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久地部えむりに関する報告

 久地部(くちぶ)えむりは、口笛が吹けない。

挿絵(By みてみん)


「クチビル尖らせすぎじゃない?」


「息を強く吹きすぎなのかも」


「舌を下の歯にくっつけて」


「唾を飛ばすな」


 友だちが色々なアドバイスをくれたが、えむりの口から笛の音が鳴る気配はまるでなかった。


『えむりのクチビルは何か構造的な問題を抱えている』という説が有力視されはじめ、みんなは彼女に口笛を吹かせるのを諦めてしまった。


 えむりは、その後もひとりでしばらく練習を続けたが、やがて口の周りの筋肉が疲労によりプルプルしだしたので、結局彼女も吹くのを諦めた。




 その日の夜。えむりは布団のなかで『口笛誕生の歴史』を考えた。


 口笛とは何か。口から笛のような音を出す技法である。

 昔、笛を吹きたいのに貧乏で笛を買えなかった男が、なんとか口から笛の音色を出そうと努力して、成功した。

 その技法は笛を買えない貧しい人たちの間で流行し、遺伝子を通じて現代まで継承された。

 お金持ちは笛をいつでも買えたから、口笛を吹く技法など必要なかった。だから子孫にもその技法は継承されなかった。


(私の祖先は、きっと貴族だったのよ。だから私は口笛が吹けない口をしているのだわ)


 彼女はそんなストーリィを思い描きながら、寝た。

 この日えむりは、誰よりも美しい音色の口笛を吹き、友だちから「えむりちゃんスゴい」「えむり天才」「クチビルゴッド」などと称賛される夢を見た。


 口笛が吹けなかったことがよほど悔しかったのだろう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今回は共感系なあの子ですね。 えむりさんの気持ち分かります。 私は口笛が吹けるつもりで吹いておりましたら『全然吹けてないじゃん』と言われました。 『そんな事はない』と改めて吹いてみせようと…
[一言] 私も口笛、吹けないです。 ですが、父は吹けます。あまり吹いてないですけどね。 だから、遺伝子とか関係あるのか……と突っ込みたくなる想像で笑いました。 学校では口笛禁止ですね。 なんでだろう。…
[気になる点] 口笛が吹けない人は、どうやっても音が出ませんよね... 私は楽器全般が苦手ですけれど、口笛はできます。 指笛ができません。 たぶん指笛は、指を楽器にするからだと思います。
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