第11話 「うさたん&ラクたんの栗パーティ」
ひとまず、深呼吸をした紗矢が、「みんなと話せるようになって、すごく嬉しいよ!ただ、この状態がずっと続くかは分からないから、できれば、今すぐに伝えておきたい大事な事を、一匹ずつ聞かせて。」と言いました。
みんなは、誰が一番に話すか、お互いを見合って躊躇していましたが、真琴のリュックの中から、「出して~。」という声が聴こえたので、「るきあちゃんを出してあげて!」と口々に言いました。
真琴がリュックを下ろして、口を開けてやると、るきあはふらふらと外に出て来て、木々だけでなく地面まで紅葉に染まった山の頂上の美しい景色を、まぶしそうに見渡しました。
そして、「ふにゃぁ~。わたあめちゃん家のお山に、ついに来たんだ~!クリスマスのピカピカの星飾りみたいに綺麗だにゃ~。」としみじみつぶやきました。
「わたあめちゃんって?」真琴が聞きました。
「真っ白ふわふわまふまふの、わたあめちゃん!ほら、ハッシュちゃんのところに時々遊びに来る。真琴ちゃんもたぶん見た事があるよ!」
「ああ~。あのめちゃくちゃ強い白兎!」真琴がすぐに気が付きました。
「ここに、その、わたあめちゃんのお家があるの?みんなは、わたあめちゃんのお家を目指して、ここまで来たの?」紗矢が質問します。
「そうだよ!」「ちがうよ!」みんなが待ちきれずに返事しましたが、なぜだか答えが一致しません。
「わたあめちゃんというのは、るきあちゃんが付けた愛称なの。本当の名前は、うさたんっていうの。」チュッチュが一歩前に出て説明をしました。そして、
「天使ちゃんたちを守ってくれて、一緒に行動してくれて嬉しかった!ありがとう!」と、真っ先に伝えたかった感謝の言葉を伝えました。
「こちらこそ、言葉が通じない時も、がんばって気持ちを伝えようとしてくれて、ありがとう!すごく助かったし、おかげでここまで来る事も出来たよ!」紗矢がしゃがんでお礼を言いました。
ハムスターたちを背中に乗せたゆいたんが、紗矢のそばに来て、
「いつも、美味しいおやつをくれてありがとう~!明日は、チュッチュちゃんがお家に遊びに来るの!みんなでねこじゃらしで、遊ぼうね!」と、紗矢のひざに頬をすり寄せながら言いました。
「ええと、チュッチュちゃんというのは、この家雀の事だよね。うん、みんなで遊ぼう!」紗矢がゆいたんの頭をなでながら答えます。
「いつも、ひまわりの種をたくさんくれて、ありがとう!それから、僕も、ねこじゃらしする!」メイも元気に気持ちを伝えます。
「うんうん。一緒にやろうね!」紗矢がメイのひたいをなでながら返事すると、真琴が、
「ひまわりの種、巣箱じゃなくてロフトに貯めてるけど、どうして?」と質問しました。
「たくさんたまったのを、お姉ちゃんたちに見てほしいから!」
「そうなんだ!」真琴が納得して、紗矢と笑い合いました。
「花ちゃん、言いたい事があったら、今言った方が良いよ!」メイからうながされた花さんは、いったん恥ずかしくてゆいたんの毛並みに顔をうずめましたが、しばらくするとそっと上を向いて、紗矢と真琴を見上げながら、小さな声で、言いました。
「いつも、優しくしてくれて、お世話をしてくれて、ありがとう!」
「こちらこそ、いつも遊んでくれて、癒してくれてありがとう!花さんも、天使たちを守るために、すごくがんばったね。えらいよ!」紗矢からほめられて、花さんはまた顔を、今度は嬉しそうにゆいたんの毛並みにうずめました。
るきあは、どんな気持ちを伝えればいいか、一生けん命考えていましたが、そうだ!と思い立って、真琴のひざに駆け寄ると、前脚を乗せて立ち上がり、
「あたしを家族にしてくれて、ありがとう!」と言いました。
真琴は、かわいくてたまらないというように、るきあをギュッと抱きしめると、「こちらこそ、私たちのうちに来てくれてありがとう~!」と言いました。
「さあ、いつまでもお礼を言い合っていたら、日が暮れちゃうよ。天使ちゃんたち、事情を説明してくれる?」脱線した話を元に戻そうと、紗矢が近くで嬉しそうにみんなの様子を見守っていた三人の天使たちに頼みました。
そこで、ナナエルが代表して話し出しました。
「私たちはそれぞれ、ナナエル、キキエル、ママヌエル、っていう名前なの。天上で、大天使様のお祝いの宴の準備をしていたのだけれど、『小さくなりたくない者は、開けないで!』と書かれた小瓶を開けてしまった事から、体が小さくなって、飛ぶ力が弱くなって、天上から地上に落ちてしまったの。でも、天上に近い場所で、天上からの力を受け取れば、元の大きさに戻れそうだったから、私たちはここらで一番高さのある、うさたんのお家があるこの山に来ようとしていたの。」
「なるほど、じゃあ、さっきの合唱や、体が光ったのは、元に戻るための儀式みたいなものだったのね。」
「そう、失敗しちゃったけどね。」ママヌエルが残念そうに言います。
「でも、人間と言葉が通じるようになったのは、力がだいぶ戻って来た証拠でもあるわ。」さっきより前向きになったキキエルがつぶやきました。
「とすると、もっと高い場所に行けば……、あら、ちょっと、るきあ、どこに行くの?」紗矢が、ふらふら歩いてみんなから遠ざかりはじめたるきあに気が付いて、声をかけました。
「ふわふわ、まふまふ、あまあまの匂い~。わたあめちゃんのお家の匂い~。」
るきあの言うように、どこからか、甘い匂いがただよって来ます。
「おやつの匂いだ~。私も行く~。」ゆいたんもるきあの後を追って駆け出したので、紗矢と真琴も、天使たちやチュッチュをリュックの上に乗せて、とりあえずついて行ってみる事にしました。
メイは、うさたんの姿をまだ見た事がなかったので(子ども部屋の窓の外にうさたんが来たときは、ちょうど壁の陰になって見えなかったのです)、うさたんってどんなうさぎなんだろうと、想像してみました。
『あの乱暴で大きな大きなハッシュと闘えるなんて、世の中にはすごいうさぎがいるんだなぁ!うさたんはもしかして、ハッシュと同じくらい大きいのかもしれないな。』
メイは、以前、人間の子供たちが両腕を広げながら、「こーんなに大きなうさぎがいるんだって!」と言っていたのを覚えていたのです。そんなに大きなうさぎなら、犬とだってやりあえるでしょう。メイが知っているうさぎは、佐藤さんのお家の子になる前に見たことのある、人間の両手におさまるような生き物です。ハッシュが相手ならひと飲みにされてしまうでしょう。ましてや、闘いの相手になどなりそうもありません。
これからそんなすごいうさぎに会えると思うと、メイはワクワクした気持ちが止まりませんでした。
るきあがみんなを先導して、登山道を少し下って、わきにあったけもの道の奥の、ラズベリーの茂みに分け入ってみると、そこは落ち葉がきれいに掃き払われた空き地になっていて、今まさに、うさたんがちらちら燃えるたき火のそばの石に腰かけて、暖を取っているところでした。
「よう、来たな。おうおう、やたら大勢で来たもんだなぁ。」
「わ・た・あ・め・ちゃ・ん!」あこがれのうさたんを前にして、るきあは感激のあまり、二本足で立ちあがってしまったほどでした。
もし、これまでの道中でくたびれ果てていなければ、おそらくうさたんのふわふわまふまふのしっぽに、一直線にかぶりついてしまっていた事でしょう。
あぶない所でした。
うさたんは、ハムスターたちを背負ったゆいたんに続いて、紗矢と真琴が草むらから現れたのを見て、「キュッ!」と叫んで飛び上がると、すぐさま逃げ出そうとしました。
でも、
「待って!この子たちは大丈夫だよ!」という声が後ろからしたので、ふり返ってみると、真琴のリュックにつかまっていたママヌエルが、他の天使二人と一緒に、手を振っているではありませんか。
「いったいどういう事だい?人間に見られちゃいけないなんて、君も言ってたくせに。」
うさたんは、おっかなびっくり、たき火のそばに戻って来て、ママヌエルに聞きました。
「そうなんだけど、この子たちのおかげで、ハッシュを気にせずに佐藤さん家から出られたし、シュガー・マウンテンにも来る事ができたんだ。とっても優しくて親切な人間なんだよ。」
「そう、私たちは優しいから大丈夫だよ。」真琴が口をはさみました。
「いくら優しいって言っても自然界には掟というものがあってだな……、まあ、言っても人間には通じんだろうが。」
「通じるよ。うさぎの言葉も分かるもん。」
「え?」
うさたんはあまりの驚きに言葉を失いました。
人間が、うさぎの言葉を理解して、返事をするなんて、あり得ない事です。
「何あれ!なんか、動物がしばられてるよ!」その時、紗矢が、たき火にほど近い木の根元に、たぬきくらいの大きさの動物が、ツタでくくり付けられているのを見つけて、叫びました。
その動物は、よく見ると、パンダみたいな黒いたれ目の模様が顔にある、ラクーンでした。ラクーンは、木にくくり付けられている事を別段苦にする様子もなく、愛嬌のあるくりくりした目でほほえみながら、
「ようこそ、うさたん&ラクたんの栗パーティーへ!!」とほがらかな声で言いました。
ちょうどその頃、シュガー・マウンテンのふもとの駐車場に、佐藤家のパパとママの乗った車が、到着しました。
ママは、紗矢と真琴のオーバージャケットを抱えて車から降りると、すぐに、駐輪場に二人の自転車が止めてある事に気が付いて、「パパ、来てるよ、二人とも!」と言いました。
「上にいると思うけど、登ってみようか。」パパも車から降りて、山を見上げながら話していると、駐車場で立ち話をしていた若い男女が、何か言いたい事があるらしく、遠慮がちに歩み寄って来ました。
それは、山頂で紗矢たちに声をかけてくれた、あの優しいカップルでした。二人は、下山してからも紗矢たちの事が気がかりで、下りてくるまで、待っていてあげようか、と、相談していたのです。
「女の子たちのご家族ですか?」エリオットがたずねます。
「はい、そうです。見かけましたか?」パパがたずね返すと、今度は彼女が、
「ええ、頂上にいますよ。ゆいたんたちと一緒に。行ってあげて下さい。」と、ほほ笑みながら答えました。
パパとママはほっとして、何度もお礼を言うと、二人と分かれて、さっそく登山道を登り始めました。
「こんなところに、動物たちを連れて、何しに来たんだろう。家出にしても、変だよね。」ママが、車の中で繰り返した疑問を、また口にしました。
「だから、コロポックルを住みかに返すために、連れて来たんだと思うよ。動物たちも協力してさ。」パパも、何度も話した推測を繰り返しますが、ママは、
「ねえ、冗談めかしてないで、ちゃんとしかってよ。ここは日本じゃなくて、カナダなんだから、ルールは守らないと駄目でしょ!って。」と、全く意に介そうとしません。
「分かってるよ。でも、君だってコロボックルの脚を見たんだろう。なんで信じないの?」
「あれは……、見間違いかもしれないし。」
「見間違いじゃないって言ってたじゃないか。君、目が良いんだし。」
「どっちでもいいのよ!今は紗矢と真琴の事でしょ!」
二人は、こんな話をしながら、駆け足でぐんぐん登山道を登り続けました。
そのかいあって、息はずいぶん切れましたが、早くも階段の終わりが見えてきました。
山頂に着いたパパとママは、柵で囲われた広場を見渡してみましたが、人の姿は見当たりませんでした。
そこで、「紗矢!真琴!」と、二人で大声で呼びかけてみると、少し山を下ったあたりから、「はーい!」という返事が、かすかに聴こえました。
そこで、今度は登山道を下りながら、二人の名前を呼び続けると、わきに延びるけもの道の先の方で、「ここだよ~。」という声が聴こえたので、パパとママは、つまづかないように手を取り合いながら、その緩やかに下る小道をたどって行きました。
ラズベリーの茂みをかき分けて、向こうに出ると、そこはきれいにならされた空き地で、紗矢と真琴は、ゆいたんとるきあ、メイと花さん、家雀、白兎、そしてラクーンという、野生の動物たちも交えた生き物たちと輪になって、たき火を囲んで、静かに暖を取っているところでした。
ママはすぐに、「紗矢!」と言って、怒ろうとしましたが、パパが「待って。」と手で制して、「仲間に入れて、もらえそうかい?」と、紗矢に聞きました。
「分からない。でも、座って。あとでうんとしかっていいから、今は怒らないで。」と紗矢が言うので、パパはママにうなずいて見せて、しぶしぶ承諾したママと一緒に、紗矢と真琴の隣に腰を下ろしました。
「どこまで話したかな。」
聞きなれない声がしたので、パパとママは、ぎょっとしてあたりを見回しました。
紗矢が、白兎を見ながら、「ラクたんが栗を勝手に食べようとしたってところだよ。」と教えました。
そこで、白兎のうさたんは話し出しました。
「俺も油断していたんだが、まさか焼く前の栗に手を出すとは、意表を突かれたね。たき木を集めてここに戻ると、ラクたんがすでに二、三個頬張って、もぐもぐしてるじゃないか。『しっかり熟しているか、確かめてるだけだから。』なんて言うが、もう許さん。追い回して、客が来るまで、木に縛り付けておいた、ってわけさ。」
みんなは、くつくつ笑いながら、うかがうようにラクたんを見ました。
ラクたんは、あまりこりた様子もなく、「自分の性のあらがい難さが、つくづくうらめしいよ。みんなも気を付けたまえよ。一番信じがたきは、欲に向き合った時の、おのれ自身なのだと!」と、いかにも詩人らしく、もっともな事を言いました。
「動物がしゃべってる!」ママが紗矢のわきをつついて、ひそめた声で言いました。
「そう、ここでは動物の言葉が分かるの。たぶん、ここだけ、この時だけだよ。だから、ママも大事にして、ね。」
ママは動物たちの視線が集まっている事に気が付いて、こくりとつばを飲み込みました。
「そろそろ栗焼けたかな。」るきあが、たき火に目を戻して、待ちきれなさそうに言いました。
あたりには、栗の焼ける甘い匂いが、いっぱいにたちこめています。
「栗食べるの初めて。早く食べたーい!」ゆいたんも、るきあのとなりでそわそわ、うきうきしています。
「ラクたん、どうだい?」うさたんがたずねます。
「ちょっと出して食べてみようか。」ラクたんが、枝でたき火をつついて、何個か栗の実をかき出しました。
「冷めるまでちょっと置いとこう。こう寒いと、すぐに冷めるよ。」
真琴が、「ほいきた!」と言って、手袋をした手で栗の実をつまんで、手早くそばの石の上に置きました。
花さんは、初めて見たうさたんに、ドキドキして、いまだにメイの後ろに隠れていました。お姉ちゃんたちの話から、あのハッシュとケンカをよくしているうさぎさんだということを知っていたからです。
メイが、「思ってたより、大きくないうさぎさんだったね。」と、ささやくと、花さんは、「うん……。」とまだ怖そうにつぶやいて、ちらっとうさたんの方を見ました。
すると、栗の良い匂いに誘われて、花さんのおなかが、「ぐぅ……。」、と鳴りました。
メイにしか聞こえないくらい、小さな音でしたが、花さんはとても恥ずかしくて、さらに小さくなってしまいました。
るきあが急に、きょろきょろし始めたので、ゆいたんが「どうしたの?おトイレ?」と聞きました。
「栗に夢中で、わたあめちゃんの、お家の事を忘れてたの。ふわふわ、まふまふ、あまあまのお家……。」
「俺の家?そこだけど。」
そう言って、うさたんが指差す先の地面には、うさたんがぎりぎり入れそうな穴が開いているだけでした。
るきあは大そうがっかりして、
「そんな~。ふわふわ、まふまふ、あまあまのお家が~。」と、悲鳴のような声を上げました。
「いや、そんな家だったら、みんなから食べられちゃうだろ。それに、巣穴の家も、意外と見つかりにくくて、広さも自由に決められて、いいもんだぜ。」
それでも、るきあがしゅんとしてしまったので、うさたんは、「ほら、栗が冷めたぞ。一番に食べなよ。ふわふわ、まふまふ、あまあまの家より、たぶん美味しいよ。」と、爪で皮を割ってくれて、渡してくれました。
るきあは、想像の家より美味しいはずはない……と思いながら、口に含んでみたのですが、すぐにピーンと耳を立てて、
「あま~い!!ほろほろ、ほくほく、うまうまにゃ~!」と、大喜びで小躍りしはじめました。
みんなも、そんなに美味しいのかと、我も我もと、手を差し出して欲しがりました。
「よしよし、次からは、小さい者から順番な。他のもどんどん焼けるから、待ってろよ。頼むぞ、ラクたん。」
「うん。絶妙の焼き加減にするには、熟練の見極めがいるのだよ。」ラクたんの、栗をかき出す手際がいっそうテキパキしてきました。
次に皮をむかれた三つの栗は、食べやすいようにくだいて、メイと、花さんと、チュッチュに配られました。
「甘ーい!おいしい~!」チュッチュは、木の実のたぐいは以前から好きなのですが、栗自体、食べるのは初めてでしたし、こんなに味の濃い、美味しい木の実は、生まれて初めて食べました。特に、焼いた木の実が、これほど甘くて美味しくなるなんて、驚きです。
メイと花さんも、
「花ちゃん、山に来てよかったね!」
「うん!」
と言いながら、並んで座って、夢中で食べています。
どうやら、花さんのうさたんへの不安も、美味しい栗の実をもらえた事で、やわらいだようです。
次の四つの栗は、ゆいたん、うさたん、真琴、紗矢に配られました。
ゆいたんも、一口食べてすぐに、この木の実の味と香りが、好きになりました。
「栗ってこんなに甘いのね~。木になるお菓子ね。」
「生の栗だと、好き嫌いが分かれると思うよ。焼くとだんぜん甘くなるからな。」
もぐもぐ頬張りながら、うさたんがうれしそうに解説しました。
「ほんとに甘~い!こんなに美味しい栗、初めて食べた。」
「モンブラン食べてるみたい!」
紗矢と真琴も、大絶賛です。
「あせらずじっくり焼く事で、甘味が存分に引き出されるのだよ。」
ラクたんが、鼻先のすすをぬぐって胸を張ります。
そして、次の二つは、ラクたんから、パパと、ママに差し出されました。
二人はとまどって、少しの間ためらいましたが、気の良さそうなラクたんから、「どうぞ。」とうながされて、ようやく「どうもありがとう。」と言って、受け取りました。
動物たちも、それを見て、少しほっとしたようでした。
紗矢がこっそりうかがってみると、ママは「あら、美味しい。」なんて言って食べながらも、相変わらず、不安そうな顔をしていましたが、パパは、黙ってもぐもぐ食べてはいますが、案外楽しそうな顔をしていました。
続いて、ラクたんは皮をむいた三つの栗を、真琴に渡しました。
真琴は、パパとママがよそを向いている時を見計らって、それをわきに置いたリュックに入れました。
でも、パパはちょうど、ふり返った拍子に、それに気が付きました。リュックの口から、小さな手が出て、栗の実を受け取ったところも、はっきりと見たのです。
パパは真琴に聞こうとしましたが、そこで、チュッチュが、パパとママの前に出て来たので、そちらに顔を向けました。
「あの、私、チュッチュというの。紗矢ちゃんや、真琴ちゃんや、猫ちゃんやハムスターちゃんたちと、お友達になってもらったばかりなのだけれど、もし、良かったら、パパとママにも、お友達になってもらいたいの……。」
パパとママは、顔を見合わせました。
小鳥から、友達になってほしいなんて頼まれたのは、生まれて初めての事だったからです。
でも、小鳥の好きなママが、すぐに言いました。
「ええ、こちらこそ、友達になってほしいわ。そして、時々家に遊びに来てほしい!」
チュッチュは、パッと明るくなって、
「実は明日、ゆいたんに誘われて、お家へ遊びに行く事になっていたの。もし、私が窓をコンコンしたら、開けてもらえる?」と聞きました。
「もちろん!どこの部屋に私がいるか、探して、コンコンしてね。必ず、開けてあげるから。」
「わあ!うれしい!ありがとう!」チュッチュはちょんちょん飛び跳ねてから、今度はパパの返事を聞こうと見上げました。
「友達にしてくれて、すごく嬉しいよ。いつでもおいで。」その言葉に、チュッチュは、「ありがとう!うれしい!」と言って、またピョンピョン飛び跳ねました。
読者の皆さんへのお知らせ。
第10話までは、活動報告版の文章を若干手直しして投稿していたんですが、リアルタイムに生み出された文章の、生き生きとした感じが損なわれてしまうように感じたので、今後は活動報告に掲載した本文を(誤字脱字など必要不可欠の修正がない限りは)、そのまま連載版に用いたいと思います。
気持ちが高揚している時に書いた文章が持つ雰囲気って、簡単には真似できないですからね。
手を入れない勇気も、必要です。





