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「……ね、ねえ、グリッグ?」

 

 フェリは両手を目の前まで掲げて尋ねた。


「……鍵、が、あるよ?」


「だな」」


 フェリもグリッグも、ランディも、みんなフェリの手の上の鍵を見つめた。


 グリッグがぷっと笑った。

「フェリ、緊張しすぎだ。普通に、普通に」

 鍵を載せたフェリの手のひらは、突っ張って反り返り、上にのせた鍵が今にも落ちそうだった。


「あ……。そ、そうだね」

 フェリはふうっと力を抜いた。

「急に鍵が出てきて、びっくりしちゃって」

「エイディーン様からのお使いだ。何か……フェリに伝えたい事があるんだろう」

「私に……? 何かな……」

「行ってみるか」


 グリッグは部屋を出て歩き出した。この鍵がどこの鍵だか、知っているのだろうか。

 フェリは不思議な気持ちで後に続いた。

 ランディもついてくる。フェリが抱きあげようとしたら、ひらりと逃げてフェリの前を歩いて行った。


 グリッグが向かったのは図書室だった。

 フェリは鍵を握りしめてグリッグとランデイの後を追った。


 図書室はいつもの図書室だ。全然わからないけれど、どこかに隠れた秘密の扉があるのだろうか。

 フェリがきょろきょろしていると、グリッグは書架を見回し一冊の本を抜き取った。かなり大きい本だ。それは植物の図鑑だった。そして確かに厚みのある表紙には鍵穴があった。


「……これ?」

「そのようだ」

「でもこれ、鍵穴はあるけど、別に鍵はかかってないよ。ほら」

 フェリは本を開いてみせた。

 きれいな草花の絵が描いてある。

「そうだな」

 グリッグは頷いた。


「本を一度とじて……そうそう」

 グリッグはフェリに本を閉じさせると、鍵穴を指した。

「鍵を使ってみろ」

「え……」

 フェリは不思議に思った。

 鍵を使ったら、逆に鍵をかけてしまうのではないか。


 でも、フェリは言われた通り、鍵穴に鍵を差し込んだ。

 何か植物の模様が刻んであるプレートは、フェリが持っている鍵と同じように、美しい金色をしていた。


 鍵を回してみる。

 フェリの手の中で、カチッと手応えがあった。


 すると……。


 本がひとりでにパタンと開いた。


 そこから柔らかい金色の光が溢れ出す。


 光は上へ上へと立ち昇りながら集まっては解け、また集まり、やがて一本の柱のようになった。

 そして、その中からエイディーンが現れた。


 大きさは本と同じくらいしかないが、光でできているような、輝くドレスを身につけ、今日は髪をおろしていた。

 金色の流れ落ちる髪は、金色のドレスの上に広がり、まるで発光しているようだった。


「フェリ!」

 エイディーンはフェリを見つめて、嬉しそうに笑った。

 清らかな楽器のような美しい笑い声が響いた。


「フェリ! 会いたかったぞ!」


 フェリの後ろでグリッグが跪いていた。


「エイディーン様、お元気そうで何よりです」


「グリッグ、うるさい、妾は今フェリと話しているのだ」

 グリッグは口をつぐんで頭を下げた。


「フェリ、元気に過ごしていたか?」

「は、はい……」

 まっすぐフェリを見つめて微笑むエイディーンは、とても綺麗だった。

 前に一度会ったはずだが、その時のことはほとんど記憶になくて、改めてこうして向かい合うと、フェリはなんだか胸がドキドキしてくるのだった。


「フェリ……」

 エイディーンの目が優しく微笑む。

「ほんとに可愛いの」

「フェリはいい子だの」

「きれいな目をしてるの」

 エイディーンは、フェリが答える間もなく話しかけ続けた。その様子は本当に嬉しそうだった。


 そして、エイディーンが話す度にどこから現れたのか、空中をキラキラと光が飛び交った。


 もしかしたら、これがキラキラ?

 新しいキラキラが飛んできてる……の?


 フェリはびっくりしてエイディーンとキラキラを見つめた。


「フェリ、手を出してくれぬか?」

「あ……、はい」

 フェリはエイディーンに向かって両手を差し出した。


 エイディーンは、そのフェリの手に自分の両手を乗せた。

 今のエイディーンは小さくて、その手はフェリの手の半分もなかったが、その手に触れたらフェリは急に泣き出したい気持ちになった。


「フェリ」

 エイディーンは、今度はフェリに向かって両手を広げた。

 吸い寄せられるようにフェリが頭を寄せると、エイディーンの両手がフェリ

 の髪を撫でた。


 気づくとフェリの目から涙がこぼれていた。


「フェリ、ずっと会えなくてすまなかったの」


 エイディーンの手は、フェリの髪を撫で、それから頬を撫でてこぼれた涙を拭ってくれた。


「ほんとに一年位のつもりだったのだ。

 だめな母だな……」


 母……。

 お母さん。

 ……私にもお母さんがいたんだ。


「この間フェリに会えた時は、時が経ちすぎて驚いたが、フェリ。ほんとに可愛いな」


 お母さん……。

 フェリはぽろぽろ涙をこぼしながら顔をあげた。


「今度はもっと大きくなって会いに来るからな。この前力を使いすぎてしまったが、もうすぐ戻るからな」

 フェリはハッとした。力を……。


「あの……あの」

「なんだ? フェリは声も本当に可愛いの」

 褒められすぎて、フェリはちょっと笑った。


「あの、ランドル皇子を助けてくれて、ありがとうございました」

「……ああ、そうだったかの」


「それで、お、皇子を人間に戻すにはどうしたらいいのでしょうか」

 エイディーンは、ちらっとフェリのそばにいるランディを見た。


「そうだな……」

 エイディーンの光が急に弱まってきた。

 フェリはドキッとした。

 もう行ってしまう?


「死ぬところだったからな。もう何年かすれば自然と戻ると思うが、もし早めたいなら……」


 エイディーンは、ちょっと何かを思い出すように考えていた。

「……そうだな。それを助けてやれる石が確かそちらにあったはず」

「石?」

「私が前に置いていったものだ。それがあれば……」

 エイディーンの光が消えていく。


「お、お母さんっ」

 フェリが叫ぶと、光は一瞬強く輝き、その中でエイディーンがとても嬉しそうに笑った。


 そしてふっつりと消えた。


 急に図書室が暗闇に閉ざされたように思えた。


 両脚から力が抜け、フェリは床に倒れ込んだ。


 急にエイディーンと会ったことと、皇子が人間に戻ることと、頭の中がぐるぐる回ってとても立っていられない。

 石、って……。

「フェシリア……」

 遠くでグリッグの声がした……。


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