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102.後悔の念に月光を添えて


「もうよー、そんなに落ち込むなら最初からそんなこと言わなきゃいいだろうよ〜」



 エルヴィンが呆れた声で私の肩を叩く。



「私のせいで婚期が遅れてるのに今年も社交から離れるのは良くないもん。夏場が社交シーズンだとは言うけれど、冬場だって色々とパーティとかあって、出会いの場はあるし。少なくとも、こんな片田舎のエステマリア領よりは断然いいはずなの」



 私が先程から心境を表すかのように短調の和音ばかりピアノで奏でている状態だ。


 今は、お昼すぎたあたりの私の自由時間だった。基本この時間に作曲やら音楽の練習やらをしている。それを知ってか、隙を見つけたエルヴィンも一緒にここで歌の練習や、歌劇の分からないところを聞きに来るのがもっぱら日常と化していた。


 あれから5年。

 すっかりと青年となったエルヴィンは、身長も体つきも、丹精な顔つきもさることながら、イケメン具合が急上昇していた。元々色素が全体的に薄かった彼だが、それにより更なる神秘さが増したようで、スカウトした私もドン引くほどに彼の見目はリドクリフ様以上に調ってしまったのだ。


 また、役の練習のために、街の人達に軽い寸劇などを繰り広げていたからか、役者として街にいることも知れ渡っている。この5年で老若問わずに女性ファンがついた。むしろファンクラブなどが出来ており、エルヴィンも悪いことでは無いのでその対応をしたりもしている。雇い主の預かり知らぬうちに、ファンミーティングなんかしてたときは流石の私も驚いたし度肝を抜かれた。自分で調整して、自分で場所を儲けて、なんだったらそのファンクラブの人たちに手伝ってもらいながら、安全に終わらせていたのだ。事後報告された時は流石に怒った。やってはダメでは無いが、知らないで事件や事故が起きた時に彼やそのファンの人たちに大変な事が起こるからだ。人員を確保もするのでやる時は今度はきちんと報告、と釘を指してからは、定期的にそういう会を開いては信者を増やしてる。


 宗教でも開く気か。


 そんなエルヴィンも、ステラ嬢の指導のお陰で、今となっては大根が抜けてすっかりと役者となっていた。


 一時期、邸に勤めていたが、今ではしっかりと領で抱える役者として彼を雇っているので、そっちの方は辞めさせている。その変わり、その時間を稽古に費やさせた。


 そんなことをしている内に、気がつけばそれなりの団員が集まっていた。ほとんどがステラとリベルティア先生のツテだ。これに関しては、リドクリフ様やルドガー叔父様は使い物にはならなかった。芸術・芸術界隈は芸術・芸術界隈で完結してしまうのだろうか。それとも興味がなかったのか。きっと後者だろう。


 いや、リドクリフ様は元王子だったのだからもっとツテを持っても良かったのではとは思うが、あの甘々な顔面で女優なんて侍らせたらそれだけで下衆な噂が蔓延る。あの顔に、色香むんむんのナイスバディーな超絶美人――そう、不二子ちゃんみたいなの――を想像してみよ。お似合い以外の言葉が出てこまい。ゴシップ大好き界隈な社交界からしたら格好の餌だ。顔がいいとはいい事ばかりでは無いという事だ。


 それだと言うのに未だに出会いが無さすぎて浮いた話のひとつやふたつも無い。むしろ、無さすぎる。なんてったって、私のわがままでエステマリア領からここ5年離れていないからだ。たまに邸を不在にすることはあるが、王都まで帰ってる様子はない。1週間以上の不在は5年間のうち見たこともない。さらに言えば、私という娘がいる時点でお荷物過ぎるのだ。いや、養子縁組とかしていないので娘と言うよりは保護対象ではあるが。一応は、婚約者という立ち位置ではあるが、あの人は幼すぎる私を娘以上には思わない。思われても困る。この歳で女と見られたらそれこそただの変態(ロリコン)であろう。イケメンでもそれは流石にドン引き案件だ。



「そうは言うけどよ。実際にお嬢様は幼いんだし、保護者としては当たり前だと思うぞ」



 エルヴィンは“お嬢様”と私を言うけれど、その口調はだいぶ砕けている。人前ではきちんと従者のように丁寧に対応してくれるが、今みたいに私とルーナとエルヴィンだけの時は完全に砕けきってしまうのだ。ルーナは最初の頃は嫌そうに眉間に皺を寄せていたが、私が説得してはそれ以降は見て見ぬふりをしてくれる。



「そうなんだけどさ……。それだったらリドクリフ様じゃなくてお爺様たちでも良かったもの。私のわがままでこの領地に縛り付けすぎてしまったわ」



 短調の和音だけだった手元からベートーヴェンの月光へと切り替えたが、その心境も曲も暗いことには変わりない。私は手と同時に口も開く。ただでさえ、静かな単調な曲だというのに、私の声のトーンがさらに低くなる。



「だぁーー、もうさ。やめろよその曲。曲と話がマッチ過ぎてこっちが暗くなる」


 私の脇を掴むと椅子から離すように持ちあがる。10歳ってそれなりに体重増えた気もするが、それの倍の身長と体型と体力をつけたエルヴィンはサラッと私を抱き上げた。物理的に鍵盤から手が離れると音楽が止む。イヤイヤと捕まえられた猫のように膨れっ面にはなるが暴れる気は無い。すっかりと大人の手になったエルヴィンの手のひらは大きく感じた。



「不服」


「そう思うなら、本音をぶつけて来いよ。ソングライン閣下はお嬢様の言葉をしっかり聞くだろうよ。きっとあの方もお嬢様から突然そんなことを言われてたいそう気にしてるし傷ついてるかもしんないじゃん。あんたは時折年相応に振る舞えばいいって」



 エルヴィンが優しい声音で頭の上から言葉を落とす。それが優しくて胸の奥からグッとくるものがある。それが溢れそうになるのでぐっと唇を引き結んだ。こういう時に、昔馴染みのエルヴィンの飾らない言葉が心に沁みる。


 邸の使用人から見ればよく思わないだろうが、貴族階級のステラにも同じような態度となるのでおそらく彼のこれはデフォルトだ。それに助けられてるのは本当で、少し安心を覚えてるというものだ。私からしたらエルヴィンは一番の友だちなのだ。彼に諭されてしまえば、沈んだ感情も含めて素直にさせられた。



「リドクリフ様と話してくる」



 小さくぽそっと拗ねたように告げると、領内1の美丈夫の、それはそれは破壊力の高い笑顔の暴力を受けた。


【一言コメント】

エルヴィンは領内1のイケメンでモテる

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