恐ろしい出来事 2
気づくと、緑の館のフェリの部屋だった。
足がガクガクして、フェリはそのまま倒れ込んだ。
「大丈夫かい?」
誰かの声が聞こえる。
頭がぼんやりする。
そうだ。
ランドル皇子は……。
フェリのすぐ目の前に、青い鳥が舞い降りた。ずっとフェリの前を飛んでいた鳥だ。
「よく頑張ったな。途中で倒れちまうかとヒヤヒヤしたよ。ギリギリ持ったな」
「鳥が……」
フェリは呟いた。
「鳥が、しゃべっている」
鳥は翼を広げた。
「俺はグリッグ」
青い鳥の姿がゆらりと動き、鳥は青年の姿となった。
明るい水色の瞳。柔らかそうな栗色の髪が波打つように腰の辺りまで伸びている。
さっき、金の髪を結い上げていた女性の側にいた人だ。
グリッグはフェリの部屋を見回し眉をひそめた。
「お前、ここで寝てるのか?」
「……」
フェリは、体が重く、頭が上手く回らなかった。
「……まあいい。俺もしばらくここにいるから」
そう言ってグリッグはフェリのそばに屈んだ。
「何でも相談にのろう」
そこでフェリははっとした。
「皇子は、ランドル皇子は!」
グリッグは微笑んだ。
「大丈夫だ」
「ど、どこ?」
「どこってお前……」
可笑しそうにグリッグが視線を落とした。
フェリもその視線の先、自分の手元を見ると……そこには真っ白い猫がいた。
フェリが今まで大事に抱えて走ってきたもの。
それは、一匹の猫だった。
「猫……」
猫。猫だが、しかしフェリは、この猫がランドル皇子だと分かった。
そう、この猫はランドル皇子だ。
「じゃ、ランドル皇子は助かったのね」
「ああ。お前が頼んだから、エイディーン様が助けてくださった」
「でも、でも、どうして猫なの?」
「そりゃお前、皇子のままだったら運べないだろ?」
……そうか。
フェリは腕の中の猫を見つめた。
「驚いた?」
フェリは首を振った。
「猫……」
「ああ」
「よく……分からないけど、これはランドル皇子なんだよね。そして、皇子は死ななかったんだよね」
どうしてと言われても困るけど、フェリにはこの猫が皇子だとわかった。
グリッグはちょっと目を見張った。
「……そうだ、な」
「じゃあ、いい」
そして、ぽろぽろと涙をこぼした。
「よかった。本当によかった」
不意にフェリは猫を抱いたまま、気を失うように眠ってしまった。
グリッグはまたちょっと目を見張り、それから小さく笑った。
「参ったな」
そう呟いた。