フェリの誕生日 4
外へ出ると、ちょうどローズガーデンに庭師のロイが居るのが見えた。
薔薇のアーチが連なっている一画で、熱心に剪定をしている。
「ロイ、久しぶり!」
すぐ側に行ってフェリは小さく声をかけた。ロイは驚いて剪定バサミを落としそうになった。
「おお、お嬢さん」
ロイはいつもどうしてか、つっかえながら話す。
あたりは薔薇の香りでむせかえるようだった。
ロイはとても親切で、フェリにハーブの事を教えてくれたり、野菜を育てる手伝いをしてくれる。でも、一度レオンに見つかってひどく怒られたのだ。それからフェリは用心して声をかけることにしている。
「いつぶりかな、また会えたねー」
「あ……、さ、寒いうちは、中々、お、お会いできませんで……」
「そうだね。でもロイ、玉ねぎのとこ雑草抜いててくれたでしょ、ありがとう」
フェリがにこにこそう言うと、ロイは笑ってるような困ってるような顔をした。
それからフェリを見てハッとした。
「……あ、おお嬢さん、……そそ、その服は……」
「ん? ……ああ」
フェリは着ていた服ををつまんでにっこりした。
「そうそう。この間もらったこの服、助かってるよ、ありがとう。前のはさすがに小さくなっちゃって」
フェリが着ているのは、ロイの息子の服だった。どれも着古してくたくただったが、フェリが頼んで譲ってもらったのだ。
「ま、ま、またお出かけですか」
「うん」
フェリは嬉しそうに答えた。
「出かけてくるね」
ロイははっとした。
「そ、そうだ」
足元の剪定道具を入れてある袋を引っ張り上げ、口を開ける。
「おお、お嬢さん、こ、こいつは今朝うちのやつが持たしてくれたもんですが、よ、よかったら……」
ロイが取り出した包みは、ベーコンとチーズが挟まったサンドイッチだった。
「わあああああ」
フェリの目がきらきらと光った。
「サンドイッチ? サンドイッチだあああ」
嬉しさのあまり、フェリの目に涙が滲んだ。
「いいの? ロイ、私にくれるの?」
「こ、こ……こんなもの……でよよ……」
ロイがつっかえながら、そう話した時には、もうフェリは「ありがとう!」と言ってサンドイッチにかぶりつき食べ始めていた。
「あああ、あの、そそ……そんなに、あわわわ……てないで……」
心配そうにフェリを見ながら、ロイはあたりを見回した。誰もいないと思うけれど、もしもレオンなんかと鉢合わせしたら……と顔に書いてある。
しかし、心配する暇もなく、フェリはあっという間にサンドイッチを平らげてしまった。
もう、なくなっちゃった。美味しかった……。ちょっと残念な気持ちと幸せな気持ちが入り混じる。
「美味しかった! すごくすごく美味しかった。ロイ、ほんとうにありがとう」
「ええ……、あの……お、お嬢さん、もっと……」
ロイは慌てて残りのサンドイッチも差し出した。
「そしたらロイの分が無くなっちゃうよ」
フェリはサンドイッチから目を引き剥がす。
「もう行かなくちゃ」
「おおお嬢さん、いいんです、ま、まだあります。お、お嬢さんのぶ分までって、うううちのやつが……」
でもフェリは首を振った。
「ほんと、行かなくちゃ。ロイ、またね!」
「あ……おお嬢さん……その、きき気をつ……」
ロイが話し終える前に、フェリは歩き出していた。
「ありがとう! ロイ!」
もう一度そう言うと、フェリは手を振り駆け出した。
あんな、男の身なりをして、いつも一体どこに行くんだろう……。
ロイはその後ろ姿を見送った。
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