仮面舞踏会 5
「御光来ありがとうございます」
進み出たのはランドルだった。
ランドルは女王に恭しく跪くと、
「陛下はそこに」
と皇帝陛下を示した。
「命が尽きそうに見えるが」
「賊に襲われました」
女王は短く笑った。
「まったく、いつ来てもこれだな」
そう言って女王が軽く首を傾ける。
ランドルは頭を垂れた。
親子揃って無様な姿を見せてしまったと、心の内で詫びる。
マントの騎士──間違いなくグリッグ──が進み出た。
その後ろから男が一人付いてくる。シャツにベストを羽織っただけの、庭師か馬丁のような男だった。
「私どもの薬師は優秀でな」
女王の言葉とともに、男が陛下に近づいた。
傍にいた医師たちが飛び退る。
男は自分も血だらけになるのも構わず、陛下を抱えた。
「へ、陛下に何を……」
思わず駆け寄ろうとしたリンジーをランドルが止めた。
ネイハムと騎士たちも踏み出そうとした。
と、漆黒の騎士たちがゆるりと動き、槍をぴたりと向ける。
ネイハムたちはその場で固まった。
男は──陛下に何かを飲ませていた。
──傷にも、何かをしている。
驚いたことに蒼白だった陛下の頬に赤みが指した。
ランドルは心から安堵し、すかさず控えていた医師たちを呼んだ。
「引き続き手当を。
陛下に剣を向けた者の名はゆっくり聞こう。──そして」
ネイハムに顔を向ける。彼を見据えたまま言った。
「副団長」
呼ばれてリンジーが前へ出た。
「一年前に私を斬った者を捕らえろ。
ネイハム・エト・ランフォード。
そしてランフォード大公。
それからその色褪せた赤いマントの者たちだ」
リンジー、そして青いマントのグランデ騎士団、深緑のスファル騎士団が詰め寄る。
真っ青になった大公、ネイハムも怒号を発した。
数でいえば薄紅色のマントを肩に載せた者たちは、圧倒的に多数だった。だが、漆黒の甲冑の騎士たちが無言のまま彼らを取り囲んでいる。動こうとすると槍を向けられ、どうすることも出来ない。
蒼白になったネイハムが叫んだ。
「ランドル! お前はカーシー皇太子を毒殺しただろう!
許されると思っているのか!」
「そ、そうだ!」
大公が声を上げる。
大公は玉座に顔を向けた。女王に向けて、
「ランドル皇子は兄である皇太子を殺めたのです」
と必死に言いつのる。
グリッグが静かに言った。
「証はたてられるのか」
大公は待ってたと言わんばかりに頬を紅潮させた。
「もちろん! ご、ございます、ここに、これ」
大公がそう言うと、近くに控えた騎士が何かを出した。
「へ、陛下にお見せしようと持って参りました」
しかし、大公もその騎士も恐怖のためか、足が動かない。
「ど、毒使いとランドル皇子が交わした契約書です」
グリッグが近づくと、後退りする。大公は騎士を無理やり前へ押し出し持っていたものを差し出した。
一枚の紙をうけとった受け取ったグリッグは、その場で読み上げた。
「毒薬と金千枚を交換する。
レピオタ・ドー
ランドル・レイ・シアドラー」
そしてこう付け足した。
「偽物だ」
大公は蒼白になりながらも言いつのった。
「な、何をおっしゃいます、本物です! 何よりの証に皇子の印璽が……」
グリッグは答えた。
「では、本人に聞くとするか」