15.侯爵家へのお目通し計画:sideリドクリフ
「そうか、リアラ嬢はそういう風に言っていたのか」
赤毛の令嬢は、先ほど話していた内容を一通り報告し終えたら、執事の用意した紅茶に口をつけていた。歩くだけで爽やかな夏の風を運び、演奏は上品で音だけで世界を変えると社交界では言われている、リベルティア・ロトリフス子爵令嬢。彼女の容姿も教養も相まって、婚約の引く手が数多な中、彼女は浮いた話がない。男性に対して潔癖症なのだと噂をささやかれたが、実態は同性愛者だとカミングアウトされ、飲んでいた紅茶のカップを落としそうになった。
家庭教師としてリベルティア嬢を引き抜く際、今後の結婚の話をしたが、それに笑って同性愛者なのだと答えてくれた。リドクリフなら、彼女の恋愛観に変な色眼鏡をつけないだろうと思っての暴露だと告げられ、内心驚いたが納得はした。
そんな彼女から告げられた、リアラ嬢の話に舌を巻く。先ほど彼女としていた、使用人たちの働き方についての話もそうだが、彼女の希望とする領の将来像を聞いて更に驚いた。
文化の始発点の街にしたい。
文化の発祥地と言ってもいいだろう。ここは、港もある。他の大陸からの貿易の地としてもやっていけるのだ。そうすると、他の大陸の文化もここから始まる。更に、劇やオペラ、音楽に関するそれらが領民が気軽に見られるような値段で劇場を観覧する。貴族の楽しみであるそれらが、ここでは、庶民も楽しめるものとなるのだ。
そういうのを作成するには領のお金が動く。そうなると、やはり先建つものを少女は気にしていたらしい。
幼いながらに、音楽の才能が発揮されており、昨日彼女の演奏を聴いて感動していた。聞いたことのない曲調のそれは、この国にはまだない音楽の分類だろう。それを彼女はなんなく弾いてのけたので、大人である自分と店主の目が一瞬で変わった。更に、習っていないというのに歌声の出し方がとても綺麗だったのだ。普通、あの歳だと音が外れるものだが、それも最小限に抑えられておりとても気持ちよく聞けた。
それらを含めても、彼女自体が未知数すぎる。きっと、これから名曲をたくさん生み出してくれるだろうと考えれば、文化の発祥地としての名前は確実に売れる。更に、その曲が各家の茶会や夜会などで使用されれば、更に使用料、購入されれアバ楽譜の購入料とが入ってくるだろう。リアラ嬢が思っている以上は稼げるのだ。しかも、人気な楽曲ほど恒久的に。音楽には流行り廃りはあまり影響しない。その曲が良ければ、数百年と続くのだから。
「彼女は、将来音楽にかける時間は減るだろうから、作成したピアノ曲を編曲して、アンサンブルが出来るようにもしてほしいと私に話を持ち掛けても来ましたわ」
かちりとソーサーとカップの縁がはまった音がする。そして、ゆっくりと顔をあげて、私の方を見る。その深い緑の色が少しだけ怖い。
私は、仕方ないだろうと言わんばかりに彼女から視線を逸らした。音楽家に生まれたからか、彼女は一生を音楽に注げる。それが彼女たちの誇りであり、仕事だからだ。しかし、リアラ嬢は生まれた時からこのエステマリア領の領主になるのが約束されているので、領地経営から勉強までもしなくてはならない。それをしっかりと理解している5歳児も末恐ろしく感じた。
「私としては、領地経営ができる方と共にあり続けていくことにより、時間を確保していただいて、作詞・作曲活動をしていただきたいですわね」
じっとりと見つめられる視線に、言外にお前ら婚約しろよと言われている気がしてならない。
現状、相手は5歳だ。私は20歳だ。政略結婚に年齢差は関係ないが、私が特殊性癖という噂が広がってしまうだろう。スティルスなんて、さっきから無表情を貫いているが、内心は指さして笑いたい気分じゃないだろうか。彼女も、こんな15歳差の、彼女からしたらおっさんに等しい私と結婚などしても、あまり嬉しくはないだろうとも思う。
それに幼いながらにあの美貌だ。初めて彼女を見た時は、歩く人形にさえ見えた。両親とは、知り合いだったこともあり、私は彼女の両親の顔の造りもよく知っている。
だから、彼女が両親からいいところどりをした顔の造りをしているというのは、見て取れたのだ。見た目だけで性格は言葉にできない両親を持つ、そんな彼女が、社交界に出たら、彼女の実の両親の噂も相まって、やっかみがすごいだろう。
男性だと美貌につられてほいほいと尻を追いかけ、女性だと嫉妬心で何を言い出すかわかったものではない。それならば、幼い頃から理解のある家柄と政略的な婚約をさせていた方がまだいいという話なのだろう。
そうなると、この領の領地経営が出来て、彼女のことをしっかりと見て理解ができ、彼女のことを案じれるところとなると、現状あてはまるのが私以外今のところ少ないのが現状だ。女性にとっても、女の子にとっても、結婚というのもとても繊細だ。彼女としっかりと話し合って決めようと、そっとその件については蓋を閉じた。
話を変えるために私は軽く空咳を数回する。
「彼女の目指す領地経営は理解した。そうだな、一度、アルテンリヒト侯爵に挨拶に行かなくてはだね」
アルテンリヒト侯爵は、リアラ・エステマリア嬢の伯父にあたる。前侯爵は彼女の祖父にあたり、彼女の父親は侯爵の3番目の息子であった。当時、アルテンリヒト侯爵家には4人の息子と3人の娘がいた。長男は家督を継ぎ、次男はそのまま宮廷官僚として国王の下で真面目に働き、三男である彼女の父は伯爵を承り、エステマリアの名前を貰った。4男は、長男の補佐官として今もなおアルテンリヒト領で暮らしている。2人の姉妹はそれぞれ両家に嫁いでおり、末の娘は私と年が近いこともあって縁談を組まれそうにはなったが、現アルテンリヒト侯爵によって、別の家と今婚約中だと聞く。私から3歳も年下で皆に可愛がられていたためか、性格は3男と同じように、かなり苛烈に育っている様子だ。それでも、人前での礼儀作法などはしっかりとしているので、公にはあまりその性格は見受けられない。現侯爵はそれを見越して、今の婚約者相手をあてがった。それを間近で見た私は、その手腕に流石の言葉以外出てこなかったのだ。
そんな侯爵家からは、このエステマリアの家は、かの夫婦による数々の行いからか、名汚しとしていい目で見られていない。それでも、今回の彼女の政策や経営の話をすれば必ず会わせるように要求してくるだろう。私は、年内でも春から秋までの半年までしかこの領にいる予定はないので、私のスケジュールを整え、リアラ嬢を連れてアルテンリヒト家に赴かなければならないなと、少しだけため息を零した。
一口メモ:リベルティア編
実は、女性にもとてもモテる




