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黒髪の槍姫  作者: 古東薄葉
第一部 剣帝と槍姫
21/47

第21話 お姫様抱っこ、そして……


 中心にたき火をたいて、一同は輪になって休んでいる。

 肘枕で既に寝入ったイエルク。

 眠ってしまったパメラを抱っこしたアレットが目を閉じている。


 ノエルは足首を痛めた方の脚を伸ばし、反対の脚で肩に包帯を巻いているクラウスに膝枕をしている。


「痛まないか?」

「ああ。出血が止まったから大丈夫だろう」

「あんな攻撃、わたしはかわせたぞ」

「かもしれんな。それでも、お前は女で俺は男だ。当然だろう」


 ノエルはフフッと笑う。

「……そうだな。すまぬ」


 ノエルはクラウスの包帯の上に手を置き、クラウスを見つめる。

「ありがとう……」

 クラウスはノエルの素直な態度を、おやっという顔で意外そうに見た。


「帰ったら傷の特効薬を作ろう。秘伝の薬がある」

「期待してるぞ」


 そんな二人の様子をアレットは薄目を開けて眺めていた。




 夜が明けて、あたりがまだ薄暗いうちに一行は出発し、草原を歩いて行く。


 クラウスが照れて恥ずかしそうなノエルをおんぶして歩いて行く。

「もう痛くない、自分で歩けるから降ろしてくれ」


「痛みを止めてるだけで、傷が治ったわけではないだろ」


「クラウス様のおっしゃるとおりです」

 背中にノエルの槍を担ぎ、まだ眠っているパメラを抱っこして、二人から少し遅れて歩いてるアレットが言った。


「しかし、お前の方が重傷ではないか」


「こんな時ぐらい俺に甘えろ。未来の夫だぞ」


「う、うむ……」

 ノエルは恥ずかしそうにクラウスの肩に顔を伏せた。胸がギュッと背中に押しつけられたのにクラウスは気づき、顔を赤らめる。


「わたしは、人に甘えるのに慣れてない」

「そうか。では、今から慣れてくれ」

 

 ノエルはクラウスの背に顔を押しつけた。

「お前の背中は広いな」

「男だからな。甘えがいがあるだろ?」

「そうだな」

 ノエルは嬉しそうに微笑んだ。


 そんな様子をアレットはニコニコと見ているが、雰囲気をぶち壊すように後ろからイエルクの声が響いた。


「クラウスー、重いよー、代わってくれよー」

 金満月草の入った大袋を三つ担いでヒーヒーと息をあえがせながら遅れて歩く、イエルクが言った。


 クラウスが立ち止まり、冷たくイエルクを見た。

「だめだ。町に着いたら馬車を拾うからそれまで辛抱しろ」


「不公平だー、俺も女の子おんぶしたーい」


「だめだ。うるさい」


 アレットがパメラを抱っこしつつ、ブーブー言うイエルクの三つの大袋をひょいひょいひょい、と片手で取って地面に置いた。。

「望みをかなえて差し上げます」


 袋の代わりに眠ったままのパメラをイエルクに背負わせ、右手に二袋、左手に一袋を軽々と背中に担ぐ。


「えっ?」


「我が一族の言い伝えでは、人の恋を邪魔する者は、馬に蹴られて死んでしまうそうです」


「えっ?」


 アレットはイエルクをじっとにらんだ。

「お気をつけ下さい、イエルク様」


 袋を担いでさっさと歩き去るアレットを、パメラをおんぶしたイエルクがぽかんとして見送った。




 一同は街で調達した馬車に乗り、帰路を急ぐ。


 パメラは窓から身を乗り出して、前方を指差した。

「ここ、あたしんち!」

 前方には孤児院があった。


 クラウスは驚いてパメラを見た。

「やはり、ここの孤児院だったか」


 ノエルが不思議そうにクラウスを見る。

「どうした?」

「ここは母の育った孤児院だ」



 馬車が止まり、降りるパメラにノエルが声を掛ける。

「木の魔物の赤い玉、高く売れよ!」

「うん!」


 パメラを追って、クラウスも降りていく。

「ちょっと、院長に挨拶してくる」


 馬車の音を聞きつけたのか、門から優しそうな老女が出てきた。

「パメラ!、いったいどこに行ってたの!?」

「ごめん、院長先生……」


 院長がパメラの後ろのクラウスに気づいた。

「あら、クラウスさん……」


 ノエルは馬車の窓から、立ち話を続けるクラウスと院長を見る。


 クラウスが馬車に戻ってきて、ため息をつきながら席に座った。

「どうした、ため息ついて?」

「母の件もあるので、ここにはハイゼル家として、かなり支援しているのだが、孤児も増えて厳しい状況らしい」

「ふーん……」


 ノエルはさびれた建物と荒れた庭を見て、ぼんやりとつぶやく。

「……与えられるだけでは、ダメなのだがな」

「どうした?」

「いや、なんでもない」




 屋敷の玄関でフローラがウロウロしながらクラウス達の帰宅を待っていた。


「昼には戻るはずだったのに、もう夕方よ。何かあったのかしら……」

 フローラが心配そうに隣のマリラに話しかけた。


 馬車が到着し、向こう側のドアからクラウスが降りてきて、手前のドアを開けると足に包帯をしたノエルが降りて来た。

 フローラが驚いて駆け寄っていく。


「ノエルさん!、ケガしたのっ?」

「ちょっと、しくじっちゃった……」


 へへ、と照れ笑いするノエルをクラウスがひょっい、とお姫様抱っこで持ち上げた。

「まだ無茶するな」

「う、うん……」


 クラウスはノエルを抱えたまま、屋敷の中へ入っていく。

 その様子を不思議そうにフローラが見送った。




 お姫様抱っこされるノエルは目の前のクラウスの顔に、三年前に自分が負わせた大きな頬の傷があることに気づいた。


「これは、わたしがつけた傷か」


 ノエルは思わず傷を手でさわってしまう。

「かなり深いな……」


「口の中までザックリ切れたから、食事が大変だったぞ」


 クラウスは照れたようにフッと笑う。

「初めて出会った思い出だ」


 ノエルは傷をそっとなでる。

「すまぬ、痛かっただろう……」

「俺たちは戦争やってたからな」


 ノエルは傷をなで続ける。

「ごめん……」


 クラウスは落ち込み始めたノエルを見て微笑みながら言う。

「この傷がなければ、お前を追っかけることはなかった」


 ノエルの目が潤み始め、ボロボロと涙がこぼれ始めた。

「ごめん……、ごめん……、ごめん……」


「ノエル……」


 ノエルの目を見つめるクラウスはそっと顔を近づけていき、唇に唇を重ねた。

 ノエルは一瞬驚くが、目を閉じ、クラウスの首に両手を回して抱きしめた。


「お兄様、ノエルさん、ケガは……」


 後ろから走ってきたフローラは声を掛けたものの、二人のただなら

ぬ気配に言葉を止めて立ち止まった。


 ハッとしてキスを止めた二人は、赤い顔で振り返ってフローラを見た。


「おじゃま……でしたね……」


 状況を把握したフローラはくるっと回って戻っていこうとするが、ノエルが呼び止めた。

「フローラ、明日から始めるからね」 


1/10 日刊総合ランキング150位 ハイファンタジー24位になれました。

最近はランキングからも外れて読者も激減する中、お読みいただき大変ありがとうございました。

ぜひ、評価、ブックマークよろしくお願いいたします。

今後の参考にさせていただきたいと思います。

上記の☆☆☆☆☆評価欄で、


★☆☆☆☆ つまらない

★★☆☆☆ こんなもんかな

★★★☆☆ ふつう

★★★★☆ まあ、よかったかな

★★★★★ 面白かった


で、感想を教えていただけると大変ためになります。

ぜひ、ブックマークもつけておいてください。


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