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妹 2




 書斎へ入ると、リンジーは早速調査の結果を父に伝えた。

「あの館は、義母が正夫人になってから使用人が全員解雇されたようです。残念ながら代わりの者は雇用されず、執事だけは新しい男が入りました」


 父は怒りの表情を浮かべた。

「あの館とフェリシア用に、経費を渡していたはずだが」

「ほぼ全額どこかへ消えていますね」

「病だと聞いて、医者の費用もずっと渡していた。それから皇帝陛下はじめたくさんの見舞いの品があったはずだ」

「それも消えています」

「……テルシェが全て仕組んだのか」

「他に誰かいますか?」

 リンジーは苦い笑みを浮かべた。


「その、新しい執事の男を捕まえました。何故か体を壊し寝たきりになっていましたが。

 それで、そいつが言うには、最近は義母ではなく、ラティーシャが管理していたようです」

 父は頭を抱えた。


「あんなに贅沢をしているのに、妹の物を奪うのか……」

「……ラティーシャが管理するようになって、持っていく食料品や日用品はさらに減らされたとのことです」

 父はしばらく言葉を失った。そしてようやく

「……悋気だろうか」

 と呟いた。

 

「エイディーンは本当に美しかった。それをテルシェが嫌ったのか……。ラティーシャは、母に倣ったのか。私はなんと言って詫びれば……」

 父はまた涙を浮かべた。


 心の中でリンジーはため息をついた。

 昔から父はこういうところがある。

 剣の腕も立つし、陛下の側近としての様々な手腕も見事だ。だが、相手が女性だと変に甘いのだ。ロマンチックな面があるといえば聞こえがいいかもしれないが、もっとしっかりしてほしい。


 窓の外へ目を向けると、すぐそばのハンノキに鳥が止まっていた。見たことのない青い鳥だ。尾羽が長くて美しい。

 だが、その目が何となくじっとこちらを見ているようで、リンジーは目をそらした。


「少しお茶でも飲みましょうか。それともブランデーでも?」

「ああ」

 リンジーは父を残し部屋を出た。

 ここに使用人は置いていない。


 建国祭までフェリシアを人目にさらしたくない、とサー・グリッグが言うので、そうしている。

 ここに出入りするのは「()()()()()()()()に館を訪問してくれた」というストリンガー男爵夫人とエドニ嬢、それとやはりサー・グリッグと一緒に来たという侍女だけだ。


 なので、自分でお茶の用意をするとリンジーは書斎に戻った。

「実は、ラティーシャの周りを調べていて、わかったことがあります」

 父は渡されたカップを手にした。

「ブランデーは」

「夜にしましょう」

 父は落胆の色を浮かべるが、それは気づかないふりをする。

 

「私は父上もご存知のように、ランドルが消えてからその行方を必死に追いました」

 何かが起こった。リンジーはそう確信した。ランドルが自分からどこかへ行くはずなどない。


「そして、東の宮近くの森で、血の跡とランドルのシャツのボタンを見つけました。覚えておいでですか?」

「もちろんだ」

 父は答えた。


「そのちょうどランドルの行方がわからなくなった日。

 ラティーシャの元へネイハムが来たというのです。

 ネイハムは傷を負っていて、ラティーシャが医者を呼び、よくなるまで匿っていたと」

 父の目が急に鋭くなった。今までとは表情が違う。皇帝の側近、ラムズ公爵の顔になった。


「……それは、ただ事ではないぞ」

「その通りです」

「ランドル殿下は……」

「……父上も殿下の剣の腕はご存じでしょう、襲われたとしても、ただではやられないはずです」

「……」

「そして、もしも」

 リンジーはそこでぐっと奥歯を一度噛んだ。

「もしも殿下が戻られないとしても、あの話は絶対に有り得ません」

「そうだな」

「私は、必ず真実を見つけ出します。あんな……あんな話を信じている者を、許さない」


 そこでリンジーはハッとした。

 部屋の隅でこちらを見上げている目に気づいたのだ。

 それは、白金の猫の、美しい青い目だった。


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