表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/71

一緒に 2




 中に入り、フェリを長椅子に降ろすと、ランディはお茶の用意を始めた。

「今日はここの使用人たちは休みをやったから、誰もいないんだ」

 そう言って自ら動く様子に、フェリは慌てて立ち上がった。

「ラ、ランディ、私がします!」

 しかしランディは首を振った。

「ずっとグリッグがやるのを見てたからね、私も中々上手いんだよ」

 

 やがて、確かに手際よく整えられたお茶のワゴンを押して、ランディがサンルームへ行く。

 フェリはランディに頼まれ、庭の花を切ってきた。

 どれでも切って構わないと言われたので、素晴らしいエルダーの木から、エルダーフラワーと、溢れるように咲いているピンクの薔薇にした。

 それをテーブルに飾ると、ランディは微笑んだ。

 

「フェリの見立てはすごいな」

 そう言って、フェリの前のティーカップの隣に、ランディは何かを置いた。

 それは、指輪だった。

 大きなピンクダイヤモンドと、シードパール。それはまさにフェリが切って飾った花のようだった。

 

「母が使っていた。皇室に代々伝わるものだ。だから、もしかしたら元々はフェリの母君の国のものかも知れない」

 フェリは恐る恐る手に取った。

「なんて綺麗……」

 ランディがほう、と息を吐く。

「すごくよく似合うよ。フェリにぴったりだ」

「あ、あの……」

 ランディは少し頬を染めて、にこにこしている。

 この美しい指輪は、いったい……。まさか、プレゼント、なんてことは……。

 と、フェリが考えているとランディが言った。


「結婚式はなるべく早くしようね」

「…………?」

 そこでフェリは驚いてランディを見た。

「…………結婚?」

「私たちはずっと一緒にいるんだから」

「……あ……」

 そう、ずっと一緒と、そう言った。けど、そうか、それはつまり……。

 

「ランディと結婚……て、ランディは皇太子、だよね……」

「そう、フェリは皇太子妃だね」

 

 フェリは青ざめた。

 皇太子妃? ……それは、ゆくゆくは皇后という……?


「それは、無理では……」

 ランディの目がキラッとした。

「どうしてそんなこと言うの?」

「あ……」

 フェリは目を伏せた。


「……私、それでなくてもいろいろ遅れている、のに……」

「問題ないよ、大切なのは、私とこの国を愛してくれることだから」

「で、でも私、いろいろなお仕事、きっとできません」

「いろんな、ってどんな仕事?」

「えと、何か、この国の、えーと、お金のこととか、よその国との外交のこととか……」

「フェリが仕事しないと成り立たないわけはないだろう?

 それなららこの国は今までも、これからも、やっていけないよ。

 皇族は、たくさんの臣下に支えられているんだ。

 みんな立派にそれぞれの仕事をしてくれている」


「……」

「もちろん、フェリにやってもらいたいこともある、──かもしれない。でも、これからゆっくり覚えれば大丈夫なんだよ」

「ランディ……」

「だから、フェリの仕事は、さっきも言ったように国を愛し、たくさんの臣下達と信頼関係を築いていく事、まずはそれができれば大丈夫だよ」

「…………」

「そして、いつも私のそばに居てくれることだ」


 こんなにたくさん続けて話すランディは、あまり見たことがない。

 フェリは不安な反面驚いてランディを見た。

 フェリの視線に気づいたのか、ランディは困ったような顔をしてフェリの手を取った。

 

「フェリ──。

 私は今必死なんだよ。

 フェリに断られたらどうしようって。

 皇太子妃なんて嫌だって言われたら──」


 フェリが口を開くまもなく、またランディは話し続ける。

 

「どうしても不安なら、そうだリンジーに補佐官として入ってもらってもいい。フェリが慣れるまで補佐してもらう、──あと、」

 早口で話し続けるランディは、なんだか少年のようで、フェリは胸がいっぱいになった。

 

「あと、そうだ、しばらくは皇太子妃の仕事、というのは無しにして私とフェリと二人で一緒に仕事をしよう、そうだ──」

 

 フェリはランディの手を握り返した。

 はっとしてランディが口をつぐむ。

その顔はなんだかとても、不安そうにみえた。


「フェリ──」


ランディの瞳が揺れる。


「どうか、断らないで──ほしい──」


フェリの胸に温かいものが広がっていく。

 

「……ランディ、本当に……ありがとう」

「フェリ──」

「お仕事のことはわかりませんが。ランディが大丈夫というなら……。私はランディのそばにいます」

 

 もしもどんなに大変なことが待っていようとも、ランディから離れることはできない。フェリはそう思った。

ランディのいない毎日はきっと耐えられない。

 離れたくない。

 絶対に。

 

 ランディの目元がうっすら赤くなった。

 とても優しい目……。そしてどこか恥ずかしそうな……。

 

「フェリ、ありがとう。


私たちは、ずっと一緒だ。


約束だね──」


「はい」

 

 

 フェリは何か大変なことに足を踏み入れてしまったような、取り返しの付かないことを決めてしまったような、そんな気持ちと、それからこの上ない幸せな、夢の中のような気持ちに揺られながら邸へと帰って行った。

 

 不安はまだ大きかったが、ずっと隣で寄り添うように揺られていたランディと離れた時に、言いようのない寂しさを感じて、フェリは涙が滲んだ。

 

 小さくなる馬車を見送り、振り返ると。

 

 そこにグリッグが立っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ