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101/103

101.リアラ10歳になりました


 細長い王国の南西に位置するこの領地。海と牧場と畑が広がった農民たちの家とは離れたこのエステマリア邸でも、季節の変わり目は分かる。


 透き通る青空はとても眩しいが、まだまだ温かさを残して、私が伯爵邸に来てから5回目の秋が来た。


リアラ・エステマリア。今世の私の名前だ。

 エステマリア伯爵家の長女で、次期エステマリア領の領主が約束されている、ただの美少女なんだけど、5歳の誕生日までは平民として暮らしていた。育ての親に実の両親の実態やこの領で起きた過去の出来事などを事細かに説明され、その日のうちに実家と言われる伯爵邸へと移り住んだ。


 育ての親と言うように、私を産んだ両親は既に居ない。この領地で悪行の限りを尽くした両親は、当時の第三王子だったリドクリフ・ソングライン公爵閣下の手によって、断罪された。そんな荒んだ領地を建て直してくれたのが、当時15歳だったリドクリフ様と、父方の祖父たちだ。私はそれを知らずにのうのうと平民の家で、平民として暮らしていた。


 そんな私には、物心ついた時から別世界の記憶がある。それは、日本でシンガーソングライターとして二十歳まで生きていた記憶。元恋人に裏切られ、追い詰められ、そのまま自ら命を絶った時の記憶。所謂前世の記憶だろう。ライトノベルもわかりやすい異世界転生というやつだ。


 だからなのか、幼い頃はそんな記憶を薄らと携えながらものびのびと幼子らしい生活をしていたが、伯爵邸に移ってからは、意識を変えなくてはならなくなったからなのか前世の性格が全面へと出てしまっていた。今思えばもう少し上手くできただろうと思うのだが。あれやこれやを欲しがった結果、今ではすっかり見た目は子ども、中身は大人であることを周知には認知されている――決定的に言われたことは無い――。前世持ちであるとは伝えてないが、きっと話したら「あー、察し」という具合だろう。やりすぎた感はある。すごくある。反省はしてるが後悔はしていない。何故ならお陰様で、我が領は国内有数の大変裕福な領へとなったから。


 しかし、私はまともな一般社会を経験していないので、他のラノベ主人公よりはあれやこれは知らない。だが、外側だけでも高い生活水準に教育、公共施設等を経験してしまえばそれを恋しがるのは仕方ない。この世界に、ましてやこの国の基準に落とし込むのは大変だったが、私の提案を大人たちは随分と頑張ってくれたものだ。お陰様でこの歳になるまでに、――それぞれに機能がまだ未発達だが――学校が出来た。図書館もある。公共の病院はまだだか、お抱えの薬師が多いお陰か、気がつけばお医者様も来ることが増え、気がつけば民間医療までもが充実している。元々、貿易港があったから外国の商人は多く訪れていたが、その人たちが泊まる宿や、なんならビーチ周辺に豪華ホテルなどを調え建てたことによる観光地化によって収益も増えた。収益が増えたということは、領に人が増えた。そう、今ではエステマリアはあの長閑(のどか)な領地ではなく賑やかな領地となっている。


 郊外で農家をしていた人たちも、時折街に来ては屋台でお店を出したりするものだから、お小遣いも稼げているのだろう。私はそんな裕福になった領民の税金を毎年少しずつ上げては、公共施設の維持費にかけたり、お役人さんたちのお給料、領民を診てくれるお医者様方にお支払いをしてたりする。領民も生活水準が上がってることを実感しているからか、税金が上がっても特に何も言われない。むしろ、出ていくお金より入ってくるお金が多い上に、昔はちらほら見えていた貧民という層が減ってるのが目に見えてわかるからだろう。


 それでも安くない税金なので、不平不満を告げられることがある。特に関税や観光税だろう。この地域に住んでればそこまで高いとは思わないが、他の地域から来た人たちからすれば安くない物価に目を丸くするだろう。それでも、エステマリア領は魅力的なのか、観光客が途絶えることは滅多にない。むしろ、この地に来れる人たち、滞在できる人たちは裕福層が多く、それでいて観光推奨の土地に選ばれているので、国内外共に今では憧れの地へと変わっていた。(日本で言うハワイとか沖縄とか)


 それは一重に2年前完成した、オーシャンビューが一望できる丘の上に建った建築物のおかげだ。外見はひとつの村を集約したような広さを持つ大きな建物。一見はお城だが、私はそれを商業施設と言っている。中は豪華な宿泊域と貴族相手に商売をしていた商売域で分けており、商売域にはアパレルからレストランまでが揃っている。宿泊域はそのまま高級ホテルであり、王族を初めとした国内外の貴族がよく宿泊に来るようになった。丘の上に建っていることもある為か、海が一望出来るし、高波が来ても安全な為、最悪、海沿いの領民の避難区域ともしている。そのためか、歩いて来るには少しだけ遠く、お客様は馬車を使用して街とホテルを行き来させている。勿論、貸馬車も出している。


 そうしたことによってか、領内に入る収益が随分と増えた。なんだったら、まだ10歳という私の元に大量にお目通りを願う手紙も増えた。更にはリドクリフ様と婚約しているというのに釣書まで届く。二言目には愛人にどうかと言われている始末。中には令嬢のものも同封されており、それはリドクリフ様宛の愛人候補らしい。貴族というのはなんともタフな人間たちばかりだ。



「もう、この中から選んだらどうですか?」



 私がリドクリフ様に、自分の釣書に混じってるリドクリフ様宛の釣書を渡しながら伝えると、その綺麗で甘やかな顏を絶望色に染めあげていた。



「リ、リアラは、もしかしてその中に気に入った令息がいたのか?」


「あ、いえ、そうではなく――」


「ならん!!!リアラは絶対にやらん!!!リアラは私と結婚するんだから!!!」



 人の話を聞かないイケメンは、執務机を思い切りドンッと両拳で叩けば乗っていた諸々が少し浮いた。バランスの崩した書類タワーはそのまま形を崩して机から雪崩ている。



「とりあえず、その対象の子息たちを調べあげていきましょう。私たちのお眼鏡に適わなければ二度とこの地を踏ませなければいいのです」



 とんでもない事を口走る、リドクリフ様の補佐官のハルシュタイン氏。その顔は笑っているのに笑っていない。この男たちは少し私を過剰に保護しすぎだ。


 リドクリフ様と婚約を結んだのは5歳の時。当時20歳のリドクリフ様と婚約を結んだ時の条件に、私が15歳までにきちんとリドクリフ様の婚約者を選ばせるというものがあったはずだ。もし決まらなければ本当に私はそのままリドクリフ様と結婚しなくてはならない。


 今、私は10歳。そして、この5年間リドクリフ様は私を気にかけて王都へ帰っていない。再三、国王陛下が帰ってこいという手紙を送られているらしいがすげなく無視してるらしい。ホテルが開業した時も、国王一家がわざわざお越しくださった時に、泣きつかれていた――読んで字のごとく、リドクリフ様に王様が泣いて縋っていた――というのに、リドクリフ様は首を縦に振らなかった。


 その為5年間、リドクリフ様は社交に戻っていないのだ。出会いの場というものがない。元々は春から秋はリドクリフ様が、秋から春まで祖父母が来る予定だったというのに、私が寂しさにリドクリフ様を引き止めていたのだ。流石に10歳ともなればある程度出来る。今では領地経営も手伝っているし、領民は皆して私を認知してるので何も問題ない。そろそろ彼を解放してやらないとならないし、彼にも出会いの場というのは必要だろう。



「違いますよ。リドクリフ様もいいご年齢ですから、1度お見合いしたら如何ですか。私ももう10歳ですし、ひとりでも平気です。護衛もいますし。元々お約束しておりました、秋から春はリドクリフ様は王都での政務を全うするというもの、今季から王都へ帰られてはいかがでしょうか」



 足元に舞い降りた嘆願書を拾いながら静かに伝えると、リドクリフ様が動揺したように椅子を揺らした。



「リ、リアラは私がいなくても平気なのか……?」


「はい」



 絶望顔のリドクリフ様にすっぱりと私は即答した。


 平気かと言われれば平気ではない。5歳の時ほどでは無いが、やはりいないと寂しいし、いて欲しい。まだ、貴族令嬢になりたてで右も左も何もかも分からなかった私に、沢山そばに居てくれて、沢山言葉を交わしてくれたのは今目の前にいるこの人なのだから。中身が大人であろうとも、やはりこの人に懐かないわけは無いのだ。だが、ここで即答しなければお見送ろうと決心した私の心が鈍ってしまう。


 だから私にも彼にも心を鬼にして私は平気なフリをしなくてはならないのだ。5歳から続けている淑女教育のおかげで顔を作るのは得意だ。お陰様で本気で私が言っているのだとリドクリフ様も納得したように、最後はガックリと肩を落として承知してくれた。



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