あなた達が殺した娘の一周忌です。
授業が始まるチャイムが鳴って、教室に入ると私の机と椅子だけが倒されていた。
倒された机の周りに私の鞄の中身が散らばっていた。
これが初めてではない。
今まで何度もあった。
小さな嫌がらせになると、どれだけあっただろう?
教室の中では誰も私と口を利かない。
幼馴染みで親友だった子も同じクラスなのにいつからか、教室の中では口を利いてくれなくなった。
毎日、私の何が悪かったのか必死で考えたけれど答えは見つけられない。
幼馴染みの子に聞いても理由は解らないと言った。
私自身、それほど目立つタイプの人間ではなかった。
ゴールデンウイークが明けて、学校に行ったら朝の挨拶をしても誰も答えてくれないようになっていた。
皆に理由を聞いてみた。
「うざっ・・・」
たったそれだけの返事だった。
担任にも、副担任にも相談した。
生活指導の先生にも相談したけれど、事なかれ主義の返事しかもらえなかった。
私は鞄の中に入れていたロープを取り出し、教室にあるテレビに紐を引っ掛けた。
何度か引っ張って外れないことを確認したとき、担任が教室に入ってきたのが見えた。
私は自分の倒れた椅子をテレビの下に置いて、輪の中に首を入れ椅子を蹴り飛ばした。
私以外から悲鳴が上がり、私は息のある間中体を大きく揺らして苦しんでいるように見せて、一人一人と目を合わせていった。
最後には担任とも目を合わせた。
誰も私を持ち上げて助けようとはしなかった。
いい大人の担任も。
私の意識はそれで終わった。
学校から娘が死んだと電話があった。
信じられなくて「いたずら電話は止めてください!!」と言って電話を切った。
また直ぐ電話がかかってきて、今度は警察だと言った。
娘は学校でのイジメを苦に教室で皆が見てる前で首を吊ったと言う。
警察署へいま直ぐ来て欲しいと言われて、私は慌てて警察署へ向かうことになった。
警察署で色々説明されたけれど、理解できなかった。
娘の遺体を見て初めて理解できた。
首元に青い筋がくっきりと付いていた。
「学校の中でどうして?」
警察にも学校にも説明を求めたけれど回答は得られなかった。
娘の幼馴染みで同じクラスの子の家に行き、理由を尋ねると、泣きながら「イジメがあった」とだけ答えた。
綺麗に片付いた娘の部屋で呆然としていたら机の上に一通の封筒が置いてあった。
慌てて帰って来た夫とその手紙を読んだ。
お父さん、お母さんへ
ある日突然イジメが始まったんだ。
死にたくて自殺するわけじゃない。
私をイジメた子達の人生を潰してやりたいんだ。
私の部屋の机の引き出しに、赤い表紙のノートにイジメの詳細の全てを書いてある。
死んじゃってごめんね。
クラスの子達や担任が助けてくれたら自殺未遂で生き残れるかもしれない。
賭けなんだ。
でもきっと私は賭けに敗れると思う。
お父さん、お母さん。
本当にごめんなさい。
愛されて育った娘より
娘の机の引き出しには赤い表紙のノートと、スマホが入っていた。
ノートを読み進めると、スマホに教室でどんなふうに扱われているのか、イジメの証拠集めのために映像に残してあると書かれていた。
私と夫は覚悟を決めてその映像を見た。
教室が俯瞰で見られるようにカメラは設置されていた。
娘が触れた物は汚いと罵られ、突き飛ばされ、持ち物は窓から放り投げられていた。
自殺をした瞬間の映像もあった。
私達にはどうすれば自殺したときの映像がスマホに収めることができるのか解らない。
娘は苦しいのか、バタバタと暴れている。
クラスの誰も助けようともせず、担任までもがただ呆然と眺めているだけだった。
私と夫は新聞社とテレビ局に娘のノートとスマホを持って行った。
翌日から『中学生のイジメの実態』と新聞にシリーズ掲載されることになり、テレビでは実名は伏され、顔はぼやかされていたけれど、娘が残した映像が何度も何度も流された。
そのうち、ネットではクラス担任、副担任、生徒指導教師、クラス全員の顔写真入りでさらされることになった。
娘の葬式はテレビで報道され、クラスメイトや学校の関係者がやって来たが、テレビや報道の姿を見て逃げ帰っていった。
私と夫はノートに書かれていた人と、学校を民事裁判で起訴した。
弁護士さんに「映像の中で暴力を振るっている子達は傷害で、持ち物を破損させた子達は器物破損で訴えましょう」と言われて、警察に訴えた。
証拠の映像があるので、警察も動いてくれた。
罪自体は軽いものだ。
けれどその子の経歴に残る。
いいざまだと思った。
担任には人殺しと言って責め立てた。
あなたなら助けることが出来たはずだと。
担任は自宅で首を吊った。
クラスメイト達には毎年娘の命日には手紙を出そう。
ネットのブログでクラス写真を娘の命日には晒してやろう。
お前達が娘を殺したんだと。
裁判で僅かなお金を支払われることに決まった。
その結果も大きく報道された。
私と夫はもっと厳しい判決が下りるようにと、被害者の会を立ち上げた。
娘の死くらいで世の中は変わらない。
けれど、誰かのなにかに一石は投じたと思いたい。
そう信じたい。
娘の一周忌が近づいてきて、引っ越していったクラスメイトの所在地を探偵を使って調べ上げた。
大きな出費になったけれど、かまわない。
私はハガキを送った。
封書だと開けずに破かれる可能性があるから。
あなたが殺した娘の一周忌です。