表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/71

フェリの誕生日 4




 外へ出ると、ちょうどローズガーデンに庭師のロイが居るのが見えた。

 薔薇のアーチが連なっている一画で、熱心に剪定をしている。

 

「ロイ、久しぶり!」

 

 すぐ側に行ってフェリは小さく声をかけた。ロイは驚いて剪定バサミを落としそうになった。

 

「おお、お嬢さん」

 

 ロイはいつもどうしてか、つっかえながら話す。

 あたりは薔薇の香りでむせかえるようだった。

 

 ロイはとても親切で、フェリにハーブの事を教えてくれたり、野菜を育てる手伝いをしてくれる。でも、一度レオンに見つかってひどく怒られたのだ。それからフェリは用心して声をかけることにしている。

 

「いつぶりかな、また会えたねー」

「あ……、さ、寒いうちは、中々、お、お会いできませんで……」

「そうだね。でもロイ、玉ねぎのとこ雑草抜いててくれたでしょ、ありがとう」

 フェリがにこにこそう言うと、ロイは笑ってるような困ってるような顔をした。

 それからフェリを見てハッとした。

 

「……あ、おお嬢さん、……そそ、その服は……」

 

「ん? ……ああ」

 

 フェリは着ていた服ををつまんでにっこりした。

「そうそう。この間もらったこの服、助かってるよ、ありがとう。前のはさすがに小さくなっちゃって」

 

 フェリが着ているのは、ロイの息子の服だった。どれも着古してくたくただったが、フェリが頼んで譲ってもらったのだ。

 

「ま、ま、またお出かけですか」

「うん」

 フェリは嬉しそうに答えた。

「出かけてくるね」

 

ロイははっとした。

 

「そ、そうだ」

 足元の剪定道具を入れてある袋を引っ張り上げ、口を開ける。

「おお、お嬢さん、こ、こいつは今朝うちのやつが持たしてくれたもんですが、よ、よかったら……」

 

 ロイが取り出した包みは、ベーコンとチーズが挟まったサンドイッチだった。

 

「わあああああ」

 フェリの目がきらきらと光った。

 

「サンドイッチ? サンドイッチだあああ」

 嬉しさのあまり、フェリの目に涙が滲んだ。

「いいの? ロイ、私にくれるの?」

「こ、こ……こんなもの……でよよ……」

 

 ロイがつっかえながら、そう話した時には、もうフェリは「ありがとう!」と言ってサンドイッチにかぶりつき食べ始めていた。

 

「あああ、あの、そそ……そんなに、あわわわ……てないで……」

 心配そうにフェリを見ながら、ロイはあたりを見回した。誰もいないと思うけれど、もしもレオンなんかと鉢合わせしたら……と顔に書いてある。

 

 しかし、心配する暇もなく、フェリはあっという間にサンドイッチを平らげてしまった。


 もう、なくなっちゃった。美味しかった……。ちょっと残念な気持ちと幸せな気持ちが入り混じる。

 

「美味しかった! すごくすごく美味しかった。ロイ、ほんとうにありがとう」

「ええ……、あの……お、お嬢さん、もっと……」

 ロイは慌てて残りのサンドイッチも差し出した。

「そしたらロイの分が無くなっちゃうよ」

 フェリはサンドイッチから目を引き剥がす。

「もう行かなくちゃ」

 

「おおお嬢さん、いいんです、ま、まだあります。お、お嬢さんのぶ分までって、うううちのやつが……」

 でもフェリは首を振った。

「ほんと、行かなくちゃ。ロイ、またね!」

 

「あ……おお嬢さん……その、きき気をつ……」

 ロイが話し終える前に、フェリは歩き出していた。

 

「ありがとう! ロイ!」

 

 もう一度そう言うと、フェリは手を振り駆け出した。

 

 あんな、男の身なりをして、いつも一体どこに行くんだろう……。

 ロイはその後ろ姿を見送った。


ここまでお読み頂きありがとうございました。感謝いたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ