帝国の薔薇 2
ラティーシャはイライラしながら、侍女を呼んだ。
たちまち侍女達がラティーシャを取り囲む。
「ラティーシャ様の新しいドレスといったら、この国最高の品でないといけませんのに、何を考えているのでしょう……」
一人が代わりのお茶を差し出しながらそう言った。
「まったくです。帝国の薔薇と呼ばれるラティーシャ様にはもっともっと輝くような生地でないといけません」
「そういえば、ラティーシャ様、今日のイヤリング、なんて素敵なんでしょう」
「ほんとに、ラティーシャ様にぴったり」
ラティーシャは耳元で揺れるダイヤモンドのイアリングに触れた。大きさも輝きも見事な一粒ダイヤの周りを、小さなブルーダイヤが囲んでいる。
これは、昨日ネイハムにもらったものだった。
ネイハムとは、婚約の約束をしてある。もうすぐ公になるだろう。そのためにも最高のドレスを作りたいのに。
しかし、さっきまでのイラついた気持ちは、そのイヤリングに触れていると少し収まってきた。
今、ここジグラード帝国で、ラティーシャよりも美しい令嬢はいない。
「鏡」
一言そう言うと、侍女の一人がすぐに手鏡を差し出した。
鏡の中のラティーシャは、美しい金色の髪にピンクのリボンを編み込み、先を長く垂らしてある。ピンクのリボンは、ラティーシャの髪と金色の瞳によく映えるので最近のお気に入りだ。
美しい顎の線。そこから続く華奢な首。
大きな金茶の瞳。
真っ白い肌に薄いピンクの小さい唇。
ラティーシャは鏡の中の自分に微笑んだ。
昔、どこか遠くの国で、あまりに美しい姫を手に入れるため、王子二人が国を二分して争い、とうとう国が滅んでしまったという物語があるが、自分はまさにその姫のようなものだと思う。
だってネイハムは、この私を手に入れるためにあんなことまでしでかしたのだから……。
そう。ネイハムは冗談めかしてはいるものの、何度もラティーシャに求婚してきた。
ネイハム・エト・ランフォード。
父親はグラディウス皇帝の実弟であるランフォード大公。ネイハムはランフォード家の嫡男であり、ランドルの従兄弟だ。
しかしラティーシャはすでにランドル皇子と婚約していた。
顔だけは美しいが、ラティーシャにほとんど関心を示さないランドル皇子。
ほんのいたずら心で、
「私は皇太子にしか興味がないのです」
と言ったところ
「私が皇太子なら受け入れてくれるのですか?」
とネイハムの目が光った。
「ふふ……」
ラティーシャは小さく笑った。確かに、もしランドルに何かあれば、次の皇太子はネイハム、かもしれない。
それでもまさか、本当にあんなことをしでかすとは思っていなかった。
※ 誤字報告をくださった方、ありがとうございました。感謝致します。