表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒髪の槍姫  作者: 古東薄葉
第一部 剣帝と槍姫
14/47

第14話 槍なき姫とアサシン-路地裏で無双する女二人


 アレットは小さく見えるノエルの方に歩き出した。


「私たちで、できるだけ片付けておきますので、しばらくそこで、お待ちを」

 殺気を帯びた目つき、上腕から流れ続ける赤い血が下に向けられた指を伝ってポタ、ポタと地面に血痕を作っていく。


 その異様な雰囲気にクラウスはたたずみ、歩き去るアレットの後ろ姿を見つめることしかできなかった。




 スラム街の一角のような薄暗い路地。左右の壁の間隔が三メートルもないような細長い路地にたたずむノエル。

 その数メートル先に数人の男達が剣を持って立っている。

 さらにその先に猿ぐつわを噛まされ、縛られたフローラに短剣を突きつける男がいた。


 奥は行き止まりになっている。


 フローラはノエルを見て声を出そうとするが、猿ぐつわで声が出ない。


 ノエルの背後にも数人現れて路地をふさぎ、前後を挟まれた。


 前に立つリーダー格の男が口を開いた。

「ホントに来やがった。槍持ってきてねえだろうなあ?」


 ノエルは両腕をバンザイのように上げ、さらにスカートを両手で持って、膝までたくし上げる。

「見ての通りだ。目的はなんだ?」


「知らねえよ。お前をひんむいて楽しいことやって、裸で街に吊せば、お礼はたんまり。いい仕事だ」


「まず、フローラを放せ」


「バーカ、放すわけねえだろ。お楽しみは二人のがいいに決まってる」



 その時、路地の入り口から、甲高い大きな声で叫びながら、アレットが走ってきた。

「ノエルさまー、こちらにおられましたかー、さがしましたですわー」


「なんだてめえは!」


 路地をふさいでいた男達は、近付いてくるアレットに叫びながら斬りかかった。


 しかし、剣はアレットの残像を切るように、スカスカと空を切り、男達はあれ?と首をかしげた。


 その間にアレットは男達の間をすり抜けてノエルの隣にたどり着いていた。


 リーダー格の男がノエルに叫ぶ。

「一人で来いって言っただろうが!」


「侍女が探しに来ただけだ。それとも丸腰の侍女が怖いか?」


「けっ、お楽しみがまた一人増えただけ。槍姫も槍がなけりゃ、ただの姫様。さあ、楽しく遊びましょー」


 下品に笑う男に構わず、ノエルは自分のスカートを両手でたくし上げ始めた。足のすね、膝が見え、太ももが見え始める。


「ほー、観念したかい……」

 ノエルはスカートをパッと上に跳ね上げた。


「おおッ!」

 男は思わず身を乗り出してノエルの下半身を見るが下着以外に、左右の太もも、それぞれにベルトで固定された三十センチぐらいの二本一組の金属棒が見えた。


 ノエルは素早くベルトから取り外して左右の手に一本ずつ金属棒を握る。先端から数センチの鎖でつながれたもう一本がだらりと下がる。ヌンチャクだった。


 ふわっ、とスカートは元の位置に戻った。


「なんだ、そのオモチャは?」


「姫様扱いはうれしいが、ちょっとちがうな」

 ノエルはヌンチャクを手に男を見据えた。


「はあ?」



 ノエルとアレットは同時に、タンッと地を蹴って前に跳んだ。

「アレット、フローラを!」

「承知!」


 アレットの方が速く、ノエルの先を行く。

 勢いをつけたアレットは右の壁に跳び、そのまま横になって壁の上を走って行く。

 アレットに斬りかかろうとした男の腕は回転するヌンチャクでたたき折られる。


 アレットは斬りかかってくる別の男の剣をかわすように斜め前方、左の壁に向かって飛ぶ。空中で体の前で交差していたアレットの両腕が素早く広がり、シュッ、シュッ、とフローラを押さえる男に向けて針が放たれた。


「グアッ!」

 一本は男の目に突き刺さり、もう一本は短剣を持つ手に刺さり、男は痛みに短剣を落とす。


 左の壁に届いたアレットは、そのまま壁を蹴って跳び、男に蹴りを食らわせて男を吹っ飛ばした。


 フローラを抱きかかえてノエルに向かって叫ぶ。

「フローラ様確保!」


「よし!」


 ノエルは顔に余裕の笑みを浮かべてリーダー格の男を正面から見据える。


 両手にそれぞれ持つヌンチャクを振り回すと鎖につながれた金属棒がブンブンと回転する。


「さあ、槍のない姫様と楽しく遊んでもうおうか、このオモチャで」


 その顔には殺気を帯びた笑顔が浮かび、男達にゾッと寒気を感じさせた。




 アレットは背後にかばっているフローラに優しく微笑みかける。

「フローラ様、しばらく、目をつぶっていていただけますか?」


 フローラは、わかりましたと言うように何度もうなずいて素直にギュっと目を閉じるが、その瞬間、アレットの目は殺意を帯びた目に変わり、ギロッ、と前の男達を見据えた。



 ノエルはヌンチャクを振り回しながら、ジリジリと男達の方へ進んでいく。


 二つのヌンチャクはそれぞれが上下、左右、縦横、と複雑な軌道を描いてブンブンと音を立てて、ノエルの身体の周囲で風を切る。


「よくも、フローラを泣かせたな」

 憤怒の表情のノエルに気圧された男達は叫びながら、ノエルに斬りかかっていく、


「や、やっちまえー!」

 ノエルに向かう剣は右のヌンチャクにはじかれ、がら空きになったアゴが下から弧を描いて振り上げられる左のヌンチャクに砕かれた。


 次の男は、ヌンチャクを胴に打ち込まれ、ウッと頭が下がったところを上から頭部に叩きつけられる。

 今まで見たこともない武器の予測できない動きに、男達は次々に打ち倒されていく


 アレットに斬りかかる男達は、アレットの投げる針に目を射貫かれ、アゴや頭に蹴りを食らって吹き飛ばされていく。何とか近付き間合いを詰めた者は、アレットの持つ針に首を突き刺された。


 あっという間に男達は全員が倒され、血まみれでのたうち回り、うめき声しか聞こえなくなった。



 ノエルはまだ襲ってくる男がいないかと横たわる男達の体を無言で見下ろし続けていた。



 アレットは優しい笑顔でフローラから猿ぐつわを外した。

「もう大丈夫ですよ。怖かったでしょう」


 倒れている男達とアレット、ノエルを見比べて、フローラはなにが起こったのか理解できないような表情を見せた。




 地面の上の血痕を追ってきたクラウスが路地の入り口から見たのは、血まみれで倒れる十数名の男達、それを見下ろす無表情のノエル、手に持ったヌンチャクからしたたり落ちる赤い血。

 そんな鬼気迫る光景だった。


(なんだ、これは……)


「お兄様!」

 路地の奥からフローラが駆けてきてクラウスに抱きついた。


「無事で良かった」

「こわかったです……」


 フローラはクスンクスンと泣き出した。



「金で雇われたチンピラだ。依頼したのが誰かは知らないようだ」

 ノエルがクラウスを振り返って話した。


 クラウスは倒れている男達を見ながら、ノエルに近づいていき、ノエルを見た。

「すごいな……、二人で全員倒したのか」


「クッキーを焼くより、こういう方が、似合っているか……」

 ノエルは恥ずかしそうにヌンチャクを振り回した。


「それも、リン家の技か?」


「まあな、わたしの携帯用の武器だ。剣帝を倒すのは無理だが、この程度の雑魚には役に立つ」


 クラウスは倒れている男に刺さっている針に気がついた。

「針……」


「アレットの針の本来の使い方。彼女の本職は刺客だ」


「シカク?」


「この地ではアサシンと呼んだ方がわかりやすいな」


「アサシンだと……」


「そして、わたしの格闘術の師でもある」


 クラウスは服のホコリを払っているアレットを見るが、まだ殺気を帯びているような隙のないたたずまいにゾクッと背中に寒気を感じた。


 視線を感じたアレットはクラウスを振り返ってニコッと微笑みで返した。


「さあ、買い物を続けよう」

 ノエルは何事もなかったように明るく叫ぶと、フローラと手をつなぎ、アレットも並んで路地の出口へと向かっていった。


(この二人は、いったい……)


 二人の後ろ姿を見てクラウスはそう思わざるを得なかった。そして、辺りを見回した。

(だが、いったい誰がノエルを狙ったんだ……)


1/10 日刊総合ランキング150位 ハイファンタジー24位になれました。

最近はランキングからも外れて読者も激減する中、お読みいただき大変ありがとうございました。

ぜひ、評価、ブックマークよろしくお願いいたします。

今後の参考にさせていただきたいと思います。

上記の☆☆☆☆☆評価欄で、


★☆☆☆☆ つまらない

★★☆☆☆ こんなもんかな

★★★☆☆ ふつう

★★★★☆ まあ、よかったかな

★★★★★ 面白かった


で、感想を教えていただけると大変ためになります。

ぜひ、ブックマークもつけておいてください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ