは団栗の背比べっていうんですよ。知っていますか』
閣下のとなりで盛大にため息を吐いて、ハルシュタイン氏がスぺニア語で反論をする。じっとりと、私と閣下から視線を受け取ると、ハルシュタイン氏は閣下の手に持っている資料の束を、私からは翻訳した紙の束と本を回収していった。おもちゃをとられた猫のように、私と閣下は揃ってしゅんと肩を落とす。
ハルシュタイン氏はスぺニア語で、勉強のし過ぎは体に悪いし、仕事のし過ぎも体に悪いだのなんだのと、説教を延々に馬車内で聞かされた。そして、説教が終わるころには馬車が最期の中継としている街に到着する。
私は、ふぅっと息を吐くと、止まった馬車から出てぐぅっと伸びをした。ハルシュタイン氏のお陰で新しい単語をいろいろとインプットできたことは大変収穫だが、説教は少しきつかった。すっかりと日が傾いた街に、街の一番偉い人が私たちを出迎えてくれた。丁寧に対応をしてくれていたが、閣下を見る目と私を見る目が大きく違っていたので、私はできるだけ身内から離れないように行動をしようと判断する。
ここで3か所目の中継地点だ。馬車に乗って揺られて3日目。明日には完全にアルテンリヒト家に着く、最後の宿。全ての中継地点で、いい目をされていない。それもそのはずだと思いながらも、だからと言って危害を加われるのも嫌なので、出来るだけ閣下の傍をうろつく。部屋も閣下と同じがいいと駄々をこねる始末である。
閣下は私のこの我儘にいろいろと察したのか、その度に部屋を同室にしてくれる。まだ幼いからできる技だ。そして本日もその技を繰り広げると、顔を曇らせながら目上の人からのお願いともあり立場上断れないのだろう。そのように手配をしてくれた。
『いつも本当に申し訳ないです』
部屋に入りながら、私は閣下に頭を下げると、閣下は優しい笑みを向けて頭を撫でてくれる。
『いや、私も配慮が足りなかったよ。前もって最初から同室にするように文を出せばよかった』
そしてこの会話も同じ流れだ。食事も閣下の隣を所望するが食事には一切手をつけず、そのあとに部屋で別で用意してくれたものを食べ、同じベッドで寝る。まだ幼い子どもだから許される行為だ。流石にお風呂は別だが、ほとんど閣下の隣にべったりとひっつく。中継していた箇所の家々から見た私は、恐らく閣下に甘えている超我儘っ子なのだろう。まあ、身の危険を感じる場所で下手に出されたものを口にしたくない。
それに、閣下へのハニートラップを回避できるとのことで、閣下も素直に私の我儘を通してくれている。お互いがwin-winの関係なのでそこまで困っていないのが現状だ。ルーナはある程度私の世話をしてくれると、この屋敷は危ないからと用意してくれた宿泊先で宿泊する。私自体があまり歓迎されていないというのを肌で実感する。
だからこそ自領を出たくなかったのだ。
すっかりとお風呂を済ませて、寝る時間だというときに私はベッドに腰かけてふぅっとため息を深く吐いた。
『緊張しているのかな』
『それはもちろんしてます。現状、ここに来るまでに見られる貴族たちの視線はとても痛くて、怖いものでした。流石に、侯爵家に着いたら私の我儘は通らないと思っているので、部屋は別々になってしまうのも少し不安です』
『普段はあまり見せない我儘に私もスティルスも嬉しいんだけどねぇ……。まあ、流石に身内である君を害そうとはしないだろうけど、私も出来るだけ君のそばにいるようにするから』
優しい掌が頭を撫でてくれるので、次第に緊張がほぐれてくる。私は閣下の言葉に感謝の言葉を述べると、その掌に甘えるようにすり寄って、最後の中継地点の夜を過ごした。
一口メモ:スティルス編
最近、リトクリフとリアラがとても似てきていると思っている




