表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/71

公爵邸 6




「フェリシア」

 

 どこからか、声が聞こえた。

 顔を上げるとランディだった。

 ランディは二階の窓から顔を出すと、そのまま飛び出した。

 思わず小さな声を上げてしまったフェリの目の前に、くるりと回って、ふわりと飛び降りる。

 

「ランディ、大丈夫なの?」


 走り寄って小声で尋ねると、ランディは「大丈夫」と答え、それからフェリを見て首を傾げた。

「どうした? 顔色が悪い」

 フェリが何も言えずにいると、ランディは隣のグリッグに顔を向けた。

「どこか、身を隠せる所に移った方がいい。ラティーシャがフェリシアを捕らえるよう騎士に命じた」


 え、私?

 フェリは驚いた。


「捕まったら殺される」

「……え?」


 グリッグの顔を見ると、

 グリッグは少し目を見開き、それからなんだか楽しそうな顔になった。

「おお」

 声まで弾んでいる。

「いよいよか」

 

 いよいよ? 

 フェリは拳を握ってた。

「絶対負けない! か、返り討ちにするから」

するとランディは「は?」と言い、グリッグは笑いだした。

「無理無理。ちょっと剣を握ったからって……」

「でも……」

 言い返そうとしたら、頭をがしがしされた。

「まあ、見てなって」

 そう言うと、空を見上げた。


 どこからともなく水色の小鳥が現れ、グリッグの肩に留まる。

 グリッグが何事か囁くと、小鳥は飛び立っていった。

 それからランディを見ると

「皇子、大丈夫だ。むしろ……そう、大歓迎かな」

 そう言ってまた笑う。


 フェリはその顔を見ていると、なんだかふっと力が抜けた。

 ランディはまだ不満そうだったが、グリッグに促されて館を後にした。


 アビが「じゃあ、早く戻ろう」と先頭に立って飛び始める。来た時のように、妖精の近道らしい森へぐんぐん進む。

 フェリはランディを抱っこして後に続いた。来る時は走っていたランディだが、今は大人しくフェリに抱かれている。


 フェリは、ふわふわのランディをぎゅっと抱きしめた。

 そうしていると、なんだかとても落ち着いて安心するのだった。

 

 少し遅れてグリッグも来た。

 歩きながらグリッグがランディに向かって尋ねた。

「来るのはラムズ公爵家の従騎士か?」

「違う」

 ランディは答えてから、少し口をつぐみ、「グランデ騎士団……かもしれない」と答えた。


 フェリはハッとした。

 グランデ騎士団と言えば、ランドル皇子が団長になっていた騎士団ではないか。フェリが皇子宮に忍び込むと、いつもグランデ騎士団の騎士達がいた。あの人達がフェリを捕まえに来る……。

 ランドル皇子の部下なのに。

 団長はもう別の人なのだろうか。


 フェリは胸が重くなった。

 結局、ランディを元の姿に戻せそうな石も見つからなかったし……。

 フェリが考え込んでいると、ランディが口を開いた。


「さっき言った返り討ちってなんだ? ちょっと剣を握ったって──」

「あ……」

 余計な事を言わなければよかった。フェリはそう思った。


「ランディがまだ眠ってた頃、……グリッグに剣を習ってたの。

 でもドレスを着てると、剣を下げられなくて……。

 ……剣を持てても、そんなに上手じゃないんだけどね……」

 フェリは話しながら、ちょっと落ち込んだ。


 もしも、また皇子が斬られたりする事があったら、自分も一緒に戦おうと思った。だから、グリッグにお願いして剣を教えて貰っていたのだけど、正直、まだまだ大した腕ではない。そしてこの先腕前が上がるともあまり思えなかった。


 せっかく来たのに、何も見つからなかったし……。

 ランディを人の姿に戻すって、絶対、って思ったのに。


 フェリの腕の中で、ランディが舌打ちした。

「フェリシアがそんな事をする必要はないんだ」

 そして長い尻尾をパタパタと動かした。

「まったく」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ