嬉々戸奇々に関する報告(後)
【前回のあらすじ】
嬉々戸奇々が増えて、ふたりになってしまった。
でもしばらくすれば元に戻るらしいと分かったふたりは安心し、遊びだす。
嬉々戸奇々は、もうひとりの自分と見つめあっていた。
鏡に映る自分とか、写真に写っている自分を見るときとは、まったく異なる不思議な感覚がそこにあった。
【参考画像▽見つめあう奇々と奇々】
「ねぇ・・・」
「な、なに・・・?」
「いま、なに考えてる・・・?」
「たぶん、あなたと同じこと・・・」
奇々は、もうひとりの自分に魅了されていた。自分とまったく同じ顔を持つ少女に。
潤いに満ちた瞳。まんまるの鼻と、鼻の穴。桜色に染まったほっぺ。瑞々しく光る唇。ほのかに感じる息の匂い。
すべてが愛しかった。
幼すぎず、しかしまだやっと熟し始めたばかりの彼女たちの未発達な心と心、未成熟な身体と身体の距離が加速度的に零に近づいていくのは必然であった。
自体愛、自己愛、対象愛。全ての段階的衝動を満たしてくれる究極の他者、『もうひとりの私』が目の前にいるのだから。
「手、繋ごっか・・・」
「うん・・・」
(あったかい)(やわらかい)
((きもちいい))
「ギューってしていい・・・?」
「うん・・・」
(うれしい)(やさしい)
((しあわせ))
「キス、しちゃおっか・・・?」
もう少し。もっと。ぜんぶ。
理性が消えていく。ブレーキが壊れていく。
アキレスは永遠に亀に追い付けない。
少女の心は永遠に満たされない。
唇が重なりあう寸前、テーブルに置いてあったスマホが震えた。
彼女たちの意識がスマホに流れたその刹那、片方の奇々が消滅した。一瞬だった。
状況が飲み込めない奇々は茫然としながら手のひらを見つめた。
彼女を抱きしめていたはずの、手。
少し間をあけて再びスマホが震え出し、着信音が鳴った。母親からだった。
「あ、ママだけど。あなた達まだふたりで遊んでるの?今晩カレーなんだけど、ふたり分必要かしら?」
「ひとり分で大丈夫・・・」
「そっか。もう消えちゃったのね」
「うん・・・」
電話を切り、部屋を見渡す。愛しい彼女はもういない。
手のひらにあと少し、あの子の柔らかい感触が残っているのみ。
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調査の結果、今回の現象は五次元揺らぎと呼ばれるイレギュラー、時空間の局所的捻れが原因であると断定された。
数秒、長くて一分ほど未来の世界から、あるいは過去の世界から現在の世界に人が一時的に転位してくるこの現象は、奇々の母親が言ったように『たまにある』ことであり、心身が充分に成長していない子どもに当現象が起きた場合の影響は甚大である。
あと五分、捻れが続いていたら。
彼女たちはきっと、ここではとても報告できないような組んず解れつ状態になっていたに違いない。
いや、ホント、ギリギリセーフでしたよ。




