01.大きな屋敷と豪華なお召し物
はじめまして。年齢差という好きを詰めてみました。見切り発車で始めてしまいましたが、
面白いと思った方は☆をいただけますと幸いです。
修正)リドクリフの容姿が設定ぶれしていましたので修正しました。
青い瞳→緑色の瞳です
最初だったのでぼんやりとした輪郭で書いておりました。また、文章の方も後ほどいくつか修正いたします。
目の前に広がる宮殿のようなお屋敷に、開いた口が塞がらない。
私を育ててくれた家族は下町で暮らしている。父は町役場で事務員を、母は専業主婦。3歳上の兄と4人で暮らしていた、ただの一般人だった。だけど、彼らとはきっと血は繋がっていないのだろうなと、幼いながらにも私と家族の見た目から、物心がついたばかりの頃から私は理解していた。それでも血の繋がりなど関係なく、愛情深く接してくれる人達に大切に育てられたので、私は彼らを家族と思っていたのだ。
リアラ・エステマリア、5歳。私の正式な名前と、正式な年齢。そして、ここはエステマリア伯爵領にある、行政街ブーゲンビリア。行政街と言っても、行政の中心と言っただけで中身は割と農業と酪農がメインのこの街は都市と言うほどではない。むしろ、伯爵領の都市はもう少し南だ。海があり、貿易としても盛んな港街がある。様々な国々の人たちの出入りが激しいそんな街は、流行の最先端ということもあり、賑わっていると言うのを育ての親から聞かされていた。
そんなエステマリア領を治めるはずの伯爵である父とその妻である母は、私が産まれてから数ヵ月後で死刑にされた。豊かな土地と豊かな海に面したこの領地からの恩恵を湯水の如く使った。カジノに歌劇に宝石にお洋服にと、領地を経営することも無く遊び呆けたのだ。
その結果、豊かだったこの土地に陰が差し込んでは闇がはびこり始めた。豊かだったはずなのに、港街ではガラの悪い人達がうろつき、農業で賑わっていたブーゲンビリアでは、平民はその日暮らしがやっとという具合なギリギリの生活をしていた。それを見かねた王家がメスを入れたのだ。
断罪で親が捕まっていく中で、当時産まれたばかりの私は、温情で生き延びることが出来た。その時に庇ってくれたのが、父と母を摘発した当時第3王子だったリドクリフ様だ。今は、1代限りの公爵の役職を受けてる。そして彼が20になったら私の貴族後見人として後ろ盾をするとのことで、それまでを当時乳母をしていた私の育ての親に引き渡されていたという。
そして今日、私はめでたく5歳となり閣下の配下のもの達に連れられて、実家に帰ってきたという訳である。目の前にそびえ立つ建物が、元々自分の家だと言われてもピンと来ない。下町の、少しだけ狭いけど4人家族には丁度いい広さの風呂なしトイレなしの木でできたお家がとても懐かしくなってくる。
5歳の短い足で、馬車からゆっくり降りると目の前にズラっと並んだ白黒の服を着た男女が一斉に頭を下げた。それだけで怖気付いてしまう。ふうっと息を吐いて、家の玄関より少し上に目線を向ける。表情は無邪気よりは少しだけ落ち着かせた大人の笑みを意識し口角を上げた。
「出迎えご苦労様。皆さん、至らないところが多いかと思いますが、よろしくお願いします」
頭を下げようとしたが、こういうのは下げずに小さく頷くことがいいと、どこかで見た気がする。頭を上げるように指示を出して、私は彼らの間を小さな足で懸命に歩いた。自分の家だと言うのに、どこか夢の国をモチーフにしたテーマパークを思い浮かべてしまうな、なんてぼんやりと思う私はこの世界とは違う前世の記憶を持っている。
物心ついた頃から夢を見ていたそれを、前世なのだろうと理解したのは、私のこの少し1歩見て物事を判断する能力があることから来ている、前世の私は、爆発的に売れたわけではないがそれなりに名を知られた歌手だった。幼い頃からピアノを、高校生のころからギターを始めたことがきっかけで大学受験をもせずに路上で歌を歌っていた。その当時の親から大学に行っても行かなくても高校を出たら一人暮らしと約束していたので、高校卒業後は素直に家を出た。20歳迎えるまでは、親の最低限の仕送りとアルバイトを掛け持ちしながら、私は歌を作って歌を歌った。
それが実を結んだのか20歳になる少し前に歌手デビューとなる。爆発的に売れることはなかったが、ドラマやCMなどのタイアップを受けて、それなりの生活ができるくらいには成功していたのだ。
それでも闇はある。
私の最後は、高いところから見える景色だった。当時付き合っていた、年下の俳優に当時のマネージャーと浮気をされる。それと重なるように母の訃報。もう心がやつれていたのだ。ある事ないことを記者に追いかけられ書かれた。何もかもすり減って何もかもどうでも良くなった。そうしてぷつっと切れた理性が、もうやめたいと言う暗い気持ちを背負って、気がついたら――
家族には悪いことをしたと思った。父に至っては妻に先立たれ、娘も追いかけるように同じ年で命を絶つ。今になって思う。私は先に親が亡くなっていたから、残された気持ちを理解しようと思えば出来たのだろう。する気が起きないのは、実感が湧かないからだ。なにせ、昨日の今日でこの生活の変わりよう。幼い私に理解しろと言う方が恐らく難しいのだ。
――学びたい。もっと色々と知りたい。ただやりたいことをやるだけじゃなく、やりたいことをやる為に、学ばなくてはならない
あの時、大学へ行ってたらもっと進める先があったのではないか。普通に働いていれば、素敵な人に出会えていれば。たらればの話ばかりになってはもう遅いのだ。
前世の記憶を思い出しては気持ちが落ち着かなくなる。さわさわと心を嫌な撫で方で不安がしてくるので、次第に少し息苦しいとさえ思える。それを私は、小さな体に酸素を大きく取り込んだ。それだけで、息苦しさが消えてしっかりと両足で立てる。
目の前にそびえ立つ我が家の玄関。小さな体から見たそれは、高級ホテルかなと思うくらいには、高く、大きく、それでいて厳かだ。権力の象徴だと思いながら、玄関の前に立てば両開きの扉がゆっくりと開いていく。ピッタリと重なってた隙間が広がった先、広い玄関ホールに1人の男性が立っていた。
幼い私からでも分かる。彼はとても高身長だ。更に股下が長い。よくネタで股下2mだという言葉を聞いていたが、この歳だと正に股下2mの圧巻。すらっとした三つ揃いのスーツは、シワひとつない。そして何よりも顔がいい。少しタレ目で優しそうに柳眉が下がっている。薄い唇に通った鼻梁。薄いミルクティー色の髪は、長いため後ろで1本でまとめている。手入れが行き届いてるからか、長くても汚く感じなかった。女性に好かれるタイプの優しく甘いマスクは、幼い私でも大人な香りがした。
「やぁ、君がリアラ嬢かな」
口臭までも薔薇の香りがしそうだ。そんなことを思いながらカーテシーのやり方など分からない私は、戸惑いながらワンピースの裾をつまんだ。
「無作法で申し訳ございません。リアラ・エステマリアです、公爵閣下」
5歳ともなれば舌っ足らずにはならない。だが、少しだけ喋るのが大変だ。丁寧な言葉ほど突っかかりそうになるのを、ゆっくりとした口調で誤魔化した。目の前で、私がお利口にお辞儀をするものだから、目を丸くして驚いている。綺麗な緑色の瞳が零れそうだ。それでも、それは一瞬だけしか見せないで、きゅっと薄い唇を結ぶと、私の目線の高さに腰を落としてくれた。
「丁寧にありがとう。ここまで大変だっただろう」
甘いマスクが柔らかく笑うと、それだけでバニラの香りがする。後ろで、見てしまった女性の使用人たちが少しだけざわめき立つのもわかる。これは、我が家の使用人たちは、この公爵様のお陰で頑張ってくれそうだ。
一口メモ:リアラの容姿
とてつもなく綺麗な容姿をしている。ハニーブロンドの髪はふわふわで、白雪のように透けた肌はしみひとつもない。小ぶりな口と鼻に対して目元は大きく、まつ毛も長い。くるりと自然とまつ毛も巻かれている。小さな顔に絶妙なバランスでパーツが配置されており、誰が見ても美人である