第1話 「魔法の小瓶を開けちゃった!」
今年も天上で、三人の大天使様たち、ミカエル様、ラファエル様、ガブリエル様をお祝いする日がやって来ました。
子どもの天使たちは天上の広い野原にめいめいに座って、白やピンクやだいだい色の美しい花々を摘んでは、冠や首飾りを編んで、お祝いの席で大天使様に着けて頂くための、贈り物の準備をしています。
「でーきた!」「できたぁ。」「僕もできた!」
三人の天使が、みんなより早く花飾りを完成させて、喜びの声を上げました。
白い布を頭で大きなリボン結びにしたナナエル、茶色の巻き毛を二つ結いにしたキキエル、そして、くりくりした黒髪のママヌエルです。
三人は花飾りをバスケットに入れて、仲良く手をつないで、宴の席が催される神殿に飛んで行きました。
神殿では、晩餐の飾りつけが行われているところで、ブドウの房がたくさん盛られた大皿を運んできた大人の天使が、部屋に入って来た子どもの天使たちを見つけて、「テーブルの上に置いておきなさい。」と忙しそうに伝えました。
子どもの天使たちは言われた通りに、椅子の上に登ると、リンゴとオレンジが山盛りになった大杯に、花の冠や首飾りをかぶせて、飾り付けてやりました。
しばらく、その果物と花の取り合わせの美しさを、三人で満足げに眺めていたのですが、ふと、ナナエルが、大杯の横に、水色のガラスでできた小瓶が置いてあるのを見つけて、手に取りました。
その小瓶には、「小さくなりたくない者は、開けないで!」と書いてありました。
「それ、なぁに?」「『小さくなりたくない者は、開けないで!』だって。」
左右から覗き込んだキキエルとママヌエルに、ナナエルが聞きました。
「小さくなってみたい?」
「なってみたい!」二人は声を揃えて答えました。
「私も!」
ナナエルは、ためらいもせずに小瓶のふたを開けました。
すると、中からもやもやした桃色の蒸気が出て来て、三人の天使を取り巻くように包み込みました。
その蒸気を吸い込んだとたん、三人の天使は空気が抜ける風船みたいな早さで見る見る小さくなり、とうとう一寸(3cm)くらいに縮んでしまうと、なぜだか椅子や神殿の床まで潜り抜けて、厚くて暗い雲の中を、下へ下へと、木の葉のように舞い落ち始めました。
背中の羽で一生けんめい羽ばたいても、以前のように軽々と浮き上がる事ができず、抱き合って落ち続けた天使たちは、やがて、雲を通り抜けて、下界が見渡せる広々した高い空のただ中にまで出て来ました。
「このまま下界に落ちてしまうのかなぁ。」
「離れないように、しっかりお互いを掴まえていようね。」
「ああ、どんどん下界が近づいて来るよ。」
天使たちは、心細そうに、身を寄せ合いますが、風が吹くたびに、クルクルきりもみしながら流されていく有様ですから、いつ散り散りになってもおかしくないのです。
とうとう、人々の暮らす街並みがすぐそばに迫って来た時、ひときわ強いつむじ風が吹いて、ママヌエルが我慢しきれずに手を放して、「わーん!」と叫びながら、一人でどこかに飛ばされてしまいました。
そして、ナナエルとキキエルの二人は、ちょうど真下にあった、家の煙突の横穴にスポン!と入り込むと、暗がりの中を抱き合いながら、一番下の地面までゆらゆらと舞い降りて行きました。
幸い、暖炉は長い事使われていなかったので、二人は、しんとした冷たい石の床に、足を下ろす事ができました。
見上げると、暗い煙突の突端から、かすかに光が差し込んでいるのが見えるだけです。
「ママヌエル!」ナナエルが大声で呼んでみましたが、長い事耳を澄ましても、返事は一向に聴こえません。
その時、横でカリカリと、壁を搔く音が聞こえ始めたので、二人はなおさらしっかりと抱き合って、プルプル体を震わせました。
「そこにいるのは誰?」勇気を出して、ナナエルが聞きました。
ちょっと間があって、壁の向こうから返事がありました。
「わたしは猫のゆいたん。あなたは誰?ねずみ?」
「いいえ。私たちは天使よ。」
すると、さっきとは違う声で、
「天使ってなぁに?」
と外から尋ねる者がありました。
「天使って……何だろう。」改めて考えてみて、ナナエルは説明ができませんでした。
代わりにキキエルが、「天使って、ちょうちょみたいなものよ。」と、答えました。
「ちょうちょなら、害はないわね。でも、どうしてそんな所にいるの?」ゆいたんの声が聞きました。
「天上から落ちて来て、偶然ここに入ってしまったの。出してもらえる?」
ナナエルが聞き返すと、
「この鉄の扉、鍵はかかっていないけど、結構固いよ。」
と、さっきの、ゆいたんとは別の声が答えました。
「あなたは誰?」
「あたしは猫又のるきあ。」
「私はナナエル。もう一人は、キキエルよ。そっちには他に誰かいるの?」
「色々いるけど、人間は今いない。子どもを学校に迎えに行ってるから。」
「そう……。なるべく、人間には見つかりたくないの。今のうちに、出られないかしら。」
ナナエルがこう言うのも、天上で大人の天使たちから、『人間にはできるだけ見られてはいけないよ。』と、繰り返し忠告されていたからです。





