息ができない
ランドル皇子が人の姿に戻れた!
猫から人に!
フェリは嬉しくてたまらなかった。
どうやらロイが渡してくれた古い指輪の石が、魔力を持っていたらしい。とても地味な感じだったのに、分からないものだ。
フェリは窓の下の長椅子から、暖炉の近くでグリッグと話しているランドル皇子を見ていた。
皇子は髪が伸びていた。
美しい白金の髪が、肩の下くらいまで長くなっている。皇子が顔を動かす度に、その髪がさらさら、さらさらこぼれて揺れて、フェリは、もうずっとうっとりとそれを眺めていた。
そうだ、背も伸びたかもしれないとも話していた。
伸びたのだろうか。
こうして見ると、背の高さはグリッグと同じくらいだ。
フェリにはよく分からない。
なんと言っても皇子が人だった頃は、遠く離れた場所からしか見たことがないのだ。ただ一度だけすぐ側に行ったのは、あの皇子が斬られてしまった時だけ。
フェリはその事を思い出すと、また涙が込み上げてくる。
あの時の怪我はすっかり治っているようだ。
本当に、本当に良かった。
と、ランドル皇子がぱっとこちらを見た。
目が合って、ひゅっとフェリの息が止まる。
フェリが遠くから見ていたランドル皇子は、いつも厳しい雰囲気だった。
なのに、この、今の、皇子の、フェリを見る目がとても優しいような、感じで、……息が出来なくなってしまうのだ。
しかも皇子は嬉しそうにフェリ目掛けて走ってくる。ほんの二歩くらいで皇子はたちまちフェリの目の前に来て、屈んで、鼻と鼻が触れそうなほど近くに顔を寄せる……。
「皇子」
皇子の後ろからグリッグが、ぐいと肩を引っ張る。
「だから近いんだよ」
そしてグリッグはフェリに
「息! 止めない!」
と厳しく言った。
自分で止めているつもりはないんだけれど……。
フェリは深く深呼吸する。
それを見てグリッグは不機嫌そうな顔をした。
「あーもう、とりあえず昼飯!」
と大きな声をあげる。