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公爵邸 5




 何も見つからなかった……。

 

 フェリはがっかりした。

 確かに、フェリから奪っていった物はあったのに。

 全部違ってたなんて。

 

 帰るしかない、か。


 今日は暖かい陽気だからか、庭へと通じるドアはいくつかが開け放してある。

 フェリはそこから出ようとして、ふと足を止めた。


 何やら玄関ホールの辺りが騒がしい。

 何事かと、奥の部屋から出てきた女性達がハッとして膝を折った。

 頭を下げた女性達を見下すようにしながら、ホールの方から別な女性達がやって来る。


 廊下がたちまち女性達で溢れかえり、フェリは慌てて大きな花瓶の脇に身を寄せた。


 奥からは男性もやって来た。

 立派な身なりをした男性は、胸に手を当てお辞儀をした。

「奥様。お帰りなさいませ」


 ホールからやって来た一行の先頭にいた女性が、厳しい声を上げた。

「出迎えが遅い!」

「申し訳……」

 すると朗らかな声がそれを止めた。

「かまわないわ」

 その声に、ホールから来た女性達も一斉に頭を下げる。


 今や顔を上げているのはたった一人だった。

 深い赤の贅沢なドレスに身を包み、金の髪を美しく結っている。

 一目で高貴な人とわかる美しい女性だった。


「急に思い立ったんですもの。仕方ないでしょう」


 ……奥様。


 フェリは花瓶の陰からその人をじっと見た。


 ……奥様? じゃあ、この人が公爵夫人……。

 と、その時だった。


 羽の付いた扇を手に、ゆったりとやって来た女性が足を止めた。


 フェリのすぐ前だった。


 フェリはビクッとする。


 ……大丈夫。

 私の姿は見えない……はず……。


 しかし女性は扇を自分の顔の前でパッと広げると、その陰から透かし見るようにこちらを向いた。


 金茶の瞳が、花瓶の辺り……フェリのすぐ側をじっと見る。


 フェリの心臓がバクバク音を立てた。


 ……ど、どうして? なな何?


 フェリの手が震える。


 女性はどのくらいこちらを見ていただろう。

 

……と、不意にその女性は前を向いた。


 そうして、また歩き出す。

 女性とその取り巻きが廊下の奥に見えなくなり、他の人達も居なくなるまで、フェリは全く動けなかった。


 怖い。


 なんだかひどく怖かった。


 誰もいなくなりようやく庭へ出ると、フェリは長く息を吐いた。

 青い鳥が飛んで来て、グリッグへと変わる。

 フェリのすぐ側に立つと、グリッグは館の奥を眺め「あれがテルシェか……」と言った。


 フェリはグリッグの袖を引っ張った。

「……怖かった……」

 まだ心臓がドキドキしている。

 

「……あの人、私に気づいたみたいにこっちを見てた」

「見えねえよ」

 グリッグが言う。

「……でも怖かった」

 

 グリッグはフェリの肩に手を置いた。

「あれの里はダイアス家だな……。

 あそこは昔から少し俺らの気配を感じるんだ」

「そ、そうなの?」

 グリッグが頷く。

「しかし、勘がいいんだか、悪いんだか……」

 グリッグは眉をひそめて呟いた。 

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