第2話 「はぐれた仲間を助けなきゃ!」
ゆいたんは、なんで人間に会ったらだめなのかしら、と、ちょっと不思議に思いましたが、ともかく天使たちを暖炉から出してあげて、もし友達になれたら、一緒に遊んでみたいな、と思ったので、暖炉の扉を、カリカリかいて、どこかに隙間ができないか、試し始めました。
でも、やっぱり、扉は猫の力では、固くて開けられそうにありません。
そこで、横で見ていたるきあが、にゃあにゃあ声で言いました。
「ねえねえ、ゆいたん。いっしょに押すか、ひっぱってみたら、開くかなあ?ためしてみない?」
「うん!じゃあ横に来て!」
二匹の猫は、並んで、ぷにぷにの肉球で、扉を押したり、隙間に爪をひっかけて引っ張ったりし始めました。
途中から、扉に付いた取っ手を持つようにしたので、押すのと同じくらい引っ張るのも楽になりました。
やがて、二匹の「えいっ!」という掛け声が揃った拍子に、扉が外側に向けて、ほんの少しだけ開きました。そこで、暖炉の中の天使たちも、内側から、「えいっ!えいっ!」と、力を合わせて押し始めました。
隙間は少しずつ広がって、とうとう、猫たちと天使たちが、お互いの顔を見合わせられるくらい、開きました。
ナナエルがまず、頭から先に、器用に隙間をくぐり抜けました。続いて、キキエルがくぐり抜けようとしましたが、体が半分くらい通ったところで、背中の羽が挟まって、「やーん!」と動けなくなってしまいました。
でも、すぐに、「ほら、つかまって!」とナナエルが手を引っ張ってくれたので、キキエルもどうにか暖炉から出る事ができました。
猫たちは、この小さな人間のような姿をした生き物に興味津々で、鼻を近づけてクンクンしたり、「あなたたちみたいなちょうちょ、見た事ないわ。」と言いながら、前脚でちょんちょんと触ってみたりしました。
天使たちも、まるで象みたいに大きな白猫と、それよりは小さめの三毛猫を見上げて、その前脚と握手をすると、
「どうもありがとう!親切な猫さんたち!」と言いました。
白猫はさっそく、「わたしがゆいたんよ。ね、よかったら、わたしたちと一緒に遊びましょう?」と、誘ってみました。
でも、ナナエルは、残念そうに、「そうしたいのはやまやまなのだけど、もう一人の仲間の天使が、家の外ではぐれてしまったの。すぐに助けに行かなきゃ。」と言いました。
すると、チビ三毛猫のるきあが、
「家の外に出るには、人間が帰って来るのを待つしかないよ。だって、部屋のドアは、ゆいたんがジャンプして開けられるけど、玄関のドアは、人間にしか開けられないんだもの。」
と教えてくれました。
「窓も開かないの?」キキエルが聞きます。
「うん。窓にもカギがかけてあって、人間にしか開けられない。」
みんなは、「困ったわねぇ……。」と、顔を見合わせて考え込んでしまいました。
一方、風で飛ばされてしまったママヌエルは、どうなったでしょう?
クルクル風にもてあそばれながら落ちて行ったママヌエルは、ナナエルたちが落ちた煙突のある家の隣の、オコーナーさん家の、庭に生えている大きなチェリーの木の梢に落ち込んで、枝に衣が引っ掛かってようやく止まりました。
「ふうっ!どうやら助かったぞ。」
ママヌエルは、背中の衣を枝から外そうとしましたが、手が届かないので、じたばたしました。
すると、ちょっと離れた太い枝に、小柄な家雀がとまっているのに気が付きました。
家雀は、ママヌエルが落ちて来る一部始終を見ていたようで、ちょっとおっかなそうに首をすくめて、こちらを見つめながら目をぱちくりさせていました。
「家雀さん!僕は天使のママヌエル。けっして怪しいものではないよ!助けておくれ!」
家雀は、珍しい生き物から話しかけられて、なおさらきょどきょどしましたが、困っている者を放ってはおけないたちだったようで、「じっとしてて。木から落っこちちゃうよ。」と言いながら、ピョンピョンはねて、少しずつママヌエルに近づいて来ました。
そして、間近でもう一度じっと観察して、ママヌエルが言う通りおとなしくしているのが分かると、引っかかった衣を外してあげて、下の枝に優しくおろしてあげました。
「ありがとう!家雀さん!」ママヌエルは元気にお礼を言いました。
「私はチュッチュっていうの。よろしくね。それにしても、天使って初めて見たわ。噂で聞いてたのとは違って、こんなに小さかったのね。」チュッチュは自分よりも小さいママヌエルが、衣に張り付いた落ち葉の切れ端をせっせと取り除くのを、面白そうにながめました。
「事情があって、今は小さいんだけど、ほんとは人間くらい大きいんだよ。何とかして元に戻らなくちゃいけないし、そうそう、仲間の天使たちが、あの家の煙突に落っこちちゃったから、助けにも行かないといけないし。大忙しさ。」
ママヌエルが、そう言って枝の上を歩いて、幹の方に行こうとするので、チュッチュは、「歩いてあの家に行くつもり?」と聞きました。
ママヌエルが「そう。」と答えると、チュッチュは「あれを見て。」と、くちばしで木の下を示しました。
隣の家の、芝生の庭に、大きな犬小屋があって、そのそばに、ひときわ大きな灰色のぶち模様の犬が、腹ばいになって眠っているのが見えます。
「あれは、ハッシュというボルゾイ犬よ。小さな生き物は、近づいただけで手荒くおもちゃにされちゃうの。鼻も利くから、こっそり通り抜けようとしても、すぐに見つかっちゃうと思う。」
それを聴いて、ママヌエルはさっきまでの元気などどこへやら、へなへなとしゃがみ込んで、
「そんなぁ……。」とつぶやきました。
ちょうどその時、通りの向こうから、純白の兎がぴょこぴょこと歩いて来ました。
この白兎は、名前をうさたん、といって、見た目の可愛らしさとは裏腹に、けんかの強さでここらをなわばりにしている、いっぴき狼の野兎でした。