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第14話(最終回) 「またしても、ビビビ!」

 お正月を過ぎたころの、ある晴れた朝の事です。

 紗矢と真琴は、冬休みが終わって、今朝から学校に出かけていました。

 オコーナーさん家の屋根の上では、早起きの雀たちがたくさん集まって、にぎやかに鳴き声の比べっこをしたり、今日はどこで朝食にしようか、なんていう相談に花を咲かせていました。


「今日は駅前の公園まで行ってみようよ!天気がいいから、いつもパンを分けてくれるおじさんが、きっとベンチに座って、ぼくらを待っているよ!」

 活発なトーニが言いました。

「行こう行こう!」「私が一番乗りするわ!」「よーし!負けないぞ!」他の雀たちも、久しぶりの遠出に大乗り気です。

 チュッチュは、みんなが跳ね回ってはしゃぐ様子を、ちょっと離れた場所から、うらやましそうに見ていました。

 駅まではここからかなり遠いので、チュッチュの弱い翼では、みんなについて行く事ができません。

 それで、いつも、駅に行くと決まったら、チュッチュは、「行ってらっしゃい!楽しんできてね!」と笑顔で見送って、オコーナーさん家にひとりで残るようにしていました。

 でも、今日のチュッチュは、ちょっと違いました。

「ねえ、みんな……。」

 遠慮がちに声をかけると、みんなは「なーに?」とチュッチュを見ました。

「もし、できたら、私も一緒について行っていいかしら。長くは飛べないし、ゆっくり、休み休みになるけど……、一生けんめいがんばるから、連れて行ってほしいの。もし無理だったら、あきらめるけど……。」

 トーニが、すぐに答えました。

「無理なもんか!ずっと、一緒に行けたらいいのにって、みんなで話していたんだよ!今日はチュッチュちゃんのペースに合わせて、休憩多めで飛んで行こう!みんなそれで良いよね!」

「もちろんよ!」「やったー!今日はチュッチュちゃんが一緒だ!」「駅の中やホームも、珍しいものがいっぱいで面白いよ!案内してあげるね!」

 みんなから口々に歓迎されて、チュッチュは嬉しくてしきりにうなずきました。

 雀たちは、そうと決まればさっそく出発だ、とばかりに、いっせいに飛び立つと、澄んだ朝の青空を、高く低く寄り添い合うような編隊を保って渡って行きました。


 お昼ごろになると、うさたんが佐藤家の前の通りを、ぶらぶらと歩いて来ました。

 もちろん、ボスの座をめぐるハッシュとの決着をつけるためです。

 天使たちを天上に送り帰してからも、念には念を入れて、サトウカエデの木を登り下りするトレーニングを毎日重ねて来たので、今回の勝負にはかなり自信があります。

 佐藤家の生垣まで来て、下からのぞき込むと、いました、ハッシュは骨形のおもちゃのクッションを大事そうにあごの下に敷いて、小屋の中で丸くなって寝ています。

 冬場は、家の中に入れてもらっている事の多いハッシュですが、今日は天気が良くて、わりと暖かいので、外で過ごしているのです。

「さあ今日こそ、ここらのボスが誰なのか、白黒つけてやるぜ!」

 生垣を飛び越えたうさたんが、庭に下り立ってそう叫ぶと、ハッシュもすぐに、目をランランと輝かせながら小屋から飛び出してきて、

「来たな!かかってこい!」と、起き抜けとは思えない勢いで、まっしぐらにうさたんに向かってきました。

 うさたんは真正面からハッシュの頭突きを受け止めると、素早くわきに腕をまわして、「でやあ!!」という掛け声と一緒に、体をひねって横ざまにハッシュを投げ飛ばしました。

 ハッシュは芝生をゴロゴロと転がって、庭の隅っこでやっと止まりました。

「どうだ!参ったか!」

 うさたんが勇ましく言い放つと、ハッシュは目を回しながら、頭を振り振り起き上がって、

「やられたぁ!うさたんは強いなぁ!」と、舌をへっへと出して笑いながら言いました。

「なんか嬉しそうだな。悔しくないのか?」

 反応が物足りなくて、うさたんがけげんそうに聞くと、ハッシュは、

「悔しいけど、楽しいよー!ここらには、本気で取っ組み合える相手がうさたん以外にいないんだもん。ようし次の勝負では、負けないぞー!」と、お尻をあげて、ピッピとしっぽを振りはじめました。それを見て、うさたんは、ハッシュに勝つ事ばかり考えて、それが一番の勲章だと思っていた自分が、なんだかばからしく思えてきました。

「ようし、稽古をつけてやるか!突進ばかりじゃ能がないんだぞ!」

 うさたんはもう一度、思い切りぶつかって来たハッシュを真正面から受け止めると、その手ごたえを楽しむように、しっかりと組み合ってやりました。


 一方、家の中では、ゆいたんにケージから出してもらった花さんとメイが、るきあと一緒に書斎に移動して、陽だまりに寝転んだゆいたんにもたれかかって、みんなでお昼寝を始めたところでした。


 ゆいたんがケージの開け方を覚えてくれたおかげで、ハムスターたちはいつでも自由にケージを出られるようになって、このお昼寝も、ずいぶん前から日課になっていました。

 紗矢からは、「迷子になったらいけないから、ケージから出るのは、人がいる時にしてね。」と、頼まれていたのですが、最近のメイは、わざと言いつけを聞かないで、家に人のいない時にケージから抜け出しては、花さんを連れて、猫たちとお昼寝をするようになっていました。

 メイは、不良のハムスターになってしまったのでしょうか?

 いいえ、そうではありません。

 これには、メイなりの事情があるのです。

 それというのも、去年のクリスマスに、メイは花さんに、一つのケージで暮らしたい、という希望を、告白していました。

「花さんが望めばだけど、一緒のケージで暮らしたいなぁ。ケージ越しでもお話は出来るけど、やっぱり一緒にいたいなぁ、と思って。」と、伝えたのです。

 花さんは、最初びっくりしましたし、『メイちゃんのお家狭くなっちゃうけど……。』と、自分とメイの体の大きさの違いを心配しながら考えましたが、たぶんメイは気にしないのでしょう。良い答えを心から期待して、返事を待っています。

 そんなメイの表情を見て安心した花さんは、自分の気持ちに正直に、「うん!」と答えました。

 それ以来、メイと花さんは、事あるごとに、紗矢と真琴に、一つのケージで暮らしたい、という希望を伝えるために、いろんな努力をしてきました。

 ケージに戻されるのを渋ってみたり、手をつないで離されないようにしてみたり、といった具合にです。ても、紗矢は「いい子だから困らせないで~。」となだめては、けっきょく別々のケージに戻してしまいますし、真琴も、「一緒に住むと、狭くてけんかになるよ~。」と言いふくめるばかりで、いくらメイと花さんが、「大丈夫だよ!」「仲良くするわ!」とうったえても、ちっとも聞いてくれないのです。

 それでメイは、勝手にケージを抜け出して、お昼寝をして見せることで、自分たちの意思の固さや、花さんと一つのケージで暮らしても大丈夫だよ、という事を、紗矢たちに分からせようとしていたのです。


「ねえ、こうやって、紗矢ちゃんたちを困らせるお昼寝会をはじめてから、どのくらいになるかしら?」

 ゆいたんが、自分のお腹のふわふわの毛にもたれかかってまどろむハムスターたちを見下ろして、聞きました。

「お正月くらいからだから、ええと、何日だろう。」メイが両手の指を見て考えてみますが、日にちを数える習慣がハムスターにはないので、よく分かりません。

「こんなに仲良しなんだから、もう一緒に住まわせてあげたらいいのにねぇ。」ゆいたんは、窓から差し込む柔らかな日差しと、部屋を満たす古い本のほのかな香り、それにお腹でくつろぐ動物たちの温もりに心地よくなって、上を向くと、大きなあくびをしました。

「ねえ、メイちゃん、わたしね、お世話になっている紗矢ちゃんや真琴ちゃんを困らせているのが、だんだんつらくなってきたの。」花さんが、言いにくそうに言いました。

「自分たちの願いをかなえるために、言いつけを聞かなくなるのを、〝すとらいき〟というんだって。この前紗矢ちゃんが言ってたよ。」お腹を天井に向けて、半分寝落ちしそうなるきあが、口をむにゃむにゃさせながら言いました。

「すとらいきお昼寝は、僕もあんまり好きじゃないよ。でも……。ああ、また紗矢ちゃんたちと言葉が通じ合えたらなぁ。」

 メイもだんだん悲しくなって来て、「キュッキュ……。」と鼻を鳴らしました。

 ゆいたんが、メイの頭をなめて、毛づくろいしてあげながら、言いました。

「紗矢ちゃんは、分かってくれていると思うよ。どうすればいいか、時間をかけて考えてくれているんだよ。」

「あたしもそう思う!紗矢ちゃんも真琴ちゃんも、優しいもん!」るきあも花さんを励ますように、頬にすりすりしてあげました。


 その時、みんなの耳に、遠くから、ハッシュの盛んに吠える声が、聞こえてきました。

「ママたちが帰ってきたのかな?」ゆいたんが頭をもたげて、半開きのドアの方を見つめます。

「なんだか、違うみたい。『かかってこい!』ってどなってるわ。」花さんが不安になって隣のメイに身を寄せました。

「あ!わたあめちゃんが来たのかも!」るきあが目をぱっちり開けて、跳ね起きました。

「行ってみよう!」

 書斎を出ると、ハムスターたちはゆいたんの背中に乗せてもらって、みんなで階段を下りて行きました。


 リビングの窓辺には、動物たちが外をながめやすいように、去年から木製の小さな脚立きゃたつが置かれていました。

 ゆいたんとるきあは、そこを上って、窓台まどだいから、みんなで窓の外を見てみました。


 やっぱり、久しぶりにうさたんが来て、庭のまん中で、ハッシュとくんずほぐれつの取っ組み合いをやっています。


「わあ!うさたんがんばれ!」

「わたあめちゃん!負けるな!」

 みんな夢中で、大声でうさたんを応援しはじめます。

 すると、いつもなら、組み合ったまま動かなくなって、なかなか決着が付かないことも珍しくないのですが、今日は、うさたんがいきなりハッシュを庭の端まで投げ飛ばしたので、みんなはびっくりしてしまいました。

 その後も、ハッシュは何度も起き上がって向かっていきましたが、その度にうさたんに投げられたり転がされたりして、とてもかないそうにありません。

 でも、ハッシュはあきらめてしっぽを巻いて逃げ出したりはせずに、むしろ嬉しそうに舌を出して笑いながら、うさたんめがけてまっしぐらに向かって行くのです。

「ハッシュちゃんがんばれ!」

 劣勢のハッシュがかわいそうになったるきあが、ハッシュの方を応援し始めると、メイや花さんやゆいたんも、「ハッシュー!」「そこで回って!あー、惜しい!」「押して押して!」と、口々にハッシュを応援しはじめました。

 とうとう、根負けしたうさたんが、ハッシュの上手投げで、芝生に転がされました!

 みんなは、「やったー!!」と言って、大喜びです!

 疲れ果てて、芝生に寝転がったまま起きられないふたりに、リビングの動物たちからそれぞれ惜しみないさかんな拍手が送られました。


 やがて、紗矢たちを迎えに行っていたママが運転する車が、通りの角を曲がって帰って来ました。

 後部座席の真琴が、庭で寝転がっているハッシュとうさたんを見つけて、「あ!うさたんが来てる!」と嬉しそうに声をあげました。

 うさたんは、車が庭に入って来ると、よろよろと起き上がって、車を降りた紗矢たちが「久しぶり!」「元気にしてた?」と声をかけると、「キ!」と鳴いて片手をあげてみせてから、生垣をくぐっていそいそと去って行きました。

「まさに孤高のうさたんだねぇ。」真琴が、息を荒げて満足そうに笑ったハッシュをなでてやりながら、いかにも感心した様子でつぶやきました。


「ほらほら、例のもの、早く持って行ってあげな!」トランクを開けたママが、買い物袋を両手に下げながら言ったので、紗矢と真琴は、「はーい!」と返事して、助手席に乗せてあった大きな段ボール箱を車から降ろすと、二人で抱えながら、家に入って行きました。


 玄関では、動物たちが総出で、ニャンニャンキュイキュイ鳴きながらのお出迎えです。

「ただいまー!あー、また抜け出してお昼寝してたな。脱走兵め~。」ゆいたんの背中に乗って、嬉しそうに見上げるハムスターたちを、紗矢が困り顔でなでてやりました。


 紗矢たちが「おいで!」と言いながら、リビングには寄らずに、段ボール箱を抱えたまま、二階に上がって行ったので、動物たちも何だろうとついて行きました。


「さあ、お待ちかねのものが来たよ~。」

 子ども部屋で、段ボールが開けられて、中から取り出されたのは、見た事もないくらい大きな、ハムスター用のケージのセットでした。

「お年玉と、お小遣いが貯まるまで、我慢してたんだけど、今日ようやく買えたんだよ。」

「これだけ大きかったら、余裕で二匹一緒に暮らせるね。」

 紗矢と真琴が、さぞ喜んでいるだろうと思って見てみると、ハムスターたちは案外静かで、ゆいたんの背中の上でぽかんと口を開けて、じっとしていました。

 でも、嬉しくなかったのでは、ないのです。

 動けないくらい感動していたのです。

 紗矢たちは、メイと花さんが一生けんめい伝えようとしていた希望がよく分かっていて、ずっと気にかけていてくれていて、それをちゃんとした形で実現しようとがんばってくれていたのです。


 ゆいたんが屈んでくれたので、メイは花さんを助けながら背中から降りると、紗矢と真琴のところに行って、「ありがとう!僕、とっても、とっても、嬉しい!」と言って、二人の差し出した指を、交互に握りました。

 花さんも、目を潤ませながら、「私たちに、こんなにまでしてくれて、ほんとうにありがとう!!」と言いながら、二人の指を何度も握り返して、感謝のキスをしました。

「おめでとう!」

「やったねぇ!今日はお祝いだー!」

 そばに寄り添って事の成り行きを見守っていたゆいたんとるきあも、我が事のように喜んで祝ってくれたので、メイと花さんは、ほんとうに幸せでした。


 それからしばらくして、チュッチュが仲間の雀たちと一緒に、オコーナーさんの家の屋根に帰って来ました。

 駅までの行きと帰りで、何回も休憩を挟ませてもらいましたが、みんな「チュッチュと遠出できるのが嬉しい!」としきりに言ってくれましたし、飛び疲れたチュッチュを代わる代わる励ましてくれたので、チュッチュは住みかに帰り着くまで、どんなにきつくても、あきらめずにがんばる事ができました。

 駅前の公園でも、みんなはベンチに座るおじさんのところへ行って、鳩たちに交じってパンくずをもらう時に、「近くまで行けなくても、『こっちにも欲しいよ!』って、翼をパタパタして見せたら、投げてもらえるよ!」と、コツを教えてくれましたし、駅のホームに行ったときは、並んだ椅子の背のてっぺんを飛び跳ねて端まで渡る遊びや、危ない事があった時には駅舎の看板の裏に逃げ込むのが一番いい、という事なども、親切に教えてくれました。

(初めて電車を間近で見た時、チュッチュはその大きさと音に驚いて、さっそく看板の裏に逃げ込むと、みんなが「もう大丈夫だよ!」、と言うまで、お尻を向けて隠れていたりしました。)


「じゃあ、また明日ね!」

 仲間たちが口々に挨拶しながら飛び立つと、チュッチュは、「今日はありがとう!とっても楽しかった!」と言って、みんなが見えなくなるまで見送りました。

 こんなに長い時間をかけて飛んだ事も、ものすごく遠い町の中心地まで出かけた事も、生まれて初めての事だったので、チュッチュはこれが夢じゃないのが不思議な気さえしました。

 無理だとはなからあきらめていた事が、また一つ、実現できたのです。

 手助けしてくれて、応援してくれたみんなの優しさを思うと、感謝の気持ちで胸がいっぱいになりました。

 それもこれも、天使たちや佐藤家のみんなから、勇気を出して自分の気持ちを伝えることの大切さを教えてもらえたおかげなのです。

「佐藤家のみんなにも、報告しよう!」

 チュッチュは、そう思い立つと、疲れも忘れて、お隣に飛んで行きました。


 一階のリビングの窓をのぞき込むと、ママがソファーにくつろいで、ナナイモバーとレモンティーでお茶をしていました。

 これまでに何度も遊びに来ていたので、くちばしてコンコンすると、ママはすぐに気が付いて、窓を開けてくれました。

「チュッチュちゃん、いらっしゃい!あら、今日はなんだか、良い事があったみたいねぇ。」

 ママにも、顔つきや仕草で、それが分かるようです。チュッチュは、「そうなの!ずっと行きたかった駅まで、お友達に連れて行ってもらえたの!」と言って、翼をパタパタして見せました。

 ママには、チュッチュが何と言っているのか、分かりませんでしたが、

「そうなのぉ~。良かったわねぇ!」と、にこにこ笑ってくれました。そして、

「ほら、子ども部屋に行ってこらん。今日は花さんとメイにも、とっても良い事があったんだよ。」と言って、天井を指差しました。


 そこで、チュッチュはママにバイバイをして、外から二階に飛んで行きました。

 子ども部屋の窓辺に下りて、中をのぞくと、すぐに、窓際のテーブルに、昨日までなかった、大きなピンク色のハムスター用のケージが一つ、載せてあることに気が付きました。

 紗矢と真琴が、ゆいたんとるきあを抱っこして、そばに立って、中を面白そうにのぞき込んでいます。


 そのケージは、三階建てになっていて、上階にははしごや透明なスロープで上れるようになっていました。

 一階には回し車が大きいのと小さいの、二つ取り付けてあって、二階には人間の家にそっくりな立派な建物が二軒も並んで立っていて、三階は、透明な板で下も見下ろせる、広々としたロフトになっていました。


 ロフトで花さんとまわりを見まわしていたメイが、窓の向こうで嬉しそうに鳴いているチュッチュに気が付いて、「キュッキュ!」と鳴いて、紗矢たちに教えました。

 それで、紗矢は窓を開けてくれて、「いらっしゃい!ちょうど良かった。今、花さんとメイの新居のお披露目会をしていたんだよ。」と言いながら、チュッチュを部屋に招き入れてくれました。


「わぁ!いっしょに暮らせるようになったのね!おめでとう!それに、なんて素敵なお家なの!」

 チュッチュは真琴の肩にとまって、幸せそうなふたりにお祝いを言いました。


「ありがとう!回し車は、大きいのも小さいのも、どちらも使っていいんだよ!花ちゃんが良いって言ってくれたの!」メイが、目を輝かせて言いました。

「うん!大きい方は、一緒にも回れるの!」花さんも、いつにもまして弾んだ声で、たいそう嬉しそうです!


「いいにゃあ。くるくるま、あたしもやってみたいにゃ~。」珍しもの好きなるきあが、触ってみたそうに前脚をちょいちょい動かしながら言いました。

「紗矢ちゃんと真琴ちゃんに、お願いしてみようよ!きっと猫用のを買って来てもらえるよ!むりだよ~って言われたら、一緒に〝すとらいき〟しよ!」ゆいたんも、回し車をすごくやってみたいようで、物騒な事を言っています。


「ちょっと話したい事があるから、聞いてくれる?」

 ひとしきり、花さんとメイの新居のお披露目会が済んだところで、カーペットに座った紗矢が言い出しました。

 動物たちと真琴は、何事だろうと紗矢の周りに集まって座りました。

「今日学校の図書室でね、この町の歴史が書かれた本がないか、探してみたの。」

「ああ、それで帰りの時に、図書室にいたんだね。」真琴が納得します。

「うん。で、どうしてそういう本を探したかというと、ほら、天使たちを天上に帰した晩、不思議な事が起こったでしょう?」

「ゆいたんが空を飛んだよ!」メイがすぐに思いついたので、みんなもその事かな、と思いました。

「天使たちの力が足りなくて、元の大きさに戻れなさそうってなった時、るきあが叫んで、そしたら、バアーッと稲光がサトウカエデの木を駆け登って、それで、天使たちは元の大きさに戻る事ができたっていう、あれよ。」

「それは、るきあの神通力のおかげだったんでしょう?」真琴がたずねます。

「私も、初めはそうだと思っていたんだけど、家に帰った後、るきあが一生けんめい神通力を再現しようとがんばって、できないでがっかりしているのを見てたら、どうしてあの時だけ、すごい力が出せたんだろうって、疑問に思えて来たの。」

「やっぱりあたしの力じゃなかったのにゃ……。」るきあがちょっと残念そうにつぶやきました。

「でね、シュガー・マウンテン自体が、特別な場所で、るきあの力に助力してくれたんじゃないかな、と思って、そういう記録がもしかしたら残っているかもしれないと、歴史の本を探してみたってわけ。」

「うわ~。お姉ちゃん。さすがパパの子だ。」

「まあね。で、見つけたの。かなり昔の事まで書いてある、この町の歴史の本を。」


 動物たちも真琴も、すっかり紗矢の話に引き込まれて、身を乗り出して聞いています。

「シュガー・マウンテンにまつわる歴史も、ちゃんと書いてあってね、それによると、1928年に、大嵐が来て、山頂のサトウカエデの木に、雷が落ちた事があったんだって。木には、てっぺんから根元まで、大きく裂け目が入って、誰もが、もうだめだろうと思うくらい、はげしく傷ついてしまったの。でも、当時から町のシンボルだった立派な木だから、何とか助けてあげたいっていう人も、多かった。そういう人の中に、植物の研究をしていた、一人の大学生がいたの。彼は、傷んだ木を治療する方法を、色々調べたり、農家に聞いて回ったりして、少しずつそれを実践して行ったの。初めは、効果があるのかないのか、よく分からないし、腐った枝が切り落とされて、どんどん弱々しい姿になって行くものだから、この木を愛していた人たちも、『余計な事をするな!』と怒って止めさせようとしたりしたのだけれど、大学生は、根気強く治療をしながら、それから何年も、毎日欠かさず山に登って来ては、木の状態を見守り続けたの。すると、五年目に、とうとうその甲斐あって、サトウカエデの木はだんだんと樹勢を取り戻し始めて、十年目には、すっかり以前のように、たくさんの葉を茂らせる、元気な木に戻る事ができたの。その大学生は、その頃には、真面目さや仕事熱心さを町の人たちから評価されて、農業学校の校長先生を任されるようになっていたんだって。」


「ふえ~。それじゃあ、あの稲光は、サトウカエデの木が、人間に助けてもらったお礼に、出してくれたものなの?」

 目をまん丸にした真琴が、たずねました。

「はっきりとは分からないけど、サトウカエデの記憶が、るきあの願いや神通力と合わさって、天使たちに力を与える稲光を発生させてくれたんじゃないかな、と、私は想像してる。」

「木にも気持ちがあるんだねぇ。」ゆいたんが、ほわんとした調子で言いました。

「今度シュガー・マウンテンに行けたら、ぜったいサトウカエデの木にお礼を言うにゃ!」るきあが、自分の前脚の肉球を見つめてから、頭上にかかげて言いました。

「サトウカエデに住んでるマップちゃんなら、お話しできるかもしれないよ。」

 メイが言うので、花さんが、「木と?」と首をかしげました。

「だって、僕らが人間とお話しできたんだから、木とだってお話しできてもおかしくないよ。」

「そっか!そうだよね。天使ちゃんたちがいたら、できるかもしれない!」

「うん!天使ちゃんたちが来て、木ともお話しできるようになったら、きっともっと面白いよ!」

「天使ちゃんたち、元気かな。また会いたいなぁ……。」チュッチュが寂しそうにつぶやきます。

「会いたいよね~。やっぱり、大天使様から、行っちゃだめって、言われたのかなぁ。」真琴がカーペットに寝そべって、頬杖をつきながら答えました。


「ん?」


 紗矢と真琴、それに動物たちが、いっせいに顔を見合わせます。

 るきあの二又のしっぽが、かすかにビビビっと、反応しています。


 どうやら、この分だと、面白い事は、まだまだ続きそうなのです。









【読者の皆様へ、ゲームマスター(主筆)よりお礼の言葉】


天使たちと小動物たち、そして、佐藤家のみんなの冒険に、最後までお付き合い頂き、誠にありがとうございました。


連載冒頭でもご説明した通り、この作品は、プレイ・バイ・ウェブという、読者参加型の執筆手法で作成された物語です。


六名の参加者さんがそれぞれのキャラクターを動かす分、一人の作者が全てを書き上げる小説に比べて、話の展開に意外性の面白さがある事に、気付かれた方もいるのではないでしょうか?


私が特に好きなのは、小動物と天使たちが、書斎でお昼寝をする事になる、という展開です。

もし、私一人で書いていたら、きっと天使たちを脱出させる事にばかり気を取られて、もっととんとん拍子に物事を進めてしまっていた事でしょう。


それが、参加者さんのアイデアで、ピンチの場面でみんなでお昼寝をする事になった事で、小動物らしい、のんきさや気ままさも感じられる物語にする事ができたのです。


キャラクターの会話文も、参加者さんが考えた個所は、その方の性格や個性が出ていて、新鮮で生き生きとしています。


主筆として執筆にたずさわった分、ひいき目もあるかもしれませんが、全体的に、プレイ・バイ・ウェブの楽しさが表れた、とても素敵な作品に仕上がったと思います。


そういう、思い入れのある作品なので、参加された方以外の方に読んで頂けると、なおのこと嬉しいのです。


天使たちや小動物たちも、きっと同じ気持ちでしょう。


あらためまして、一緒に冒険して頂き、誠にありがとうございました!



Kobito





プレイ・バイ・ウェブの制作過程が知りたい方は、以下の活動報告とコメント欄をご参照ください。


第1話~第5話くらいの制作過程

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1054237/blogkey/2867514/



第6話~第7話の制作過程

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1054237/blogkey/2878935/



第8話~第9話の制作過程

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1054237/blogkey/2885137/



第10話~第11話の制作過程

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1054237/blogkey/2896542/



第12話~第13話の制作過程

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1054237/blogkey/2905082/



第14話(最終回)の制作過程

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1054237/blogkey/2915717/




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― 新着の感想 ―
[良い点] いやーーもう! いい後日談ですね! 蘇ったサトウカエデ! いいお話です! 会話できるとしたら何て言うんでしょ!? [一言] 楽しい時間をありがとうございました! うさたんとハッシュの昭和感…
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