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14.ラブソングはウケがいい



 少しかしこまった内容の話が落ち着いたころ、先生がそう言えばと楽しそうに声を弾ませて口を開いた。



「先ほど、お嬢様はギターが弾けるとさらっとおっしゃっておりましたが、見させていただくことは可能でしょうか」



 先生曰く、音楽家の家に生まれているので海外の楽器の事情などは聞いたことはあるが、実際に目にしたことがないらしい。私が先ほど、さらっと流した、演奏できるのはピアノとギターだけだと話していたのを、先生はしっかりと拾っていたらしい。絵ではギターを見たことはあるらしいが、実際のものは見たことがないとのことで、私は、ピアノの練習を辞める区切りとして先生の申し出を受け入れた。



 ついた指紋や、ピアノの中に入り込んだほこりなどをクロスで綺麗にふき取り、蓋をしてしまっては私は部屋の片隅に置いてあるギターケースを引っ張ってくる。それをパカリと開けると、寝転がった丸いフォルムについつい笑みがこぼれた。先生も、初めてみるギターに目をキラキラとさせていた。



「見た目はヴァイオリンの大きくなったものみたいに見えましたが、大きさはもちろん、材質も、形そのものも、弦の本数も違うんですね。これはどうやって弾くんですか」



 もう目がきらっきら。新しいものを見つけた子どものようで。見ていてとても可愛らしい。私は、滅多に見られないはしゃいだ姿の先生についつい笑みをこぼすと、ネック部分を掴んで持ち上げ、ケースに入っていたピックを取り出す。昨日は店主さんは知らなかったんだろうな、と思いながら実はケースにピックが備え付けられていたことに感動していた。指で弾いていると痛いので、これはとても助かる。角は丸く処理された薄い木の板を手に持って、私はギターを膝にのせて構えた。



 ピックでひとつひとつ弦を弾いてチューニングを済ませると、



「まだ指の練習はしていないので激しいのは無理ですが、こんな感じでギターは弾きます」



 そういって、昨日とは違うラブソングを歌った。



 これも前世の星座をモチーフにしたタイトルのヒットソングだ。ハスキーな男性の歌声で繰り広げられる優しく切ないこの歌を、私は好きだった。別の、花にちなんだ失恋ソングの方が当時は人気があった気がするが、私は断然こっちの曲の方が好きだった。勿論もうひとつの人気が出た失恋ソングも好きだが、それは今歌うと経験豊富なの?と聞かれそうだったのでやめた。そして、その曲を出すのはもう少し後でもいいだろうという自分の中でも結論付けした。ラブソングはウケがいいが歌詞によっては歌う時の年齢も考えた方がいいだろうな。



 時に、同じコートで上下に数回かき鳴らしたりはするが、コードの切り替えを激しくしないので私はしっかりと歌いきることが出来た。ただ、歌の練習をしていないので一曲をまともに歌うだけで声がかすかすだ。明日から庭を周回し終わったら発声練習しよう、と少しだけ意気込んだ。



 歌を歌いきると、どうしてか先生とルーナは涙しながら拍手をくれる。



「お嬢様、すごくいい歌詞ですね。私、想像して感動してしまいました」



 ルーナが時折、鼻をぐすっと鳴らしながら話す。この曲は私が作った歌ではないので、胸がドキッとしながらそれでも表情を変えずにありがとうと返す。



「いや、弾きながら歌うというのは思いつかなかったです。ギターはそういう風に使われるのですね。ヴァイオリンの音のように繊細さや上品さというよりも、人の心を楽しませるような、快活さと明るさといった楽器の音色を感じました。吟遊詩人たちのような詩ではなく、楽器と歌うというのは、また切って離しておりましたが……これはまたいいですね。オペラもまた楽器の演奏者と独唱者は別ですからね……」



 ふむ……という表情で真剣に私と私の手元にあるギターを見比べていた。普段、宮廷で演奏するのはピアノ独奏や弦楽器のアンサンブルがメインである。実際に流行するのもそのような曲ばかりで、曲を弾きながら歌うというのはあまり見受けられない。だから、先生も珍しく感じたのかもしれない。



 そうして、歌いきって思ったのがひとつ。ギターは安くはないが高くもない。1つで家を2件くらい建てられるような値段のヴァイオリンなどの弦楽器や、ピアノと比べてしまうと、ちょっと裕福になった庶民が面白半分で買えるような値段だ。それを街に浸透させたいと思ってしまった。



 ギターを、祭りとかで弾きながら歌うと面白いのだろうなとも同時に思った。



 音楽は正直に言ってしまえば、生活には直結しないだろう。実際に直結するのは音楽家の人たちだけで、その技術料にお金が発生する。だから、ゆとりの少ない庶民にはあまりなじみがない。歌を歌うことはあるだろうが、それだけだ。



「文化の街にしたいんです」



 不意に出てきた私の言葉に、先生とルーナが顔をあげた。私はギターを膝にのせて落ち着きなく膝小僧をすり合わせる。



「この領を文化の街にしていきたいです。音楽を出発点として、劇にオペラにと。領民が気軽に通えるくらいの値段で見て、評価していくんです。駆け出しの劇作家さんたちを呼んで。文化の始発点といえば、エステマリア領と言われるくらいには豊かにしたいんです。そのためには私は少しでもお金を貯めたいと思っています。楽譜が売れるのでしたら、楽譜をいっぱい書きます。私の歌が皆に響くのであれば歌だって作りますし沢山歌います。なので、先生、私にご協力お願いします。私はまだ幼いから時間があって、こうやって音楽に時間を使えると思うんですが、将来、領の仕事をしたり、勉強をしたりするとその時間はもっと減ると思うんです。そうなると、次はピアノで作曲したものを編曲したのを売ることになる。それには先生が不可欠です。私は、この領の領民の心までもを豊かにしたいと思ってます、先生、よろしくお願いします」



 私は勢いで言い切る。きっと支離滅裂だが先生には伝わったのだろう。そのまっすぐな瞳を見つめ返した後に、椅子を降り、ギターを椅子に乗せると彼女に頭を下げた。



 先生はまだ若い。年齢を聞いて、今結婚適齢期な子爵令嬢だ。ずっといてくれるという保証はない。それでも、今、幼い私は彼女にすがるほかがない。きゅっとスカートのすそを握りしめていると、先生が私の肩に手を乗せる。



「願ってもないことです。私がリアラ様のためになることであれば、お手伝いさせていただきたいと思います。私も、この領が文化の始発点と呼ばれる姿、見てみたいですわ」



 よろしくお願いします、と優しく朗らかに笑う先生の笑顔を見て、私は緊張の糸が切れたのか、大泣きしてしまった。

一口メモ:スティルス編

最近自分はロリコンではないかと少し考えてしまうときがある

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